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人狼 Zwei (ツバイ)  作者: 冬忍 金銀花
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第7部 ミーシャの来日


 1946年8月(昭和21年8月) 東京都・神田区


 八月、沙霧と澪霧が実家へ帰省中に東京高等師範学校へ留学に来日したロシア人がいて、名をソフィア・ループス・カムニという。要は日本語の研修と日本文化の研究等、修得できるものなら何でも吸収して帰りり、帰国後ロシアで日本についての科目を教えたいが為に教育課に留学しに来たのだ。


 これは建前であろうが……。


 母はミーシャ・ループス・カムニと言い、1927年8月に霧たちが探し求めてエストニアの独立戦争で共に戦った巫女だ。留学するソフィア一人では不安もあるしで付いて来た。モスクワで大学教員の助手をしていて帰国後はハイスクールの教員になる予定だそうだが。


 学校に留学と転入手続きを終えて神田の宿に泊まる。早くアパートなり間借り先を見つけなければならないが、当然徒歩通学だから近い方がよい。


 1946年は東京大空襲の翌年で国民総出で住宅の建設に当たっていた年でもあり、地方移住者からの人員を留め置く為の廃棄されたバスの住居が多数在った。でも勝手に住み着いたと言う方が正しい言い方かもしれない。ここで8月の1か月を過ごすのだが、廃墟みたいな日本を見て哀れむのではなくて、暑い日本の夏で参る自分の身体を哀れんでいた。


「これが霧や桜子の国かいな、空襲で焼けたからとか考えられない」

「お母さん、私……」

「それを言ったらダメよ」

「そうね、お母さんと一緒だもの私は頑張る」


 ソフィアが逃げ出さぬようにミーシャが付いて来たのかもと勘繰りたい。事実、若い女性のロシア人が独りで暮らせるようなご時世ではないと、傍目からでも分かるものだ。逞しい日本人には脱帽するばかりだとか。


 桜子のお国は北海道の札幌で空襲も受けていないのだから、違うのだからね!



 翌月の九月になってから学校の斡旋で木造アパートに住居が決まり喜んでいた。早く決まった理由として上げる事が出来るのは……事故物件だからか。


 東京の八月をバスの中で過ごしたのだから、ロシアの気候からすれば相当身体には堪えただろう。木造アパートは神楽坂辺りであったので二人はホッとする。


 人口の流入で大通りの歩道に並ぶ露店や闇市は大いに賑わい、地方からも食糧は届くが東京の街中でも麦や野菜の栽培がなされていた。大都市で野菜の栽培だよ?

 


 いよいよソフィアの通学が始まる。


  母のミーシャが買い物に出たら最後、いつまでたっても帰らなのでいつも帰宅が遅くなるから、ソフィアは学業の勉強が進まない。


「お母さん、買い物遊山と私の勉強時間とどちらが大切でしょうか? お母さま……私を連れ回さないでくださいまし」

「ソフィア~道頓堀に買い物に行くが、どうする~?」

「は~い、私も行きま~す」



 日本の地名には区別がつかない。



 1946年8月(昭和21年8月) 東京都・八丁堀


 ミーシャの買い物が遠方にまで延びた。お魚を買いたいというのがその理由で、八丁堀は海が近いから魚が沢山売られていると聞いたから、さあ大変だ。大きな袋を提げてイザ!


 夕餉向きに青魚や鯛などが売られていても、鮮魚は持ち帰っても日持ちしないから天日干しの開きを多数枚購入する。


 八丁堀から北に向かう途中で四人の大きいロシア兵に会った。同国だから雰囲気で分るが、人狼の感じまでするので素知らぬ振りして避けようとするも、今回も人間狩りだろうかソフィアが目を付けられた。


「なんでしょうか、ここを通してください」

「ちょっとそこまで付き合ってよ、ね」

「イヤですわ、臭いがたまりません」

「ブリュンダンサー……盾に変われ~ソードに変身よ!」


 何が盾に変ったのかが分からないが、ソフィアがソードを構えるとロシア兵は四人とも人狼兵に変身した。これがミーシャとソフィアの初開戦になった。


「あんたたちは誰に喧嘩売ってるの、買いたくないから逃げてよね」


「ガルルウウ……」


 ソフィアは瞬間移動で二人を突き刺にしてしまう。時間を掛けたら数の原理でこちらが負けてしまうからで、母が遠くに逃げてくれたらソフィアも瞬間移動で逃げる事にしている。これは打ち合わせの通りなのだが予定が狂うとかは考えてもいなかった。


「あ、誰か来る」


 ソフィアは直ぐに立ち去ったものの、この後に警視庁・特捜課・生活安全課がやって来きた。


「問答無用~発砲せよ」


 パーン、パーン、パーン。


 拳銃の発砲音が響きニキータはソードで切り込んで残りの二人を倒した。試験研究の為にとどめを刺す事が出来ないから、捕縛してこのあとにイカレ研究者に送られる。


「ニキータさんよ、これは巫女の仕業か? もう人間に戻ってるぜ」

「そうだね、誰が居るんだろう」


 あの双子ではないだろうしとニキータは考えた。……今晩は串焼きがいいな。



「ソフィア~焼けたよ~ご飯は炊けたかい?」


 七輪で焼き上げるのは臭いがいいからたまらない、団扇で煽って火力の調整は意外にも難しい。いやいや難しいのは別の意味であって、この頃は魚のサイズは特大と大きいのだから、七輪からはみ出す頭と尻尾は生焼けにするのがみそなのだ。


 ミーシャはアジの開きを買ったんだよね、なんだか違う会話が聞こえてきた。


「お母さん、串焼きだよね?」

「この魚は串に刺してるよ、崩れないからお勧めよ」


 この干物はメザシなのだろうか。アジの開きがいいんだけど、これだと七輪では一枚ずつしか焼けないからね。


 細長いサンマは一度に四匹は焼けるとしても、焼き網からはどうしても頭と尻尾が出てしまい、焼き網を適宜ずらしながらサンマは焼いていくしかない。


 ……対、野良猫注意報も発令されていた。





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