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第4話:巫女姉妹は重要人物 妹巫女の今昔物語(4)




 熊さんだけでなく、ジルまでびっくりした顔であたしを見つめていた。

 そんなに驚くようなことだろうか?

 ジルは、もう、ずっとタイガに乗ってるし。

 あたしが灰色火熊に乗ったからといって、驚くほどではないと思うんだけど?

「ウル、本気?」

「え、そんなに変かな?」

「変っていうか・・・灰色火熊は、大きくない?」

「・・・大きいって、タイガよりもってこと?」

「タイガよりっていうより、村のみんながびっくりするくらい大きくないかってこと」

「そんなの、タイガのときだって、みんなびっくりしてたし」

「それは、そうなんだけれど・・・」

「みんなはタイガを仲間と思ってるよね?」

「そう、ね」

「だから、灰色火熊でも、そのうち慣れるよ、きっと」

「そ、そうかな?」

「そーだよ」

 うん。

 ジルは自分がタイガに乗ってるんだから、あたしが熊さんに乗りたいのをダメって言うのはダメだよね。そんなのずるいもん。

「さ、熊さん。どうかな?」


『そ、それは、おいらがってこと? おいらに乗りたいってことか?』


「うーん。熊さんだったら、話もできるし、それは嬉しいかなあ。でも、熊さんじゃなくても、他の灰色火熊でもいいんだけど。乗れるんならね」


『おいらは、この縄張りを離れる訳にはいかないから、無理だよ、実際は。おいらはダメ。だから、他の誰かってことになるんだけど、妹巫女さん、分かってるかな?』


「何が?」


『おいらたち、灰色火熊は、大牙虎とはまったくちがうんだけど・・・』


「そうなの? たとえば、どこが?」


『見たところ、巫女王さんは、そこのタイガっていう大牙虎と一緒に暮らしてるよな? でも、大牙虎はほとんど食べなくても平気なんじゃないか? そういう獣のはずなんだけど?』


 そういえば、タイガはあんまり食べない。

 たまに、猪肉を食べたりもするけど、けっこう長い期間、食べなくても平気だ。

 オーバが言うには、空腹耐性というスキルが大牙虎にはみんなあるらしい。

 つまり、大牙虎とはちがって・・・。

「灰色火熊は、よく食べるってこと?」


『・・・すごくたくさん食べるということでもないけど、大牙虎みたいに何日も食べないで大丈夫っていうことはないし、おいらたちは毎日何かを食べるんだ。だから、一緒に暮らすとなると、大変かもよ?』


 確かに。

 食べさせる必要があるとなると、オーバが怒るかもしれない。

 オーバが怒らなくても、クマラやアイラに怒られる、たぶん。

 そもそも、クマラは、今回のジルの飛び出しを本当には許可してなかったっけ。

 まずいかな?

 まずいかも・・・。

 でも、乗りたい。

「そっかあ。でも、それなら、必要なときに、ここまであたしが来るから、そんときに乗せてもらえたらいいよ!」


『・・・乗せたら乗せたで、おいらたちは、大牙虎ほど賢くないからね? そこも大丈夫かい? この森の中でも、ときどき遠くまで行った仲間は迷子になってるけど? 本当にそのへんもいいのかい?』


 ・・・そうなんだ。

 意外な話だ。

 熊さんたちも迷子になるなんて、やっぱりこの森って、すごいんだ。

 それでも迷わず行ける大牙虎って、すごく賢い獣ってことかな?

 そういえばオーバがそんなことを言っていたような気もする。

 うーん、どうだろう。

 さすがに森の中で迷子になるのは困る。

 困るんだけど、やっぱり乗りたい。

 うーん、熊さんたちに乗るときは、タイガに一緒に行ってもらうとか?

 ・・・いや、それなら、ジルに頼んで、タイガを借りれば済むよね。

 今回みたいに、ジルと一緒に、大森林を探検するとき、乗せてもらうって形になるのかな?

 乗らないって選択肢はなし。

 だって、乗りたいんだもん。

「じゃあ、ときどき、必要なときに、迷子にならないように、ジルやタイガと一緒で、そういうときに乗せてほしいの!」


『・・・いいけど、それって、めったにないんじゃない?』


 いいの!

 たぶん、めったにないんだろうけどね。

 そもそもジルは、あんまり村を出ないもの。

 オーバに村の守りを任されてるから。

 今回は、そのオーバを喜ばせるためっていう、別の理由を優先してるだけ。

「いいから、それでお願い!」


『分かった。じゃあ、さっきの約束は守ってもらうよ。それと、うちの子たちを、納得させるために、妹巫女さんの強さを示してもらう必要があるからね』


 強さを示す?

 そんな簡単なことでいいのなら、楽勝だ。

「じゃ、すぐに始めよう!」

 あたしがそう言うと、熊さんは長~く吠えた。

 しばらくすると、のそのそと灰色火熊が集まってきた。

 どうやら、群れを呼び寄せるための吠え方のようだ。

 数え切れないけど、50頭くらいはいると思う。

 まあ、楽勝だけど?

