第8部 遭遇!
1946年10月(昭和21年10月) 東京都・神田区
沙霧と澪霧が遂に人狼と遭遇した、ホロが心配していた事が実際に起きたのだ。
学校から秋葉原に寄り道をしてかなり遅くなった帰り道に、不忍池を急ぎ足で帰っていた2人だった。人狼は好んで若い女性を欲しがり、ご先祖様が……あのカーンだから仕方が無いかも。
二人は異様な感じを受けたが初めての事だから理解しがたい。男の三人が女二人に向かって歩いてくる。付近はもう薄暗くなっているが他にも通行人は五人が見えいても、やはり三人は沙霧と澪霧に向かって来る。
父は遅い時間の夜道は絶対にダメだ言っていたのは、まさしくこのような事を指すのか。どうしよう……これはもう逃げの一手である。沙霧は澪に、
「澪、走るよ」
「はいな、姉さん」
二人は少し戻って左の路地に走り込むと三十メートルの所には少し大きい道路がある。人通りも多いのでとにかく走って逃げた。二人の走りは特に速いので人狼は途中で諦めたのだろうか、追い付かなかった。
「何なの、あの人たちは」
「背が高いから、きっと外人さんね」
「そうね外人さんは多いからね。不思議でもないかしら」
「少し驚いたね」
「そうね。これからは遅くなるよな事は出来ないね」
「遠回りでも大きくて明るい道で帰ろうよ」
しかし、これからは五時でも暗くなる季節に向かうから無理だった。ほんの少しの買い物をするだけで暗くなるのだから。
後ろを振り返りながら小走りで帰ったが、周りの誰からも人狼が居るとは聞かされてなくて焦ってしまった。もう少しで十一月だから日暮れも早くなる。
1947年1月(昭和22年1月) 東京都・神田区
冬休みを札幌で過ごした沙霧と澪霧が帰ってきた。東京駅に着いたのは二十時を過ぎていたのだが、東京駅から歩こうと考えたが時間も遅いので新橋まで汽車で行く事にした。特急列車が石炭事情のなんたらで廃止になった所為もあり、運賃倍増で帰省には苦しい懐事情だった。札幌から鈍行列車で東京へ戻るのだからどれほどの時間がかかっただろうか。
***********************************************************
この年、石炭非常増産対策要綱が昭和22年10月3日に閣議決定された。軍需産業は日本の近代化を支えてきた存在であったが、敗戦に伴い払い下げや廃止にされた。大きい軍の工場や鉱山は財閥に移されて今に至る。地方の大きな鉄工所なんかはそんな謂われをもつ企業が多いものだ。
1939年(昭和14年)からは朝鮮人労働者の集団移入が、1943年(昭和18年)から中国人捕虜の強制労働が開始されている。この強制労働が今日の韓国の***の訴訟に繋がる。しかし、求人広告を見て応募した人たちだけのはずなのにね。
日本の炭鉱は十二時間労働の二交代制であったが、強制労働ではなく良い稼ぎの仕事であった。男の工夫が不足すると婦女子が山に入るようなった。坑内は気温が40度を超えるために工夫らは殆ど裸の状態で、女も同じ裸であって手ぬぐい一本で微妙に隠していたらしい。福利厚生も進んでいてお風呂も常時用意されていた。高給取りが街に繰り出すのだから街にも多くの活気が漲っていた。
人口が増え大きな町に発展するのだが、やがて石油に置き換わり斜陽産業へと変わる。石炭産業をより効率的に進める為に鉄道の施設や海運産業が発達した。国鉄は復員兵を吸収して肥大化していく。
長崎県の端島……軍艦島には東京の人口以上の人が集まり、近代的なビルや映画館、それに娯楽施設が設けられていた。
三井では石炭が地上に転がり旅人のたき火で燃える石は見つかった。小学校の時は授業で習うも、石炭が地上に露出していたとは信じる事は出来なかったが、石炭層が露出している海岸が在り普通に石炭が転がっている。
家の近くは珪化木の石垣が多く存在している。
**********************************************************
新橋で降りたのが二十一時だったから歩いた方が早かったようだ。新橋から東に歩けばアパートの近くまで少し路地を歩くがおおよそ一本道で帰れる。途中で警視庁・特捜課・生活安全課の三人とすれ違うが気づいていなかった。
この年の2月18日に東京で若い女性が野犬に食い殺されるという事件が発生した。(これは事実です)
雪が降って餌が少なくなったからではなかった。米兵が少なくなり人狼兵が送り込まれたからであり、この時は誰も助けに入らずに表面化して新聞のニュースになっている。
