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第2話:巫女姉妹は重要人物 妹巫女の今昔物語(2)




 オーバが村のみんなに、スキルとレベルの秘密について教えてくれてたから。

 あたしは毎日、一生懸命頑張った。

 スキルの数だけ、レベルが上がる。

 レベルが高いほど、強い。

 レベルが上がれば、ステータスという能力値が高くなる。

 スキルを獲得するには、とにかく、いろいろなことを学び、いろいろなことを経験することが大切だ、と。

 だから。

 あたしもジルのように強くなれると信じて。

 お祈りも。

 文字書きも。

 計算も。

 他の人の言葉も。

 走るのも。

 跳ぶのも。

 お手伝いも。

 手合わせも。

 全部、ぜーんぶ、頑張った。

 たくさんのスキルを手に入れるために。

 いつか、クレアを倒すために。




 ある日突然、その日はやってきた。

 ジルのときは相手がムッドだったけど。

 あたしのときは、相手が大人のジッドだった。

 ジッドはムッドのお父さん。村の大人の中では、一番剣術に優れ、かつては大草原で最強の剣士と言われていた、らしい。大草原からきたリイムやエイムは、常にジッドを敬っている。

 その日、あたしと手合わせしたジッドはいつものように手加減をしていた。子どもの相手をするのだから、それは当然のことだ。

 そして、あたしから一発、胸にくらうと、そのまま、何メートルも後ろに吹っ飛んだ。

 目を大きく開いて、慌てたあたしは大急ぎでジッドに走り寄り、そのまま女神さまへの祈りを捧げて、右手に集まった温かい光をジッドに浴びせた。

 光に包まれた後、立ち上がってあたしを見たジッドは、ふぅと息を吐いて、あたしから目をそらした。

 ジッドを吹っ飛ばした強烈な一撃も、ジッドを包んだ女神さまの温かい光も、昨日までのあたしにはできなかったことだ。

「・・・七歳になったのか」

 七歳になると、スキルが身につく、という。

 そこから、数年間、学べば学ぶほど、スキルが身につくのだとオーバは言う。

「ありがとう、ウル。もう大丈夫だ。あとで、オーバにスキルとレベルを見てもらいなさい」

 ジッドはそう言うと、あたしの頭を優しくなでた。

 その日から、あたしの手合わせの相手は、ジルか、クレアか、どちらかとなった。


 七歳になってスキルが身につき、レベルが上がったあたしは、アコンの村ではジルの次に強い。大人であるアイラやジッドも、まったく相手にならない。こっちが手加減して、遊ぶようにして勝つことができるくらいだ。

 それでも、なんでか、クレアには勝てない。

 あたしも、ジルも。

 あたしとジルは、ジルのがちょっとだけ強い。

 でも、無手ならあたしが勝つ数が多い。

 剣術なら互角。

 棒術ならジルのが強い。

 でも、二人とも、クレアには勝てない。

 クレアもふしぎな人だった。

 クレアがきてから、オーバはあんまり手合わせに参加しなくなった。オーバが手合わせに参加しなくなっても、ジルよりも強いクレアがいるなら、あたしたちの修行には問題ないんだけど。クレアがオーバの次に強いから、クレアが手合わせしてくれれば、修行としては十分だ。

 ジッドやアイラが、あたしやジルと手合わせすることをオーバは禁止していた。クマラはこっそり、別の時間にお願いしてくるから、オーバには内緒で手合わせしてるけど・・・。

 もちろん、あたしやジルも、今の力を試したくて、無理にお願いしたら、オーバが手合わせの相手をしてくれることはあるんだけど。もちろん、こっちがどれだけ本気を出しても、オーバに遊ばれて終わりになるんだけど。

 ・・・オーバとの差がすっごくあることは、よく分かる。

 それでも、あたしもジルも、オーバに手合わせをお願いするけど、クレアは絶対に、オーバとの手合わせをしない。

 本当に、クレアは一度たりとも、オーバと手合わせをしなかった。

 クレアがもっと強くなろうとしたら、相手はオーバしかいないはずなのに。

 でも、クレアはいつもオーバを見てた。

 そんなクレアをジルはじっと見つめては、視線を移してオーバを見てた。

 オーバを見てるのはクレアだけじゃないのに。

 どうしてジルは、クレアばっかり気にするんだろ?




