射殺
俺の名前は上山田富弘。
ソシャゲ界隈では「上山田」で通じるくらいの
超有名プロデューサーだ。
匿名掲示板は、イケメンの俺の話題で常に持ちきりだったし
俺の担当するソーシャルゲームも年商二百億を稼いでいた
会社の看板で、超有名ゲームだ。
そう、稼いで"いた"のだ。
何が不満なのか分からないが
クソユーザー共が、匿名掲示板で俺のゲームに対する
不満を垂れ流して、「ガチャ詐欺」や「サ終(※サービス終了の略)」
を連呼して人気を落とし
時には嬉々として、消費者庁に集団でネット通報しやがって
いつの間にか俺の担当する
「ドラゴンズドリームアークシンフォニック」は
悪評が祟り、年商がたった三十億まで落ちてしまった。
とはいえ、早とちりのカス共が言うような
サービス終了ラインではまだまだない。
ゲーム自体は十分黒字だし、あと三年は余裕で続くだろう。
しかも、うちの会社は業界大手で
天下りも多数受け入れているので
官公庁にいくら通報されようが、裏から手を回して
穏便に治め、ビクともしないのだ。
それに当然、ゲームのガチャはうちの法務部に相談しながら
実装している。絶対に法律上の詐欺にならないように
グレーゾーンを攻める。それが稼ぐ秘訣だ。
正義感溢れる、無職のガキどもはわかんねぇだろうな。
大人の世界だ、それがな。
だが、個人的には色々と問題を抱えている。
会社内では社長に継ぐ、超VIP待遇だったこの俺が
年商が落ちるごとに、会社内で脇に追いやられて行き
俺より役職が下の同期にも
仕事の自慢話をすると、鼻で笑われる始末。
それは我慢ならなかったので
俺は、俺のゲームの年商がまだ九十億あった二年前から
新たなプロジェクトを進めていた。
そう、ドラゴンズドリームアークシンフォニックの
HDゲーム化だ。最新鋭の据え置きゲームを作ったわけだ。
最高のシナリオライターを雇って
わが社のゲーム部門の総力を注ぎ込んで
造り出した「ドラゴンズドリームアークシンフォニック・シンドローム」
と銘打ったその据え置き新作は、ゲーム誌には大量の広告を打って
レビューの高評価も勝ち取った。
俺の神プロモーションの手腕で
ユーザーからの前評判も上々だった。
しかし、いざ発売したそれは、バグが大量に入っていて
長いロードも頻繁に入り、まともに遊べる代物では無かった。
クソが!ディレクターの下田代に任せっきりで
殆ど現場に行かなかったのが裏目に出たようだ。
発売後には、大手通販サイトのレビューに☆1が並び
その年の年末には、とうとう、クソネットユーザー共が
勝手に選ぶネットのクソゲー大賞まで受賞してしまった。
ちなみにポケットマネーで高い金払って
妨害工作会社を雇い、
そのクソゲー大賞のスレッドを荒らしまくったが
火に油を注ぐ結果になり無意味だった。
工作会社の代表に詰め寄って、料金を半額以下に割引させたのは
言うまでもない。
そこからは、本体であるソシャゲの方も
凄まじい速度で年商を落としていき
さっき言った通り
かつて二百億あった年商が今や三十億だ。
クソゲープロデューサーという不名誉な称号と
大人気ソシャゲを凋落させた無能として
俺はネットのクソどもに年中嘲笑われることになった。
とはいえ、俺には学生時代に武道やスポーツを幾つもやって
鍛えた鋼のメンタルがある。生徒会の役員も経験しているし
学歴も当然完璧だ。学生時代は、ネットの陰キャどもには想像できないほどもてた。
それにまごう事なきイケメンだ。
年収だって二千万超えているし
ゲームの最盛期には、社長賞やボーナスで年収五千万超えの時もあった。
当然、金とルックスで女も選び放題だ。
今の会社での立場はもうダメだろうが
経歴も抜群だし、そろそろ別の会社に転職するか
それとも人脈とノウハウを活かして
フリーでのんびり仕事するかだけである。
デジタルタトゥー?悪名は無名に勝るんだよ。
法律的に罪は犯してないしな。
俺の完璧な経歴なら、どこでも欲しがる。
ネットのクソどもが俺を雇ってくれるわけじゃない。
そんな俺がある日
クソネットユーザー共がコメントで
好き勝手煽りまくってくるネット生放送に
他のMCたちと出演して
いつものように鋼のメンタルでにこやかに微笑みながら
内心「次の転職先はどこがいいか」などと考えていると
いきなり収録スタジオに奇声と共に
十人ほどの覆面をした黒づくめの大男たちが乱入してきた。
彼らはスタジオに居るスタッフたちを
瞬く間になぎ倒して、立ちあがった俺に迫ると
刃物を突き付けてきて
「……組長が、あんたのゲームプロデュースは筋が通らねぇから
公衆の面前で謝罪させろと言っとる。
ここで死ぬか、カメラの前で土下座するか どっちか選べ」
低い威圧的な声で脅してきた。
冷静に俺は考える。
あーヤクザの組長が、俺のソシャゲのガチャで
大爆死してブチ切れたのか。それで組員を送り込んできたと。
は、大したことねぇな。たかがゲームだぞ?
何、熱くなってんだよ。それに映像で証拠何か残したら
この後、警察に組長ごと簡単に捕まるだけだろ。
覆面とか意味ねぇぞ?科学捜査と首都圏の監視システム舐めんなよ?
リスク管理もできないカスかよ。
呆れた俺は包丁を突き付けてきた男の手を捩じって
その場に倒して、頭を踏みつけた。
これで一人気絶させた。あと九人だ。
焦りながらナイフを取り出して、遠巻きに囲んできた男たちを見回して
武道の心得が無さそうな者から、俺はなぎ倒していく。
二人目、三人目、四人目、五人目、六人目……と
次々に武道を幾つも修めた俺に屈していく。
強そうなのは図体だけだったようだ。
七人目を倒したところで相手が弱すぎて
めんどくさくなったので
「おい!今すぐ逃げるなら、許してやる!」
脅しをかけて、退かせようとすると
いきなり銃声が後ろからして
俺のわき腹から、血が流れだす。
振り向こうとすると、さらに前方からも
二発、心臓と腹のど真ん中に銃撃されて
俺は、その場に崩れ落ちた。