世界滅亡案件で困惑する (その2)
「パリピを装えば宗教勧誘を諦めると思った次第です。先ほどのご無礼をどうかお許しください。」
「わ、わかっていただければいいんです。僕は神の代理で、本当にただの案内役なので。」
場所は変わって、宿屋の一室を借りて話し合いが始まった。ここが今日から俺の拠点になるらしい。俺たちは円卓に並ぶ椅子に腰かけた。
「さて、案件の話ですが、神様から『とある女の子をデレさせる』という話を既にお聞きであるかと思います。」
「はい、事情はよくわかりませんが、最終的にはそれで世界滅亡を防ぐことができるのだとか。」
「ご認識頂いてる通りです。僕達側も、何故女の子をデレさせることが鍵になっているのかはまだ調査中の段階なんです。つまり分かっていません。それで、ここからが僕の調べた情報なのですがーー」
シフルはショタの割にはとてもしっかりとした口調と落ち着きがある。俺がこの歳の頃はまだ特撮物に夢中になっていて、それすら現実と空想の区別がつかないような状態だったろう。
学校では将来的に超人に変身できるよう、改造手術を受けることを視野に入れて貯金したい旨を作文とかに書いてたな。
母にはよく現実を見ろとか言われていたが、現実を見た上で貯金と書いたのに、それが腑に落ちなくて大げんかしたのを思い出す。
母よ、バカな息子ですまんかった。
「スミスさん、ちゃんと話聞いてます?取り急ぎこれから超人になってもらう為、改造手術を受けてもらう必要があります。お金の心配なら必要ありません。こちらの経費でおりますので。」
母よ、どうやら俺には先見の明があったようだ。
「ちょっと待ってください、そんな話聞いてませんよ?第一仕事のたびにそんな手術とか大掛かりなことしてたまりますか!」
「今のお話聞いてなかったんですね…。ですから、手術とは言っても別にお腹を切るわけではありません。この世界に魔法はありませんが気功と呼ばれる奇跡にも等しい力があります。スミスさんにはこの気功を利用した肉体改造で、強くなってもらわないといけないのですよ。」
「強くなる?何故そんな必要が?」
「本当に話聞いてなかったんですね…。
これからスミスさんには世界大闘技会に出てもらうからです。」
(いつそんなバトルものになったんだ。)
知らない間によくわからない大会にでることになったそうだが、よく考えたらこの異世界に来る前の事前情報ってほぼ無いに等しかったもんな。
今更嫌々なことは言えないし、俺はイエスマンで通す事に切り替えた。
「ちなみにですが、名前から察するに戦う大会ですか?」
「その通りです。武器の使用も許可されています。詳しくはこのマニュアルを読んでください。」
そうシフルは言うと、一枚っぺらの羊皮紙を卓に置く。
《コロシアイ》
紙にはその一文が書いてあった。
「マニュアル辛辣すぎてワロタ。」
シフルは先程、宿屋に来る途中の売店で買った泡立つ緑色の液体を飲みながら自信げに話を続ける。
「大丈夫です。肉体改造と言っても、体に秘められている元々本人が持つ潜在能力を引き出すだけです。変な副作用とかはありません。先程も言いました通り、この世界では気功を使える方が多くいます。それを使えないスミスさんには物理的に強くならないと、気功の使い手とは戦いにならないのですよ。」
マニュアルを見た途端、手術の心配は完全に吹っ飛んだんですが。
「なるほど。つまり、俺も肉体改造をすることで気功が使えるようになるんですね。さらにその気功は一般人を超越するようなチート要素があったり?」
まったくもって、なるほどではないが、あくまでもビジネスだ、商談だ。
話のわかる男、要領の良さをアピールしつつ、さりげなくこちらの要求をチラ見せする。このスキルによって、この先の仕事の舵取りが出来るか出来ないかが決まる。
「違います。チートなんてありませんし、気功は異世界人にはどうやっても使えません。基礎身体能力を底上げし、気功を使える人と同等、いやそれ以上になってもらう為、超人になる必要があるのです。」
「……それ生活に支障をきたす後遺症とかになりかねませんか?例えばコップ持つだけで力加減出来なくて割っちゃうとか。」
「はははっ。」
シフルは短く笑うと、何も言わずにまた緑色の液体に口をつけた。
するとシフルはショタに似つかわしくないほど真剣な面持ちになると口火を切った。
「話が逸れました。何故、世界大闘技会に参加するのか話しましょう。」
後遺症うんぬんの話を逸らされたことに、俺は絶句した。