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第10話:巫女姉妹は重要人物 妹巫女の初陣(4)




 朝日の光はまだ弱く、互いの顔もよく見えない中、あたしたちは人馬一体となって進む。

 朝、まだ暗いうちから、虹池から流れる小川に沿って、速駆で馬を走らせる。

 ・・・やっぱり、馬って、すごい。

 灰色火熊のホムラじゃ、絶対に出ない速さがある。

 風が、痛いくらいに感じる。目もうまく開けられない。

 これって、大牙虎のタイガの全速と変わらないか、それ以上かもしれない。

 それはつまり、オーバの全速並み、ってことで。

 ・・・でもまあ、そう考えると、やっぱりオーバって、すごすぎるかも。確か、『長駆』スキルの上位スキルにあたる、『高速長駆』スキルがオーバにはあるはず。

 あれ? 馬ってすごいって思ってたのに、いつの間にか、オーバのことになってたみたいな。

 でもでも、やっぱりオーバはすごいと思う。すごいとしか言えない。

 大草原でこの速さを出す馬に対して、オーバは大森林を走り抜けるのにこの速さを出せる。

 あの、密集した木と木の間を抜けて、迷うことなく、だ。

 それと、例えば、あぶみのこと、とかも、そう。

 ネアコンイモのロープを輪にして、その長さを調節することで、馬の背に乗ったまま、ロープの輪を両足でそれぞれ踏み込んで、全身を安定させるしくみ。

 エイムが言うには、大草原で馬に乗るときはそのまま馬にまたがり、たてがみを掴むだけだったので、それまでの乗馬というのはとても大変だったらしい。体力がとても必要で、長時間乗るのは辛いみたい。それが、オーバからあぶみを教えてもらって、エイムはかなりびっくりしたという。

 このあぶみも、オーバが教えてくれた、オーバの知恵のひとつ。オーバは、別に自分で考えたわけじゃない、と言うけど。こういうのは本当にすごい。

 今回の戦いでは、大草原の氏族同盟の人たちにも、この、ネアコンイモのロープでつくる簡単なあぶみを教えて、馬に乗ったままで戦うという方法をとる。エイムは、今回のことで大草原での戦いの常識が変わる、って言ってた。

 だから、あたしたち四人の乗る馬以外に、30頭の馬がそのままついてきている。 もちろん、虹池に残った馬たちも何頭かいるけど、そういう群れを支配して、何十頭もの馬を率いるイチはやっぱり賢いし、すごい。そのイチの背には、アイラが乗ってる。

 途中で一度休憩をはさんで、小川で馬たちは給水。あたしたちは、今後の方針について、エイムから説明を受けた。正直、その方針には納得できないというか、従いたくないというか、おもしろくないというか・・・でも、まだ9歳のあたしの意見はあっさり否定され、エイムにやり込められて、アイラにエイムの言うことを聞きなさいと言われ、あたしはしぶしぶ従った。アイラの命令に必ず従えというオーバの指示は、しぶしぶ従うようなあたしにとって必要なものだったのかもしれない。

 まあ、アイラが、あたしに死ねと命令するわけじゃないし。

 休憩後、ノイハとエイムとあたしは、別の馬へと乗り換えて出発したけど、イチは交代なしでアイラを再び乗せて走る。そもそも、イチは速くて強いので、他の馬の速さに合わせて楽に流してきたみたい。だから、それほど疲れてないので、交代なしでも余裕がある・・・ってことは、イチだけならもっと速いってこと? はー、びっくり。

 ナルカン氏族のテントまでの道は、というか、まあ、はっきりした道があるわけではなく、そのほとんどは小川に沿って北上していくだけだったのだけど、最終的には小川を離れ、ナルカン氏族のテントを目指した。ナルカン氏族のテントの場所は、そこの出身のエイムには、迷いなく見つけられた。小川を離れる地点は、季節によってちがうけど、エイムにはだいたい分かるらしい。

 こうして、あたしたちは、たくさんの馬とともに、ナルカン氏族のテントに到着した。




 族長のドウラの出迎えに、アイラが感謝を伝える。ドウラはエイムの従兄だ。

 久しぶりにジッドにも会う。今、ジッドはアコンの村からの使節として、ナルカン氏族のテントにいる。冬の間はアコンの村にずっといるけどね。今は、たまたま、ジッドがここにいる時期だった。でも、今回、ジッドもここから一緒に出陣する。

 ドウラの先導で、テントの中に入る。薄暗い中、獣脂に火をつけて灯りとしている。きっと羊の油なんだろうと思う。

 一応、ここにいる者は、みんな大草原の言葉も話せる者ばかり。あたしも含めて。こういうことまで勉強させてきたオーバはやっぱりすごい。

 エイムは、族長のドウラのことを、ドウラにいさま、と呼んだ。従兄も兄みたいなものだからかな。親しいから、そうなるのかもしれない。

 エイムがあたしたちを紹介していく。

「アイラは、アコンの村の長、オーバの一の妻で、今回の援軍の総大将になってもらいます」

「・・・オーバの義兄上の一の妻か。今後ともよろしくお願いしたい。しかし、総大将とは、大丈夫だろうか? ジッド殿ではないのか?」

「あら、心配?」

 そう言ったアイラは微笑んでるけど・・・たぶん、ちょっと、怒ってる?