本家の警視庁から安全課に激が飛ばされるのだった、石見課長は生活安全課に帰り憂さ晴らしを少々、
「木之本署長! あんたは何しとるんだ! 国民の安全はどうするんだ!」
と俺が叱られた。
「お前ら気張って働け、さもないと俺の女房を嗾ける、いいな!」
一同は「はーい」と返事だけはいい。
ニキータは嬉しそうに石見課長を見つめていて、そして一言、
「亭主から浮気の公認がでたわ石見課長! 頑張り~や、ね?」
男共は身震いをするし、悠木碧警部補はニコニコしていた。
「気を入れなおして全員……飯に行こうか、縄のれんな」
必ずこうなるのである。悠木さんが署長の守り役になるのだが、
「署長、安いお酒は飲んだらダメですよ。『ばくだん』とか飲んだ日には失明しますから」
当時はお酒が不足していたのは、国民の主食米を確保するために酒の製造が少なかったのだ。庶民には酒を飲む事は出来なかった。
当時の国の認可販売の三倍が主に朝鮮人らが密造し販売をしていた。格安の酒には「メチルアルコール」が混じった酒も多く、多数の失明者がでている。いわゆる「安い酒=ばくだん」である。だから縄のれんは少なかっただろうか。
1947年4月(昭和22年4月) 東京都・神田区
沙霧と澪霧は二年生になる。二年生は今年の新入生の入学式の講堂の準備が命じられて帰宅が遅くなった。人狼と遭遇したのだ……遂に戦闘にまで発展した。
「澪! 早く逃げて」
「姉さん向こうにも一人いるよ、横は池だし逃げれないよ」
昨年の七月に里帰りをしていてこの時に二人は覚醒しているのだが、巫女の魔法なんてものは何も分らないでいる。
宝石がソードに変身する、瞬間移動できる、時間跳躍をするなどとは何も知らない。もう走るしかないのが実情だからこの時の二人は走るしかなかった。池から大通に抜ける道は三人目に塞がれていて逃げれない、すると女の声で、
「早く……こちらに来なさい」
「私たちの後ろに隠れてて」
声が聞こえた方角には女の人が二人立っていて直ぐに一緒になった。
男共は人狼に変身したのだから目の当たりにした二人は大いに驚く。当然だろう、人狼兵の事は聞いたが聞いてはいるが理解は出来ない。
直ぐにソフィアの戦闘が始まった。
「ブリュンダンサー盾に変われ」
白のブローチが盾に変化した。またすぐにソードに変化する。
「お母さん、そこの2人を守って、私は一人で大丈夫だから」
「気を緩めるなよ」
「さ、娘さん。あの石像の所まで逃げるよ」
「あの人は大丈夫ですか? 何ですか、あの三人は」
「知らないだろうけれど、ロシアの人狼兵だよ」
「あれが……人狼兵?」
「あの子はソフィア、私の自慢の娘よ。一人ででも大丈夫だからね」
三人は一応石像の後ろまで逃げたが他には逃げようがない。人狼兵の一人が私たちに襲いかかろうとした瞬間に、ソフィアが私たちの見の前に現れて人狼兵を後ろから突き刺した。
「これで1人ね」
また飛び跳ねるようにして人狼兵に向かって行った。
「この! えい! トワーっ!」
「ギャイーン! キャンキャン! ウグッ!」
「これ貰うわ」
「お母さん……これ武器ね、使って」
鉄パイプが唸りながら飛んで来た。
「ソフィア~危ないじゃない、もっと丁寧に放りなさいよ」
「ごめんなさいお母さま。あなた達は大丈夫よね? 直ぐに終わるからね」
と言いながらソフィアは瞬間移動して二人の肩を抱いた。
その瞬間に二人の胸が光り出し、それぞれに一本のソードが出て来たのだった。先に澪霧から次に沙霧からで、冷静なミーシャは直ぐに二本の鞘を二人の胸から抜いて二人に渡した。
「キャッ!」x2
「なに! この剣は、ねぇ、何なの?」
先に澪霧から出て来たのは赤の宝石のソードで、沙霧から出て来たのは青のソードだった。それぞれが相手のソードを抜き抜いた者が持ち主になるようになっていた。
沙霧には赤の宝石のソードを澪霧には青の宝石のソードを手にした。ソフィアは二人に戦闘を促したが二人はまだ何も分からないのだ。
ミーシャが澪霧の青の宝石のソードを借りて参戦した。
「ソフィア、母さんでは追い付けないからあいつを止めて!」
「はい」
ソフィアは、はいと言って瞬間移動して突き刺した。この瞬間移動で二人目を突き刺し直ぐに撃破出来た。
「ブワーッ!」
「これで二人目ね」
沙霧と澪霧の二人が初めて遭遇したのだから怯むしかない。
ミーシャは二人の顔をまじまじとをみる、そして穴が空いた?
