世界滅亡案件で困惑する (その3)
「実はデレさせるターゲットである『とある女の子』が、世界大闘技会に参加するという情報を得ることが出来ました。」
「その様子だと、『とある女の子』の特定は出来ているようですね。」
シフルは俺の言葉に対し、否定の意を込めて首を横に振った。
「この情報は有名な占い師から聞いた予言です。ちなみに、占い師も世界滅亡の未来を予言していました。その為この情報はかなり信憑性があると考えます。」
シフルの話からすると、この異世界には神の未来予知にも等しい精度を持った予言者がいるようだ。もしかすると、神もこのくらいの情報なら知っていたのではなかろうか。
「人間にも予言できたのなら、神様も知り得た情報なのでは?」
「神様はお忙しい方で、この異世界だけの管理者ってわけではないのですよ。さらに言うと、一つの世界においても複数の別世界が存在し、それらも管理下においてます。例えば、スミスさんが今から外に出て全裸で走り回ると仮定しましょう。」
とんでもない仮定だ。
今既に持ってるトラウマが更新されそう。バージョンアップしちゃいそう。
「おそらくスミスさんはそんなことしませんよね?しかし、何らかの要因でそういうことをする可能性も0ではないんですよ。」
「0です。やめて下さい。」
別に心当たりは無いのだが、脊髄反射で即答する俺に対し、シフルは申し訳なさそうに小さく笑うと、話を続けた。
「この仮定が起きてしまった世界、起きなかった世界をそれぞれ僕たちは世界線と呼びます。一つの世界はその世界線が束ねられた一本の事をさします。」
俺が全裸になった世界線は滅亡すればいいな。
「神様は世界線も一つ一つ管理されてます。その為ご多忙なのですよ。おそらく、ゴッドアイを使えば僕が仕入れる情報なんて簡単に見つけることができると思います。」
(なるほど、確かにそうなると一つ一つの世界に構ってはいられなくなりますね。世の中の異世界転生者、転移者の人材が足りないのにも納得がいきます。)
「唐突にクソダサい技名みたいなのが出てきたな。」
「あ、え?そ、そうですかね?
……ははっ。」
ゴッドアイのインパクトが強過ぎて思っている方が反射的に口から出てしまった。
シフルは顔を赤くして恥ずかしさを隠すように笑っている。
それにしても、俺らフリーランサーは依頼を受けてる異世界に飛んでいるだけだから、今まで自分の転移先(仕事先)が複数ある世界線のうちの一つだとは思ってもなかった。他の同業者は知っているのだろうか。まあ知らなくても仕事に支障はないし、複数世界の一つだとか意識する必要もないかもしれないが。
「ちなみに、今回滅亡する世界線は一つだけなんですか?世界線は複数あるんだから一つくらいはしょうがないもんじゃないんですかね?全体でいくつあるのかはわかりませんが、全てに対処していたらきりがないかと……。」
俺がそういうと、シフルは難しい顔をしてこう告げた。
「今僕たちのいる世界線が滅亡すると、この異世界が終焉を迎えます。」
部屋に暫し沈黙が流れた。陽射しはいつのまにか西に傾き、窓から差す陽光が目にしみる。
沈黙を破ったのは、当然ながら俺の持つ疑問だった。
「……何故ですか?」
「神様の予知では、この世界線が滅亡することで、他の世界線の未来予知が全て見えなくなるようなのです。つまりは、この異世界の最期を意味しています。」
シフルは飲みきったはずの緑の液体をまた飲もうとするが、口元に運ぶ途中で中身が空なことに気づき、また机に置いた。
表情はどこか陰っている。
「こういった例は稀にあります。ごく一部の異世界に起こるレアケース中のレアケースです。そのため滅亡の回避は影響力の高い世界線、クリティカルな場合でしか案件として挙がらないのですよ。」
どうやらとんでもなくヤバい案件を引き当てちまったようだ。かなり責任重大な仕事に思えるが、何故ポテンシャル採用なんかにしたのか全くもって見当がつかない。
しかし一度請け負った以上、仕事だ。俺に実力が伴わなかったとしても、最後までやり遂げた上で必ずコミットしなくてはならない。
「俺は何をすればいいんですか?」
この時俺はどんな顔をしていたのだろうか、シフルの顔に仄かな笑みが戻る。
「今日はもう遅いですし、ゆっくりしてください。明日の朝、迎えに参ります。」