世界滅亡案件で困惑する (その1)
俺は今、とある異世界の孤島に来ていた。
孤島を囲むのは地平線がどこまでも続く濃厚な青い海だ。
さらに空は晴天、燦々と輝く太陽がいたるところの建物を反射させ眩しく見せる。南国の島国のような熱気があるが、清涼な風が定期的に流れる為、汗を掻くほどの暑さはない。
面接は無事合格ということで、即日即時の採用判定を貰い、俺はこの異世界へと転移してきたわけだ。
ちなみに転移方法は簡単、なぞの光に包まれるとかワープホールをくぐるとかいうファンタジー演出は一切不要であり、神様の力による瞬間移動で異世界へ飛ばしてもらう。
辺りを見渡すと、白を基調とした建物ばかり並ぶ街並みが広がっていた。
(意外と栄えてるな。孤島といっても人口は多いのだろうか。)
街中を歩く人々は、その場に突然現れた俺を特に気にすることなく、それぞれの生活を営んでいた。
その辺りは神さまマジックによるなんらかの神対応なのだろうと勝手に解釈しておく。
前の職場では衣類だけ瞬間移動できずに、全裸で中都のど真ん中に立たされたことがあった。
あの時は瞬間移動の違和感を消したところで、人の目に入った途端阿鼻叫喚だったな。
今回は無事成功したようだ。
(あれ、何だろうふと涙が。)
瞬間移動の度に体が勝手にトラウマを思い出すのはもう懲り懲りだ、気を取り直そう。
さてこれから何処へ行こうかと思った時だった。
「あ、スミスさん!スミスさんですよね?」
少し離れたところから、年端もいかないくらいの小さな男の子が片手をあげてこちらに近づいて来るのが見える。
言うまでもなく、この世界に俺の知り合いは一人もいない。彼は初対面だ。
「神様からお話は聞いております!僕は神の使いであるシフルと申します。あなたを導くよう命令を受けており、こうして迎えに参りました!」
俺の前まで来ると、自らをシフルと名乗る少年は、人懐っこそうな笑みを浮かべては俺に軽く会釈する。
大きな瞳に長い睫毛、垂れ目が印象的な子だ。
小さな口が幼さをより強調し、中性的な顔をしている。
俺は少年に対して愛想笑いをしながら返答した。
「あぁ、俺は無宗教ですからそういったことには興味がありません。すみませんね。」
「え、ちょっと何言ってるんですか?!僕はそんな怪しい人間じゃありませんよ!?」
(自分から怪しくないとか言われてもなぁ……。)
「では貴方にとって神とは何ですか?」
「それは勿論、神様は救済者です!世のために、時には人のために、あるべき方向へと導くのです!それが神様ならば出来てしまうのですよ!実はこの世界の全人類にも気付かぬ神様の恩恵がありまして、ってちょっとちょっとどこいくんですか!?まだ全然話してる途中じゃないですか!!」
怪しい宗教勧誘のような台詞を流暢に街中で話し始めたので、とっととこの場を離れようかと思ったところだ。
「だってこれ勧誘でしょ?」
「いえそれは違います!僕はただの導き手なんです!」
「導き手とか言っちゃうところが深いとこまで行っちゃってるんだなぁって。」
「仕方がないでしょうに!言葉の通り神様のお導きを僕が代理としてーー」
「神ウェーイ!」
「神という名の上司からの命令だよ!早く仕事内容聞いてくれよ!」
「あ、お客様でしたか。」