第20部 デルフィナ
1947年10月(昭和22年) 東京都・六本木
ロシアのとある研究者からの二通目の挑戦状が届いた。内容は、
「昨日の完全勝利お祝い申します。十日後からは兵士らにも刀を持たせますのでご通知いたします」
「名前の無い研究者より。熱い秋波を籠めて!」
署長が全員を集めて指示を出した。一週間を好きに過ごせと言う。
「明日から一週間を休みにした。各々休息なり取ってくれたまえ。俺らは娘の顔を見にいくから北海道へ行く」
紹介しよう。
1935年11月22日生れの女の子で名前はデルフィナ(意味:イルカ子)(昭和10年)十二歳 北海道の瀬戸家に***ぱなしにされているのだ。
北海道の瀬戸家は苫小牧市植苗、白鳥湖の湖畔にある静かな所だ。札幌より四十五キロほど南の所にある。白鳥が居ると五月蝿いそうだ。
デルフィナはとても馬が好きなのだ。親はどうでもよい両親の顔を見ても? である。
「あんたらは、誰?」
母親譲りで言葉が悪いのか、人を見下した言い方をする。
「デルフィナ。お前の両親だよ、忘れたかい? 淋しい事をお言いでないよ」
「これはこれは、月の養育費・千円の木之本さん夫婦ではないですか。十二年分の清算にこられたんでしょう? 長すぎて……ろくろ首になりました」
「食費が千円x十二か月x十二年=十四万四千円 教育費=八万円 服等が三万円。合計で二十五万四千円 きっちりお支払い下さい」
「他に病院代や電気代はサービスね。さ、早く出しなさい」
「すみません、もう帰ります」
「逃がしゃしませんよ。デルフィナ……二人を捕まえとくれ」
「はい、お母さま!」
デルフィナは得意の投げ縄で二人を捕縛した。
もはや親は親たる事では無くなっている。産みの親でしかないのだ。
「お母さま。デルフィナはこのまま置いて帰ります。養子縁組の書類は明日にお持ちします」
「おお~新しゃん来たかい。さ、上がれや酒飲むべ。今年のワインは良く出来たで~ニキータさんは好きだろう」
「はいお父様、ワインは好きです」
「で、デルフィナを連れ戻しに来たんかい」
「は、はい。そうです」
「麻美の妹だから渡しはせんぞ。俺らの面倒を見て貰わねばならぬ。だから支帰さんぞ」
「お父さん、そんな事言われましたらニキータさんが可哀そうですよ」
「そうさなデルフィナ! お前はどうしたい? ここに残るか、それとも東京でべコ飼うか?」
「ここで馬に乗ってる。そこの親は知らな~い」
「もう勘弁して! デルフィナ~一緒に帰ろう? 東京の女学校に行こうね」
「うん考えておく。女学校は行きたいかな」
「うんうん、そうしなさい。来年四月に迎えに来るからね」
「ジンギスカンの用意が出来たぞ庭に出んさい。皿とお醤油を持っていってくれ。デルフィナ縄を解いてくれや」
全員の八名で焼肉が始まった。デルフィナは東京には行かないと言う。デルフィナは身長、百六十五センチとやや大きい。髪は黒でストレートのロング。肌の色は日焼けでやや黒い。短い半ズボンで綺麗な足を惜しげも無く見せている。力は強い方だろうか。今日は長い酒盛りになった。子羊が一頭横付けにされている。
翌朝は親子で乗馬を楽しんでいる。久しぶりにクロを呼んでの乗馬だ。
昼過ぎに桜子が怒鳴り込んできた。レース中のクロが居なくなったので万馬券になったそうで競馬場の損害金の弁償をしろ! と言うのだ。本当は自分の配当分だろうが盛り過ぎてばれてしまう。
「麻美! 元気にしてた? 子供は馬三頭なの?」
「馬じゃありません馬子です。衣装を着せたら人間になります!」
麻美は子どもらに余興をさせるつもりなのか、
「あんた達デルフィナと競争しといで。負けたら承知しないよ」
大きい声で嗾ける。いつもの事らしいが傍から見ればとても怖い。
「小母さまたちはいつまで滞在されるのですか?」
「デルフィナが一緒に帰る、と言うまでです。うんと言わないんですよ」