 後宮と呼ばれるオーバの住家の、三本のアコンの木に囲まれた竹板の大屋根の上で。

 太陽の光を浴びて、踊る、ジル。

 踊りながら、ジルは輝く。

 たとえ話ではなくて。

 踊っているジルは光に包まれていく。

 あれは、女神さまの光だ。

 あたしにはできない。

 ジルだけのもの。

 女神さまに捧げる、ジルの、輝く、踊り。

 こうやって踊ると、ジルには何かが見えるという。

 ジルの、女神さまとのつながりの、スキル。

 あたしにはないスキル。

 オーバのために、村のために、役立つ何かを見つけ出すことができる、とんでもないスキル。

 オーバの役に立ちたいって言って。

 ジルは踊った。

 オーバの役に立ちたいのはあたしも同じなのに。

 あたしにはそれと同じスキルはない。

 そんなスキルをもつジルがとってもうらやましい。

 ジルの動きが緩やかになって、ぴたっと制止する。

 踊りが終わった。

 ジルを包んでた光が天へと昇っていく。

 ふぅ、と一息、吐いてから、ジルはあたしを見た。

「ウル、一緒に来て」


 一緒にと言われて、タイガの背中の、ジルの後ろにいるあたし。

 タイガの背中に乗っちゃった。

 速い速い。

 これは気持ちいい。

 気持ちいいんだけど・・・。

「ね、こっちは、ダメじゃないの?」

 向かっている方向は、滝の小川の向こう側。

 アコンの村の領域としては、みかんの木の群生地よりもさらに向こう。

「道も、まだ付けてないとこだし?」

「・・・大丈夫、タイガがいるから」

 ・・・そうなの?

 そう言われてみれば、大牙虎は、森の中でも迷わずあたしたちを追ってきたし、そのまま逃げ戻ってた気がする。

 いや、そうじゃなくて。

「迷子になるってことじゃなくて、こっち行ったら、オーバに怒られないかな?」

「・・・オーバは今、村にいないもの」

「そうなんだけど・・・」

 クレアがやってきてから、オーバはちょくちょく村を出て、大草原へ行くようになった。

 戻ってくるのも、いつもより早いけど。

 いつもクレアが一緒に行く。

「・・・クマラには認めてもらったわ」

「・・・それ、ほぼ無理矢理だっだね」

 ジルがクマラにお願いしてるところは見た。

 あれは、うん、なんていうか、やっぱり無理矢理だったと思う。

 だって、ジルが早口でしゃべって、クマラが返事をする前に「じゃ、もう行くから!」と飛び出したのだ。

「あれって、認めてくれたのかなあ・・・」

「そもそも、オーバがいないときは、私がまとめ役だもの」

 確かに。

 オーバは以前、旅に出るとき、そう言った。言ったよ? あたしも覚えてるよ?

「・・・でも、クマラの言うことはだいたい正しいよ?」

「・・・分かってる。だから、いつもクマラに相談してるもの。まあ、今回のは、私のわがまま。だって、オーバの役に立ちたいの」

「・・・分かった。手伝う。それで、あたしにも来いってことは? 敵がいるってこと? ねえ、あの踊りで何を見たの?」

「今回は熊が相手になるはずなの」

「・・・こっちの方にいるはずだもんね、あの、火を吐くやつでしょ? この前、村でジルとクマラがやっつけた?」

「そうよ」

 灰色火熊という火を吐く熊が、大森林にはいる。オーバが狩人のノイハと旅に出ていた間に、つがいで村の近くまでやってきたことがあった。ジッドが駆け付けたときには、ジルとクマラがやっつけてたんだけど。その熊が相手ってことかな?