「ドウラにいさま、不安なら、一本、アイラと手合わせなさいますか? まあ、にいさまと一対一と言わず、氏族の男を全部相手にしても、アイラが勝つと思いますけど? あのときみたいに?」

 あのとき・・・?

 なんだろ?

 何かあったっけ?

「・・・いや、遠慮しておこう。あのときのことなど、思い出したくもない。ナルカン氏族は大森林には逆らわんよ。すまない、アイラ殿。このたびの戦は、よろしく頼みます」

 ドウラはすぐに引いた。

 アイラもうなずく。

 うん、いい判断じゃないかなあ、と思う。あのとき、ってのは何か分かんないままだけど。

 でも、オーバから聞いていた通り、大草原での女性の立場は、大森林よりも低いみたい。さっきのドウラの反応も、アイラが女だから、男のジッドじゃないのか、って意味だったみたいだし。ま、今回、アイラがそれを変えちゃうかもしれないけど。

「ノイハは、リイムの夫よ、ドウラにいさま。アコンの村で一番の弓使い。オーバの親友です。義弟ってことになるわ。あと、ジッドさまは、紹介しなくても大丈夫なはずよね、ドウラにいさま?」

「ああ、問題ない。ノイハ殿とも、少し面識はある」

「なら、最後の・・・」

「うむ、こんな小さな子を戦場へ出すのか? アコンの村は?」

 あ。

 やっぱり、そうなるよね。

 だから、あたしは、今回のエイムの作戦は嫌なんだけどさー。

 ここで暴れて、はっきりさせたら早いのにぃ。

 もう! すぐに小さいから、小さいからって、言われるんだから!

 本当はこの中でなら、あたしが一番強いんだもん!

「この子は、ウル。アコンの村の、女神さまの巫女よ、ドウラにいさま。オーバと同じ、女神さまの癒やしの力をもってます。それが、戦場でどれほど重要か、分かるはずよ」

「・・・そういう、ことか。いや、すまない。納得した」

 今回のエイムの方針は、あたしをあくまでも癒し手として見せること。

 せっかくの戦いなのに、暴れられないんだけど?

 でも、アイラもそうしろって言うし、仕方がないので、あたしは我慢。ちなみに、アイラも、ノイハも、神聖魔法が使えることは、ぎりぎりまで伏せる。ぎりぎりというのは、あたしたちの命に危険がある場合、ということだけど、まあ、エイムの予想では、そんなぎりぎりはやってこないらしいけどね。

「だから、ウルにはあたしと一緒に、ドウラにいさまの近くに控えてもらいます。戦いは、アイラ、ジッドさま、ノイハを中心に、各氏族からの応援を動かす予定です。それと・・・」

「あの、馬の群れ、か?」

 ・・・このドウラって人、なかなか鋭い、のかな?

「・・・そう。馬に乗って戦うつもり」

「馬鹿な。あんな不安定な状態で戦えるはずがないだろう?」

「それも明日には分かるわ。これもオーバの指示なの、ドウラにいさま。各氏族から、何人くらい、戦士は集まるかしら?」

「・・・さっきから聞いてると、エイムが作戦を立ててるように思えるのだが?」

「それもオーバの指示よ、ドウラにいさま」

「・・・おまえは大森林で何をしてるんだ」

「アコンの村のため、大森林のために全てを捧げているだけです。にいさま、この戦には勝ちます。それも、圧倒的に。氏族同盟と大森林に逆らうとどうなるのか、大草原の覇者は誰か、はっきりさせますから」

「大草原の覇者は義兄上だ」

「そうかもしれませんが、そこはドウラにいさまの役割です」

「やれやれ。傀儡、ということだな。まあ、こちらとしても、氏族のためにそうするのは当然だと考えているから、問題はないが」

 エイムと話すドウラの表情は穏やかだ。この従兄妹は、なんだかいい感じの関係だ。

 互いのやりとりが、わかり合ってる、という感じがする。

「・・・ところで、ライムねえさまは?」

「・・・こっちとしては気を遣って、ライムを奥に行かせているのだが、なぜおまえの方からその名前をわざわざ出す?」

「そんな気を遣う必要、ないわよ? どっちかと言えば、オーバを射止めた大草原の美女に会いたいんだけれど?」

 そう言ったのはアイラ。

「・・・義兄上の一の妻であるアイラ殿にそう言われては・・・」

「そもそも、オーバを義兄上って呼んでる時点で、アコンの村とのつながりを重視していることは分かってるの。それなら今さら、ライムさんをあたしの目から隠すってのも変でしょう?」

「しかし・・・」

「ライムさんは、オーバに鍛えられて強くなったと聞いたし、手合わせしてみたいのよね」

 そう言われたドウラがすごい顔になった。

 殺す気かっ!? とでも言うような表情だ。

 そんなことするわけないのに。

 オーバの妻はアイラだけじゃない。ケーナも、クマラも、オーバの妻で、その二人とアイラの関係はとっても仲良しだ。どっちかというと、ジルの方が、オーバをとられちゃう、みたいなことを言ってるくらいだもん。

「ドウラにいさま、早くライムねえさまを呼んで。そうしないと、アイラの方からそっちに行ってしまうかもしれないから」

「エイムったら」

「いや、エイムの言う通りじゃねえの?」

 ノイハがくくくっと笑って、アイラに小突かれた。

 そんな様子を見ていたドウラは、しぶしぶという感じで、ライムを呼ぶように命じた。




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