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人狼 Zwei (ツバイ)  作者: 冬忍 金銀花
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第6部 里帰り


 1946年7月(昭和21年7月) 北海道・札幌市


 七月に沙霧と澪霧の東京高等師範学校が休みになり二人は里帰りをするも、実家には先に電話連絡を入れておいたにも拘わらず両親は二人を見てとても喜んだ。また二人の保護者としてホロお婆ちゃんも一緒になって帰省している。


「まぁ元気にしてた? こんなに綺麗になって」

「ホロお婆ちゃんにはお世話をおかけして申し訳ありません」


 お婆ちゃんに買って頂いた洋服が綺麗なのかも? しれない。


 ホロお婆ちゃんが一言も話さないのはボケたふりではないのだが、きっと親子の会話を邪魔したくはないからかもしれないね。



 澪が提案した。


「ホロお婆ちゃん、お母さんのお墓参りに行きましょうよ」


 お母さんと言うのはもちろん霧の事であって桜子ではない。四人とも相槌を打って姉妹も四人揃って行く事になった。


「もう東京は暑いので嫌よね、札幌はサッパリしていいな」


 とりとめの無い会話が続く。


 札幌市中央区南の寺まで約一キロの距離で散歩には丁度いい距離にあり、命日は十月十五日だが学校があるからその日には行けない。母のホロは月に一回はお参りしていて私たちは年に数回と少ない。


 残った家族とは……両親なのだが、四月と十月は必ず天国の母に報告をと参拝している。


 今の自宅は札幌市北区北十五条東にあり、阿部教授のお父様の伝手つてで借りている。家族が七人と多いので旧商家のやや大きい家になった。阿部教授のご自宅も近い。



 桜子はお給料日前でピンチの時にはいつも上の二人を差し向けていて、その後は四人にまで膨らんでいる。帰省した二人は教授にも挨拶にと行ったが当日は帰らなくて、その理由として何の事は無い麻美が酒持って来ていたからだ。第一の母が居るのだから帰れる筈も無い。


 霧が天国の母で麻美が第一の母。桜子は第二の母で実母の扱いになる。ホロも行っているのは教授の兄嫁だからだが、日本に帰ってからの付合いになる。幸夫が居ないから淋しい間柄になった。


「麻美お母さま、お久しぶりです」「です」

「沙霧、澪、よく帰ったね。元気そうでなによりだよ」

「はい、ありがとうございます」「ます」

「先生、お久しぶりです」「です」


 麻美を真ん中にして二人は寄り添い「麻美……確保!」とばかりにもう動こうとはしない。三人が並んだら三姉妹にしか見えない。それは麻美も若く見えるからで沙霧と澪霧は、霧みたいに乗馬には行けなかったが極まれにクロの背に乗った位だ。


 阿部教授は目を細めて見ている。サワ奥さまはメイドさん、トミお婆様はキッチンに立ちっぱなし、ホロお婆ちゃんはトミお婆様のお手伝い、平蔵お爺さまはもう飲みっぱなし。どうしてか、阿部教授のお子様二人が我が家に避難して来るのだった。


「そっか! うるさいから逃げて来たんだ」


 綾香と彩香とはとても仲が良くて名前は亜衣と静香という。綾香と彩香とは一つと三つ違いの下になり、教授がサワ奥さまを押さえ込むのに時間が掛かったのだろうか。


 四人は二階に上がったら風呂とトイレ以外は姿を見せなかった。



 どうしてか私はお部屋には立ち入り禁止になっていて、部屋は性格とは真逆でいつも綺麗にしている。ドアの隙間から見えただけだが、上の二人が東京に行った日から彩香が占拠しているも、姉二人の持ち物は多くはないのでそのままになっているという。禁止理由はフィギュアが沢山隠してあるからだ。


 その後も増え続けていた。


 綾香と彩香のワルが亜衣と静香にどうか伝染しませんように!



