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第13話:巫女姉妹は重要人物 妹巫女の根回し(1)



 ジルが真剣な顔をしてる。

 こんなときは、あれだ。

 間違いなく、オーバのことを考えてる。

 ・・・というか、ジルがオーバのことを考えてないときなんて、あるのかな?

 ・・・ない気がする。

 相変わらず、ジルはオーバが大好き過ぎる。

 ・・・まあ、あたしだって、そういうの、同じなんだけどさー。

「・・・ウル、聞いてますか?」

「え?」

「聞いてませんね・・・」

 ジルの言葉遣いはとても丁寧なものになっている。

 大森林の巫女王として。

 覇王のオーバがいない間の女神の森都アコンの要として。

 そういう言葉遣いが必要、らしい。

 あたしに対しての場合は、そうじゃなくてもいい、とは思うんだけどね・・・。

 今は、あたしの他にも、周りにいろいろ、いるからね。

 例えば、シイナとセンリ。この二人は、あたしの付き人。付き人ってのは、なんというか、とにかく、お世話役のこと。いろいろ、やってくれるんだけど、本当は自分でできるのにさー。

 それで、あたしが、どこに行くにも、付いてまわる。それが大牙虎のところだろうが、灰色火熊のところだろうが、南の台地の上だろうが、どこにでも付いてくる。

 ちょっと、邪魔なときもあるけど、まあ、いい子たちだから、しょうがない。

 そもそも、付き人になるよりも前から、シイナはなぜか、いなくなったあたしを見つけるのがうまい子だった。あたしが隠れてても、見つかってしまう。不思議。

 森都アコンの人口が増えて、村人たちの生活範囲が拡大して、以前のように、みんなで共同作業をする、ということがだんだん難しくなって、今では、いろいろと役割分担が決まっている。

 そんな中で、後宮の后たち、つまり、オーバの妻である人たちとか、女神さまの巫女であるジルやあたしには、専属の付き人が決められたって訳。オーバは『雇用の創出』だとかなんとか言ってた。

 なんだか面倒くさかったけど、シイナは気安く話せる子だったから、あたしは適当に楽しくやってる。もう一人はシイナと仲良しだったセンリだ。センリは、まあ、シイナに巻込まれたっ! みたいな状態であたしの付き人に決まった。

「ウールー、聞、い、て、ま、す、かっ?」

「聞いてないよ、ジル」

「もうっ!」

 ジルがため息をついた。

 素がでてるよ、おねぇちゃん?

「ため息をつくと幸せが逃げるってオーバが言ってたよ?」

「そう思うのであれば、私にため息をつかせないで」

「ジルの幸せはオーバだもんね」

「っっ!」

 ジルが顔じゅうを真っ赤にしている。

「・・・ここにいるのは、みんな分かってるってば」

 あたしが見回すと、四人の付き人たちは、みんな、うんうんとうなずいていた。

 あたしの付き人も、ジルの付き人も、ジルがオーバを大好きで、いつかお嫁さんになりたいと考えていることは、分かっている。そもそも、そのことに気づいてない人って、アコンの中にいるのかな?

 ・・・それは、あたしも、本当は同じなんだけど。

「そもそも、ジルさまと釣り合いがとれる相手は、オーバさまをおいてはございません」

 ジルの付き人がそう言う。

 そうなんだよねー。

 アコンでオーバとクレアの次に強くて、オーバの次にたくさんの神聖魔法が使えて、他のスキルでもアコンの発展に寄与できるジル。例えば、なぜだか、必要な物が見つかる『神楽舞』とか、びっくりするスキルがある。単純に、強さだけで考えても、アコンの男性なら、オーバの次はもうノイハなので、その時点でジルの相手には到底ならない。レベル差があり過ぎる。

 だから、ジルの結婚相手は、オーバ以外には、見つけるのが難しい。最低でもノイハより強い男ってことになるんだけど、おそらく、ノイハよりも強い男は、大森林はもちろん、大草原にも、スレイン王国にもいない。そもそも、大森林の首脳陣は、他の地域と比べて圧倒的に強い。オーバのスキルについての教育のおかげで。

 そして、ジルにあてはまるそのことは、実際のところ、あたしにも同じように、あてはまる。

 あと一年で、成人となる十五歳を迎える、現在十四歳のジルと、そのひとつ年下の、現在十三歳のあたし。

 はっきり言って、釣り合う相手は、父代わりで、兄代わり、の、オーバだけ。本当に、オーバだけなんだよね。

 だから、この、父代わり、兄代わり、ってところが問題になってる。

「オーバはさぁー、あたしたちのこと、子ども扱いのまんまだもんねぇー」

「そうなのです。なんとかなりませんか?」

「あたしじゃなくて、エイムとかに相談すれば? エイムなら、なんとなくだけど、何かいい方法を思いつきそう」

「・・・そういうところが、ウルは無神経だと言われるのです」

 あたしの付き人のシイナが、うんうんうんうんと四回もうなずいた。四回も、だ。センリは、うなずきかけて、とまった。でも、うなずこうとしたのは見えた。こいつらは・・・。