「それで、熊を倒して、何が見つかるの? 熊肉なら別に、村を襲った熊が出たときでいいのに?」

「・・・よく分からないけど、まっすぐな、群生した草? 茎? まあ、根こそぎ持って帰れば、あとはクマラがなんとかしてくれると思う。こっちの方にあるってことしか」

 どうやら目的は植物みたい。

 ジルがそう言ったところで、タイガが突然、ゆっくりとした動きになっていく。

 きょろきょろと首を動かし、周囲を警戒している。

「ウル、おりるわ」

「うん、わかった」

 あたしとジルはタイガの背からおりて、その両脇に並んで歩いた。


 そこから、何歩か進んだところで、小さくかさかさと音をさせて、灰色火熊が二頭、あらわれた。

 さすがはタイガ。

 あたしたちだけだと、この瞬間まで気づかなかったかもしれない。

 まあ、そうはいっても、たかが二頭の灰色火熊に負けるような気はしないけど。

 あたしたちが止まると、灰色火熊も止まり、そのまま向かい合う。

 そこで、タイガがうなり始めた。

 始めは小さく、次第に大きく。そして、タイガがとっても大きく吠えきったとき、灰色火熊たちは後ずさっていた。

 ・・・タイガ、すごいな。

 あたしたちよりもタイガの方が大きい。

 しかし、灰色火熊は、そのタイガよりも大きい。しかも二頭。

 それが思わず後退するなんて。

 体格差なんて関係ないと、はっきり分かる。

 そもそもタイガは初めてアコンの村に来たときよりも、ずいぶん大きくなった。毎日の修行にも、ジルと一緒に参加してる。獣なのに。

 あたしたちも成長してるのに、今でも二人を乗せて走れるのだからすごいと思う。

 ・・・獣にも、スキルとレベルがある? そういうことかな?

 そのまま、二頭の灰色火熊は、タイガをおそれて逃げていったのだった。




 タイガをはさんで、あたしとジルは歩き続けた。

 ときどき、灰色火熊があらわれたが、タイガがうなるように吠えると、逃げていく。

 いちいち戦わずに済むのはありがたい。

 それにしても、これだけ灰色火熊の姿を目にするということは・・・。

「・・・完全に熊の縄張りの中に入ったわ」

「だ、ね。だから、一緒に来て、だったんだ」

「そうよ」

「あっちが、あたしたちの村に入れば、あたしたちは戦って、殺す」

「・・・私たちが、あっちの縄張りに入ったのだから、どんな危険があるか、分からないわ」

「二人なら、どうにかなると思うけど」

「タイガもいるし?」

「・・・いまんとこ、そのタイガが一番活躍してる」

「そうね」

 ジルは笑って、タイガをなでた。

 なでられたタイガが嬉しそう。

 こういうとき、うらやましいって、思う。

 ジルとタイガは、確かにつながってる。

 あたしにも、大牙虎が一匹もらえないかな・・・。


 もう十頭を超える灰色火熊と遭遇し、次々とタイガのうなり声で追い払ってきた。

 ずいぶん歩いてきたように思う。

 突然、何もいないのに、タイガがぴたりと動きを止めて、低くうなった。

 それだけで、今までとは違う、と分かる。

 あたしも、ジルも身構えた。

 きっと。

 タイガでも追い払えない奴がきたんだ、と。

 がさっ、という音とともに。

 大きな影があらわれた。

 これまでの、四足で動いていた灰色火熊とは違う動き。

 後ろ足で立ち上がり、村の大人たちよりも大きな姿を見せて。

 さっきまでの灰色火熊がとても小さいものだったように思える、巨大な熊。

 瞳の中心が赤い。

 タイガが吠えない。

 賢いタイガは、無駄なことはしない。

 つまり、吠えたとしても逃げるような相手ではないのだろう。

 あたしたちは巨大な熊と対峙した。


 次の瞬間・・・。


『おいらたちの縄張りに、何の用だい、巫女王さんたち?』


 ・・・熊がしゃべったっっっ???




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