 ホロお婆ちゃんは私に人狼兵が東京に出現する事は話していくて、知らないとは言え、このまま何事も無く過ぎる事を願っている。遭遇しないように監視の為にも近くに住居を定めたのだ。


 沙霧と澪霧は端っから思いはしていないだろが、私は赤と青のロザリオとダイヤの事は忘れたような感じがしているらしい。生活に必死だからかもしれないし、無意識に避けているのかもしれない。


「只今~」「ま~」


 二人が帰ってきた、もちろん付録が付いていて、


「桜~お邪魔するね~」

「あら、いやだ! 麻美まで」

「いやだとは何よ、失礼ね!」

「ママ連れて来た。澪がどうしても一緒に居たいからとうるさいから」

「姉さま! 澪は何も言ってません。言ってるのは姉さまです」


「さ、上がって」


 私は娘のジャレごとは無視して麻美を台所へと案内する。だって両手に何やら下げているからだよ。



 夕方になると沙霧と彩香が一緒にお風呂に入っている。


「彩香、肌が雪みたいに本当に白いね、羨ましいな~」

「そお? いいでしょう」

「彩香、頭、洗ったげる」

「うん、お願い。もう随分昔になるね、洗って貰ってたのがつい最近のように思えるな」

「そうよね~家事で忙しいお母さんを休ませる為に澪霧が考えたんですもの」

「お湯をぶっかけられて、泣いててごめんなさい」

「澪みたいに、こぶは無いんだね。澪はこぶを隠すのに必死だったよ」


 今度は澪霧と綾香が一緒にお風呂に入っている。二人一組でお風呂を済ませる、と澪霧が言った時には母の私は泣いて喜んだ。それも昨日のことのようだと思える。私が下の二人をお風呂に入れるには長風呂になり大変だった。


 二人もお風呂を済ませて四人とも二階に上がってしまうと親としては淋しいのかもしれない。さて階下では酒盛りで盛り上がっていた。


「桜、二人が東京に行って楽になり良かったな」

「良くはありません、仕送りが大変ですもの。牛1頭を持たせる事も出来ないしね」


 私が愚痴を零すと必ずホロお婆ちゃんに一言申すのだ。


「ホロお婆ちゃんには二人をお願いしますよ、東京では頼る人はお祖母さまだけですのでね」

「せっかく戻ったというのに母には相手もしないし、もう淋しいやら嬉しいやらで親は複雑よね」

「ね、あのニキータはどうしてるの? 男勝りで旦那を尻で押え込んでるかしら」

「あれは想像の通りだね、男共を切り刻むしか能が無いんだよ」


 麻美が不満を吐き出して来た、事実とは少し違う。


「ねぇ知ってるかしら、ニキータ夫妻が疎開してきて子供を産んだのよ。それがなんと、産みっぱなしで東京に戻ってね、便りも仕送りも養育費の送金も無いのよ、ひどいと思いませんか?」


 ホロお婆ちゃんの酔いが回り出した。


「ほぇ? 儂には何にも話しとりゃせんぞ、同じ職場で働いているがどがんしたとかね」

「完全忘却とか? あり得んです、まさに親失格ですな」


 麻美が続けて、


「人間はどうでせう、もう失格とか! 俺の娘に、いや違う。麻美さまに代わって瀬戸家の跡取りに据えてやるよ。親父も諦めて望んでるしな」


 私は、


「叔父さんは何を諦めているんですか? あ、あ……? 麻美の事か! 馬と駆けっこしているもんね。納得よ、あんたも娘二人を産みっぱなしで実家に放置してないかしら? どうなのよ」


「いいじゃない、親がボケない様にお願いしているから」

「お前らは、カッコウか! 托卵しかしない!」


 ホロお婆ちゃんが続けて、


「桜子は良く出来た子ですよ、私の孫二人を引き取って育ててくれたし感謝しておる」


「あの二人の元気良さにはこの桜子さんも脱帽しました、いっぱい困らせてくれるんですもの休む暇も無かったわ。十歳の霧しか知らなかったけれど、まるで霧が二つになったみたいで楽しかったな~」


「智治さん、お酒が無くなりました、どうにかしてください。桜のうっ憤晴らしにはもう少し必要です」

「アイアイサー!」


 智治さんは女の園と化した家では、そりゃ~大人しいものだった。



 この晩に沙霧と澪霧は完全に覚醒して四者四様で夢を見ている。ダイヤの遠い過去の記憶か、桜子の想いか、四人姉妹のそれぞれの想いが共鳴して留まる事は無かった。


 翌朝は四人とも眼を腫らして起きてきた。


「どうしたのその眼は。あらあら、みんな同じ顔をしてる!」



 桜子はダイヤの強い影響を受けて綾香と彩香を出産した。桜子が持っていたダイヤは桜子に吸収されて綾香と彩香に受け継がれている。ロザリオを持つ二人とダイヤの能力を持つ二人がお風呂で裸で触れ合ったのだから当然であろう。


 親の思いとは裏腹になってしまう。


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