表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人狼 Zwei (ツバイ)  作者: 冬忍 金銀花
2/91

第2部 不思議な事件


 1934年8月(昭和9年8月)東京市


*)UMA(未確認生物)


「お~い源さん、ちょっと来てくれ。北海道の道警から救援の依頼が来ているんだ、すまんがアイツと二人で行ってくれないか。ばけもんが出たというんだ。」


 ここの署長は平山といって九州の田舎の出身で今年で五十五歳になる。結構な切れ者のエリートでもあるが、行動があまりにも奇抜すぎて左遷にあい、ここ警視庁特捜課の生活安全課の勤務扱いとなっていた。バーコードはこの年代にはないが、バーコードの少し前? みたいな妙な感じもする人だ。だから苗字しか分らない。生活安全課へ名指しの異動だった。


 ここの仕事内容はおのずと知れよう。


ひらさん、うまかもんが出るんかい? 喜んで行くぜ!」

「うまかもんじゃ無いバケモンだ。これで分るか、カタカナで書かないと解らんのかね。」

「お~い、古田。来てくれ。」


 源さんとは、平賀源蔵という名前でマタギの経験がある大男である。マタギだけあって顔はゴツイし歳は五十五歳で署長の大学の同級生でもあり仲が良かった。


 技術畑の現場向きの男であるにも拘わらずに、鉄砲に魅入られて野山を駆け巡り三十五歳の時に平山署長に、逆に魅入られた傑物であった。


 古田は源さんの子飼で年齢不詳の三十二歳ほどの体格のいい男である。まぁ~源さんの戦闘兵になる。無口で力持ち、優しい所もあるが残忍さが強い性格の持ち主で、平賀源蔵と同じくゴツくて背が百八十センチ超で体重は九十キロ程度か。公務員扱いでは無く傭兵=バイトであって名は古田透という。


 そんな人物が集まる警察署の安全課、押して量るべき仕事なのだろう。


 署員にはもう一人いて二十四歳の新入りが居る。まだ大学を卒業して刑事課を2年で卒業した強者であるが、女には弱い性格の持ち主。後々に酷い女に捕まり苦労する事になるのだが。


 この男も「面構えが良い」と評価を受けて平賀源蔵が引き抜いてきたものだった、もとい、引き受けたものだったか?


 身長は百七十センチで体重が七十キロでまあ普通。筋肉質でいい体格の持ち主で名前は木之本新之助。今時にしたら古風だろうか、好奇心旺盛の男で刑事課では使い物にならないのでここに入れられた。つくづく女運が悪い星の下に産まれてきたというか。


 そう、木之本新之助である。



 紅一点の悠木緑さんは二十三歳でとても綺麗な婦警さんだ。本来はコーヒーとお茶を入れる毎日が続くはずなのだが、脇役に抜擢されて出番は多くなる。百六十センチで超スリム、柔道初段だが喧嘩がめっぽう強くて、とてもでは無いが出ているとは言えない。


 ここは東京の下町の神田に三階建のビルに刑事課や特殊機動隊の分隊がある。署長は名目であり使えるのは生活安全課の3人と傭兵の1人のみだそうだ。警視庁直轄の部署で安全課の名前には『市民の安全』程度の意味合いしかない。


 いわゆる超常現象の調査・担当を担っていて、二年前から不可思議な事件が発生するようになり結成された。戦闘バカの集まりになるが必要ならば機動隊も、警視庁への許可申請が通れば使用できる権限が与えられてはいる。


 東京駅も近いので神田に位置する意味は何だろうか? どうも全国区の対応を迫られるみたいだ。



 さてさて北海道の道警から救援の依頼が来いてるのだが、事件とは?


 北海道のヒグマで名前が付けられていて「OSO18」という。急激に凶暴化したのだろうか、牛は六十五頭を襲い三十一頭を楽しんで殺しているらしいのだ。らしいとは牛を殺しても一切食べていないからでそう判断されている。


 でも最近は違ってきていて道警も対応に苦慮しだした。


「今回も酷でぇーな、羊が襲われて騒いだから見に行って『ガブリ』だろうな。奥さんの話しでは何かデカイ生き物らしいそうだ。」

「……。」

「これで3度目だろう? 道警も『熊にやられた』と、調書に書いて片づけたいだろうに可哀想なこった。」

「古田……何か臭うか。また犬のようなもんか……どうだ。」

「前と同じ。」


 古田は何時も短い言葉で終わるので前後を考える必要があり、ある意味楽でもある。自分に都合がいいように解釈して取れるからいいのだとか。


「同じバケモノの仕業に押し付けてるんじゃないよ。」


 道警に訊いてはみるのだが何も情報は無い。聞き込み? と言われても、ここが何処だかは理解してね~だろうな、お隣まで四十キロも離れていて意味がねーよ。東京じゃお隣は四十センチメートルだもんな。二世帯住宅だとスープどころかコーヒーすらも冷えないっうの。


「残留物や下足痕はどうだ。」

「裸足のようだが三十センチメートルはあるみたい。」


 J・馬場なみの大きさ以上か、とすると(1938年1月生れ、まだ存在して無い。)


「身長が二百五十センチ……デカイな、イエティでも居るのかね~。」


 だから専門の超常現象の調査なのだろう。


「他はどうだ、血痕とかは無いか。」

「無い。」

「じゃぁ……帰るか。もつ鍋でも食いに行くかな。」


 帰路に就く。報告はもつ鍋上手し! いや美味しか。


 その後は北海道に異変は起きないで経過した。




*)ニキータの伴侶は?