「え、なんでよ?」

「・・・エイムは、オーバとずっと結ばれたいと思っていて、でも、オーバに命じられてトゥリムと結婚したのですよ? ウルも知っているでしょう? そこへ、私がオーバと結ばれる方法を考えてほしいなんて、言えるわけがありません」

「えー、そーかなー、エイムなら手伝ってくれると思うけどー。そもそも、エイムがオーバの妻にならなかったのは、女神さまとのつながりの証である神聖魔法が使えないからだし?」

「ライムは使えなくとも、オーバの妻です。それが全てではないでしょう?」

「ライムは大草原の人だもん。アコンの決まりには縛られないよー」

「・・・とにかく」

 ジルは怒ったように言う。「エイムは大切なアコンの村の重鎮です。私は、私のことで、不用意にエイムを傷つけたくはありません。だから、エイムにこういう相談はできません」

 どう考えても、こういう、なんていうか、作戦? っぽいのは、エイムが一番だと思うんだよね。

 でも、ジルはだめだって言うし。

「ウルに頼ろうとしたのが間違いでしょうか・・・」

 ・・・シイナが五回もうなずいてやがるな。あ、センリも一回、うなずきやがったなーっ!

「ウルは、いまだに、ホムラにまたがって、森を駆け回っていますし・・・」

 あ、ジルのお小言が始まった。

「いやいや、そうじゃないよね? ジルがタイガに乗らないのは、ジルの背が伸びて、もうタイガじゃ乗れなくなっただけでしょ? ホムラはタイガよりおっきいんだから、あたしは背が伸びても、まだまだホムラに乗れるよ?」

「灰色火熊にまたがって森を駆ける乙女はいません、普通は。たぶん・・・」

 あ、ジルも自信はないみたい。最後に小さく、たぶん、って言った。

「ジルさまが正しいかと」

「そう思います」

 シイナにセンリ?

 こいつら、はっきり口にしやがったな?

「それに、十日前には、梨畑の向こうへ抜けて、花咲池まで行きましたね? 大牙虎と戦いに?」

 あっ!

 ジルにばれてるっ!

「シイナっ?」

「・・・当然のご報告です」

「このうらぎりものーっっ」

「・・・殺してはないとシイナからは聞いていますが」

「うんうん、さすがに、それは。熊さんからも、ダメだって、よく言われるし」

 あたしは、灰色火熊の縄張りに遊びに行って、ホムラを乗り回して、よく熊さんと話す。

 熊さんは、大森林のことをいろいろと教えてくれる。

「・・・カタメは元気なのでしょうか」

 ジルの小さいつぶやきは独り言のようだったので、あたしは聞き流した。

「シイナには、もう黒糖とか、分けたげないからね」

「・・・ウルさまの、食べ物も含めた、身の回りの世話をお手伝いするのが、あたしの役割です。ウルさまに必要ないのでしたら、黒糖はご用意しませんから、ご心配なく」

「なんであたしまで食べられなくなるのっっっ?」

「まあまあ、ウルさま。シイナは、ウルさまのことをジルさまに伝えなければならない責任があるのですから、黒糖でいじわるなどなさらないでください」

 センリがあたしをなだめてくる。

 この二人、いまいち、あたしに対する遠慮がない。本当に付き人? ジルのとこの二人とずいぶんちがうんだけど?

「・・・それは、ウルさまとジルさまが全然違うからですよ?」

「ですよ?」

 二人に心を読まれたっ?

 ・・・まあ、本当に黒糖でいじわるしたりはしないけどさ。

「・・・ウルさまに巻込まれて、大牙虎と戦うはめになったあたしたちのことも考えてください。ジルさまに報告するのは当然です」

「二人とも、大牙虎なんて、相手にならないくらい戦えるもん」

「・・・それは、そうなったのは、ウルさまのせいですから」

「・・・もちろん、シイナに同意します」

 あたしの付き人、シイナとセンリは、ジルの付き人よりもレベルが上で、強い。

 ・・・あたしと一緒に灰色火熊と手合わせしたり、大牙虎と戦ったり、オオアリの女王アリを探しに行ったり、大角鹿の言葉を話せる長老を探しに行ったりしているうちに、なぜか、そうなった。シイナとセンリは、オーバ、クレア、ジル、あたし、クマラ、ノイハ、アイラ、ケーナ・・・の次くらいに、強い。何人か、スレイン王国から移住してきた神聖騎士とか、巫女騎士とか、戦い専門の人たちがいるけど、いつの間にか、そういう人たちよりも強くなってた。こうして数えてみると、アコンで強いのって、本当に女性ばっかりだ。

「・・・そんなことだから、巫女姫と呼ばれるはずのところが、巫女戦士などと呼ばれるようになってしまうのです」

 ジルが再び、ため息をついた。

 このままだとお小言が続きそうだから、今度は、幸せが逃げるよ、なんて、言わないようにした。

 あたしに対して、もっと言ってほしいです、ジルさまっっ! という顔をしていたシイナとセンリは、ぎろりとにらんでおいたけどさ・・・。

 まったく、もう。




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