「これ、全部やっつければいい?」


『・・・この子たちを全部って。そこまでしなくていいから。この子たちの中で1番強い子を相手にしてくれるかい?』


「もちろん!」

 そう答えると、熊さんにうながされて、1頭の灰色火熊が進み出てきた。

 あたしはにっこりと笑う。

 他でもない、得意分野だ。

 はっきりいえば、もっとも得意なことだ。

 戦闘、手合わせ、あたしは大好き。

「じゃ、行きま~す」

 あたしは一瞬で間合いを詰めた。


 勝負はきわめて短時間で終わったとだけ、報告しておく。

 灰色火熊の群れは、あたしにおしりを向けて、頭をかかえるようにしながら、うずくまっている。

 熊さんによると、これは服従のポーズらしい。

 あたしをぐるりと何重にも取り囲む50頭を超える熊のおしりは、見応えがあるのやら、見苦しいのやら。

 あたしと戦った灰色火熊は、大地に横たわったまま、ジルから女神さまの光を浴びていた。


『・・・顔面陥没にアゴも砕かれて、四肢骨折させられて、しかも内臓破裂まで。一瞬でそこまでやっちゃう妹巫女さんの強さも予想以上だけどさ、その、死亡寸前の大怪我をああやって治療できてしまう巫女王さんの癒しの力も、びっくりだよねえ。まあ、これで、うちの群れの連中は、誰も大樹のところへは近づかなくなると思うけどさ』


「これで、強さは示せたかなあ?」


『・・・強さを示したどころじゃないけどねぇ。あのへんにいるの、いっつもやんちゃしてる子なんだよ、本当はさ。それなのに、今は絶対にこっちを見ようとしないもんな。ここにいる灰色火熊は全部、これで妹巫女さんに屈服したよ?』


 とりあえず、あたしはこの灰色火熊の群れを完全に掌握したらしい。

 別そんなつもりではなかったんだけど。

「じゃあ、どの子に乗せてもらえるの?」


『さっき戦った子にしようね。力の差が、一番よ~く分かったはずだから』


 ああ、あの子。

 ちょうどジルの神聖魔法が終わって怪我が治ったからか、上半身を起こしてきょろきょろしてる。

 そして、あたしを見つけて、目を見開いた。

 あ、目が合って喜んでるのかな?

 ふふふ、いい感じみたい。

 かわいいなあ。


『今、絶対、何か、勘違いしてるよね・・・』


 熊さんが何かつぶやいていたが、よく聞こえなかった。

 さて、熊、熊、というのも不便だ。

「ね、熊さん。あの子、名前はなんていうのかな?」


『名前? おいらたちに、名前なんて、ないよ?』


「え、そうなの? 名前がないと困らない?」


『別に、困らないけどね? まあ、必要なら、名前をつけてあげてよ』


「そうね~・・・」

 名前、名前っと。

 うーん、何がいいかなあ。

 タイガは、オーバが名付けたんだよね。

 虎って意味だって、言ってたっけ。

 熊って、何かな?

 分かんないや。

「クマってどう?」


『・・・それって、名前なのかい?』


 熊って意味でクマにしてみたけど、ダメみたい。

 うーん。

 名前、ねえ。

 あたしの名前はウル。

 姉の名前はジル。

 じゃあ、この子は・・・。

「じゃあ、サルで!」


『・・・すまないけど、別の名前にしてくれないかな・・・』


 熊さんがじとっとした目であたしを見ていた。

 一瞬で否定されてしまいました。

 どうしてだろうか?


 結局、あたしの灰色火熊の名前は、ジルが「ホムラ」と名付けた。オーバに教えてもらった、炎をあらわす言葉だという。火を吐く熊だから、という理由だった。

 ホムラもその名前が気に入ったみたいで、そのままジルにすりすりしてた。

 ジルも微笑みながら、ホムラをなでている。

 ・・・こいつ、あたしの配下なのにぃ。

 あたしが頬をふくらませていると、タイガがぺろっとあたしの腕をなめた。

 どうやら、なぐさめてくれているらしい。

 なんか、フクザツ。




 そんなこんな、いろいろとあったけど、あたしはホムラに、ジルはタイガにまたがって、熊さんの案内で森を進んだ。

 タイガのような速さはないけど、位置が、タイガに乗ったジルよりも高くなる。

 ちょっとだけ、嬉しい。

 タイガもふかふかなんだけど、ホムラのふかふかはちょっと固め。

 タイガはまたがりやすいけど、ホムラはおっきいから、ちょっと不安定かも。


『そもそも、おいらたちに乗りたいってのが、ちょっと、ねぇ・・・』


 そんな不満を言われても困るよ、と熊さんが言った。

 不満ってほどでもないけど。

 あたしたちはホムラの速さに合わせて進む。

 木の高さがちょっと低くなったかな、と思ったら、視界が開けた。

 そこで熊さんがとまった。


『ここだよ。これが、アリクサの群生地』


 なんだろう。

 竹ほどではないにしても、まっすぐに生える感じで。

 竹よりはもっと細くて。

 竹ほどは高さもないんだけど。

 それでもあたしたちよりも背は高い草。

 それに、ちょっとだけなんだけど・・・。

「甘いにおいがする・・・?」

「うん、甘い感じ」


『アリクサは、甘いにおいがするし、実際に甘いんだ。でも・・・』


「でも?」


『そのせいで、オオアリがここら全部を巣にしてるんだよ』


 そう、熊さんが言った瞬間。

 かさかさ、という音がどんどん広がり・・・。

 何十という、アリが姿を見せた。

「・・・ジル、アリって、こんなに」

「大きくないはずよ」

「・・・だって、高さはあたしのふとももくらいまで、長さは首くらいまであるよ?」

「そういうアリみたい」


 アリなのに、でっかすぎるよ!!





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