 東京では夜中に若い女性を狙った事件が多発して、女の一人歩きを狙うたちの悪い事件が起き出した。夜の見廻りという名の赤ちょうちん巡り、人気ひとけの無い路地裏で悲鳴が聞こえてきた。当たりだ!


「ギャー助けてー。誰か誰か助けてー。お願い! 助けてー。」

「喚いてろ……今助けるからな!」

「ボコン!」  「キャー……、」  「あれ~!!」


 独りの女がバケモンの前に颯爽と現れて、それと引き合えに赤い服の女の人が飛んで行く。


 俺さまは木之本新之助だ、偶然にも事件に遭遇した。即、逮捕だ!


 しかしどう見ても立場が逆転しているものだから、見ている訳にもいかず訊いてみることにした。


「ダーっ、なんだこのタコ野郎! ぶっ殺されたいんか? あぁん?」

「ギャー!」

「大人しく殺されろうや。やったな! これでどうだ!」

「ギャフン! ギャーフン! ギャフン! イヌノフン! 踏んだ」


 飛び蹴りに踵落としに膝蹴り等々、女の人に押されてバケモンがタジタジしているのだ。その現場の横に座り込んで木之本は女に声をかける。


「ところであんたは何してんだ? このバケモンにいどもうとは良い心がけでもないぜ。あんた、バケモンを苛めて面白いのか?」


「あら見られたかしら。今晩は、いい夜ですね。」

「白々しいぜ、あんたを逮捕しようか。」


 ニキータは宙を見つめてクロと叫ぶ。


「クロ…… 出ておいで。この兄ちゃんの命吸っていいから飛ぶよ。」

「ブヒヒ~ン!」

「わ! 何だこの馬は、どこから来た。」

「黙ってて、食べられちゃうわよ。」

「馬さん食わないで、俺は美味くないよね! ね! 勘弁して。」

「代わりに俺が食ってやるから静かにしてろ!」

「あ、あ~、あれ~!……、」

「クロ……もういいよ。逃げられたよ。」


 カイブツはタジタジで逃げていった。この女の人は男の出現で調子を崩したのか、木之本に気を奪われてバケモンを逃がしてしまった。


「驚かすなよ。ちょっと、あんた一言いいか。」

「さっきは何で助ける女の人を蹴飛ばしたんだ? ピンクが見えたじゃないか。」


「あぁ? そりゃ~バケモノを蹴るより確実だろう? それに近かったしな。軽いから良く飛で喰われなかっただろう? あぁ? 違うか?」



 女は暴言を吐いて木之本に質問しているが、答えを聞く前に帰っていく。


「じゃぁね、お兄さん。ピンクは連れてくわ。」


 女の人と馬は消えてしまい襲われた女性は馬が咥えて行った。


「今日も証拠がねーじゃねーか、あの姉ちゃんは何だニャン。」


 木之本新之助が遭遇した不思議な女だがその後も二回遭遇した。3回目の遭遇の時は悠木緑が同行していたから状況が変った。


「イヤー止めて! 向こうへ行って。お願い助けて。」

「ガウウゥゥ……、」

「ギャー痛いー! 止めて~!」


 パン・パーン。パーンと木之本新之助は拳銃をバケモンに発砲した。悠木緑も応戦し同じく拳銃を発砲したのだった。


 ドドドッ……マシンガンの響きがした。だが銃弾が当たっても怯まないバケモノらだった。


「悠木~! 逃げろ~もう一匹居る!」


 木之本は悠木を庇いバケモンと取り組んで嚙みつかれて、身体中が切り傷だらけで致命傷だ。木之本の頭に浮かんだ言葉が、


「チーン! 短い命だったが、ま、これも運命か。」


「新さん! 新さん、しっかりして。今、救急車を呼ぶからね。」

「いや……もういいよ。どうすれば救急車を呼べるのかい? 昭和9年だぜ。」


「ドスン、ドカーン、ガーン、ボフ、ギュ! 最後は、ポイ。」

「今日はこれ位にしてやるよ覚えておけ。次は一刺しにすっからな、ば~ろうが。」


 この前の女が現れてバケモンを蹴散らしてくれた。そうして二人の傍らに立ち声を掛けた。


「来たぜ救急馬がね。クロ、この男! 連れて行くよ。」

「ブヒヒ~ン!」

「そう嫌がるなよ、いい男なんだぜ?」

「ブヒ!」

「ねーちゃん、この男は貰ってくぜ。」


 婦警と襲われて噛まれた女性が残った。これが初めての生き証人となる。今までは殺害されたし馬に食べられた? のだろうか連れて行かれたままだ。しかし事実は真実とはならなかった、警視庁の人間は信じ無いからだが。