「あなた達は沙霧ちゃんと澪霧ちゃんよね!」
「え?」x2
初対面で二人の名前を言ったのだ、見事に見抜いたのだった。
「わ~こんなに大きくなって……霧に似ているから間違いない、こんな所で会えるなんて不思議だわ~」
「お母さん、このお二人が話してらした……お母さんの命の恩人の霧さんの子供さんね」
沙霧と澪霧はポカンとしたままに、
「あのう……貴女たちは?」
「宇宙人でしょうか?」
「違うでしょう澪、先にお礼よ。さ、一緒に。ありがとうございます」「ます」
「あらあらとても仲がいいのね、羨ましいわ~」
「教えるからソードを身体に戻しましょうか。ソフィア、お手本を!」
ソフィアはソードを両手で持って静かに息を吸って念じる。
「剣よ戻れ」
同じように二人も続けてソードを身体に戻した。
「さ、私たちの家に帰るわよ」
「沙霧さん澪霧さん、私と手を繋いでください」
「お母さん、今まで出来なかった事するね!」
「なんだい?」
「家に着きました」
「????????????」
「ほんと家だわ、お隣だけども」
「あ、ホント。ここお隣さんだわ!」
ソフィアは二人と接した事で新しい魔法を獲得が出来て、この後は味をしめたミーシャさんがどこそこに連れて行けとうるさいのだった。
「後で教えてあげるね。さ、先にお家にどうぞ」
「ソフィア、居間を片しておくれ」
「お母さんの物ばっかよ、お母さんこそ片づけてよね」
「さ、沙霧ちゃんと澪霧ちゃん、あがって上がって」
「はい、お邪魔しま~す」
「姉さん、これ学校の……教科書よ」
「ミーシャさんは学生さんですか?」
「あら嬉しいわ! でも違うわよ。これはソフィアのよ、ソフィアも貴女たちと同じ学校ね」
「沙霧さん澪霧さん、同じ学校ですって? ま~奇遇ですね」
「学校ですれ違っていたとか……ですか?」
「お友達が出来てすてき! です」
「ユキさんと桜さんはお元気かしら」
「はい桜子は母です、逞しくなってます。ユキさんて誰ですの?」
「麻美さんの真名ですよ、ご存じないんですね。エストニア戦争では活躍してありましたよ」
「桜さんは、もうリーダー気取りで作戦の指示を出したりでね」
「はは! お母さんは当時から凄かったんだ」
「もっとお聞かせください、澪は知りたいです」
「でも霧さんはとても残念でした私らでは助ける事が出来なくてね、悔しくて随分と泣きましたよ~。ユキさんはもう付きっ切りで世話をなさっててね」
「そうなんですね、母の事を助けて頂きありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いえいえ霧さんには私と私の母を助けて頂きましたので当然の事ですから」
「もっとお母さんの事……お教えください」
「お願いします」
「霧さんはね、最後まで貴女たちを抱いて離さなかったわよ」
「きっとお腹の傷がとても痛かった筈なのに、一言も痛いとは言わなかったの」
「そうなんですね、強い母だったんですね」
「ええそうよ、それは自慢していいわよ」
「強かったわね~霧は。私はソフィアを産む時は大きな声で叫んでましたのよ。だから?」
「だから何よ。お母さんのお腹から出たくない、とでも叫んだかしら」
「貴女たちは夕飯食べていくでしょう? 少し手伝って」
「もう、直ぐに話をはぐらかすんだから」
「あ、私は手提げバッグを落としてきてる、直ぐに戻らないと」
「お母さん二人で行って来るね、夕飯の支度をお願いするわ」
「炊飯器は無いんだろう? 私じゃ全部を黒にまでしちゃうよ」
「早く戻らないと大変よ男共が来ちゃうから。澪霧さん、靴はいて」
「あ、はい」
「跳ぶわよ!」
二人は消えても沙霧はまだ信じれれないでいる。ミーシャさんと夕飯の支度を始めたら直ぐに2人は戻って、
「あのう……ニキータさんがいらしてて見つかりました。ただ何も言われませんでしたが勘繰られたと思います」
「ソフィアさんには離れて頂きましたのでソフィアさんは見られてません」
「今度は三人でいっといで、ソフィアは過去に飛べばいいだろう?」
「過去にも行けるんですか?」
「大丈夫ですから任せて。さ、手を繋いで……気を静めて~」
三人は過去に飛んでバッグを持って戻る。下記の四行が消滅した。
「アホか、被害者は女だろう。手荷物があるだろうが」
「学生証がありますね、杉田澪霧さんです」
「澪? あ、あぁん!」
「あのう~私の忘れ物です、すみませ~ん」
さて澪の二つのバッグが存在したのかは不明です。この三人は学業にも仕事にも大いに利用していましたね、それで卒業生代表の決定が長引いたのでしたよ、決定の経緯は二年後に!!
「ニキータさんよ、年上の女房には思わぬ所で苦労するらしいが、ホントだね」
「そうだろうよ。年下の旦那は何時も楽でいいらしいが、ホントだね」
「シン、現場検証させるのよ。でも人狼の三人はどうしたんだろね」
「警視庁の変態検死官に届けるよ、生きてたらまた拷問かね……可哀そうに」
「署長、人狼では無くこいつらは人間ですよ、被害者でしょうか」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
石見課長は別件で居なかった。
「ニキータさんよ、さっきも同じ事話さなかったか?」
「…………?」