「そうでしょうね、私が教育しましたから、諦めてください」
「おいおい、それは無いでしょう。デルフィナは帰して下さい」
「もうだめよ、私と同じ騎士にするのだから」
「あなた達は刑事でしょう? 仕事に励んでください」
言葉が出ない。
「麻美お姉さま! 私勝ちましたの。三人はお父様から鞭打たれてますわ、可哀そうです助けに行かれませんのかしら」
デルフィナは随分と丁寧な言い方だ。皮肉かしら麻美にだけの言葉かもしれない。麻美は何とも思わないのか、事実と反すると確信しているのか、何も言わずに黙っている。
考え事をしていただけだった。麻美はニキータを見て少し口が開いた。何か言いたそうだ。
「ねえ、小母さま。いつまでもデルフィナが帰らないと言えば滞在を続けるのでしょう? デルフィナが不思議な事を相談しに来たのです」
それはデルフィナの夢の事だった。私たち巫女には不思議な夢を見るのだ。過去の事や宝石が持つ記憶を夢として体感してしまう。今回もそうだろうが無視は絶対に出来ない。
「で、どんな夢なの? 宝石は持たせてないし、封印や覚醒もしていないのよ」
「そこなのよね、神のお告げではないのかしら」
「人狼の巫女にしか感じないのよ、きっと。私は人間に戻ったから感じないのよ。でね、その夢は……」
あることないことを説明する。
「日高山脈に人狼伝説があるとは知らなかったわ」
「うん調べる必要有り、だね」
「日高山脈・レサッピ山の中腹、滝の様に流れる沢の畔に来い、と言う事ですって」
「お出でのお誘いか、てめぇから出て来い、と言いたいよ」
「人狼の巫女……目覚めよ。と言うの? 私たちで、どお? 行かない?」
「私は覚醒してるし、行ってもダメだろうね。麻美はどうかしら」
「私もダメだろうね。デルフィナを引っ張って行くしかないかな」
「娘はどうしたいか、訊いた事あるの?」
「デルフィナを呼んで来るね」
「私が呼ぶからいいよ、ちょっと待ってて」
「デルフィナ、お前の夢の事で麻美と相談してるの。お前もおいで!」
四人の子どもたちが現れた。三人も子だくさんだね、と言いたいくらいだ。みんな元気で明るい笑顔をしている。
「ねえデルフィナ。お前の夢の事だけれども、お前は行ってみたいと思ってるのかい? 巫女の宿命はどうしても避けられない事は無いのだけれども」
「麻美小母さまみたいに、人間に戻ればいいのでしょう?」
「そうだね。最終手段で取ればいいさ。でも母さんにはもう力が無いんだよ。デルフィナを産んで力はお前に移ってるんだから」
「誰か居ないの?」
「東京には三人居るのよね。でもまだ誰かが判らないで困ってるの」
「あの双子ではないの?」
「違うようだしね」
「ねえ、どこかの知らない小母さま。私、行ってみたいの。行かないと殺される事はないだろうけれど、毎晩夢に出て来るからどうしたらいいか」
「母と呼びなさい。いいわね」
「イヤだ」
「デルフィナ! 頑固」x3人
「お~いシン。ちょっと来てくんないかな」
「なんだい、難題かな」
「ダジャレを言いでないよ。部下の三人を至急呼んでくれないか」
「OK,直ぐに呼び寄せるよ。で、難題はなんだい?」
「日高の山に人狼伝説があって今年には人狼が山から下りて来るらしい、というのよ。で、デルフィナも行きたいと言うし、親としても見過ごせないしね」
「なら決まりだ。業務命令を出すよ。揃い次第に出発しようか。明日だが」
「明日だが?」
「んだ?」
三人は夕方に顔を見せた。既に札幌まで来て待機兼観光をしていたとう言う。夕暮れの早い時間から二次会の宴会と続いた。横付けにされた子羊は全て皿に盛られてしまう。
「このラムは俺んだ。この肉は私が育てていたの。俺の肉、食うな」
騒がしい連中だ。娘三人は終始笑い転げていた。
食費と宿泊費、すべて安全課に請求書が回された。しかも異様に高額だ。