 平山署長だけは信じてくれた本当の怪事件だ。



 悠木が書いた調書は、


 身長二百五十センチメートルで、しっぽと耳つきの大男。署長と変わらぬイカツイ顔ながらにして跳躍も高く、身体能力が長けている。人+狼=人狼のような生き物の神着かみつきで裸足で服は外国の兵隊服のようだったと。バケモノは拳銃では全く倒せないから、木之本新之助はきっと人狼で無く女に殺されたのだ、と報告した。


 馬は高さが三メートルほどで跳躍力が強く、女の言う事を聞いて直ぐに姿が消えてしまった、とも。



 連れて行かれた女性は巫女の輸血で治療と看病されていた。女性は治療後に記憶を消されていて代わりの記憶がいいのだ、ハンサムな男にハントされる夢だとか。別だん女に血を与えても影響は無い。


「ねぇホロ、この男は貰ってもいいかな、俺の旦那にしたい。」

「死体にしたいの?」

「そうじゃねーよ、色男だし強そうだしね。」


 木之本は目を覚まして『ここは天国か?』と訊くのがやっとだった。


「おい! 死ぬ気か、あぁ? 死んだら殺すぞ! 今、俺の活き血を飲ませるからな覚悟しとけ!」



 ニキータは1934年10月(昭和9年10月)男を求めて東京に行って、不幸にも良い伴侶に出会ってしまう。木之本新之助は女にはからっきし弱い男でニキータが強く言い寄るものだからポロリとなるのだ。


 この頃にはニキータとホロは同居を始めていたし、仕事は警備員と居酒屋の店員として働いている。


 木之本新之助は不幸にも人狼にされてしまうのだが、傷が治ればもう喧嘩になり言い争いは収まらない。


「もういっぺん、死んでみるか?」


 ニキータは黒の宝飾をソードに変えてぶった切る構えをすると、男はもう頭の上に手を合わせて手揉みをしだした、落ちた瞬間である。


 任王立ちの女はいう。


「お前は俺のものだ。お前はもう死ぬ事は出来ない、死にたくば俺の言う事を聞け。」

「ははっ……仰せのままに!」

「お前を殺せるのは俺だけだからな。」


 ホロが木之本のメンタルの救済に入り、喧嘩する二人を宥めるのが大変だったと。


「あんたはこれから人狼になる、な~にいつぞやのバケモノと同じだな。」

「ゥギャ~この野郎、俺をよくもバケモノにしたな~……ギャフン。」


 男が人狼になるのだから狂い出すのも頷けるものだ。



 一週間後に木之本新之助はバーコードの署長に二人を紹介した。


「ここだ、入ってくれ。」

「お邪魔しま~……ス!」

「アワアワ……新さんは生き返ったの?」

「やぁ~悠木さん、傷も癒えたから出てきたよ。」


「お~~~~木之本くん、生きておった……か?」

「私の妻です、義理の母です。」


 バツが悪そうに出勤してきた木之本を見て署長は喜ぶも、直ぐに全開の口でパクパクしだして最後は口は開いたままだ。


 悠木緑は唇を噛んでいて青ざめた表情が何とも不気味で、悠木緑は呟く、


「黄泉帰りだ!」


 署長は気苦労により抜け毛でバーコードによりいっそう近づいた。源さんはポカンとするも、古田は三人にバケモンと同類の殺気を感じているから、それでニキータは古田を睨みつけた。


 古田には木之本新之助が少し処か大いに変に見えたのだ、そう……夜の街に出没したバケモノと同じ殺気を感じていた。


「署長、」

「な、なんだね、二階級の昇級は見送っているからね。」

「違いますよ、俺はいいのですが、妻と義母を雇って下さい、百人力ですから!」

「おいやめてくれ、俺の一存じゃ木之本くんを引き取れるだけだからな。」

「それは過去の事でしょうが、昔に聞きましたよ。」

「では……、」

「はいこれ履歴書です。採用願います。」


 平山署長は悠木くんからの報告を信じていて、現物を見たので大いに興味を持ってしまった。それで履歴書に目を落して、


 木之本ニキータ、28歳、既婚。モンゴル北部出身、高砂部屋。エストニアで戦争経験を2年。特技、時間跳躍。白免。


「OK! 今から採用試験を始める。地下2階に来てくれ。」


 平山署長は源さんと古田を伴って、木之本とニキータ、それにホロの三人を地下へ案内した。


「奥さん、貴女の実力を試させてもらいたい。悠木より聞いてはいるが本当なのか知りたいだけだ。相手はとても強い傭兵だから全力を出してくれたまえ。」

「二人がかりでいいですか?」

「女性だからハンディも有りでいいぞ。」

「だったら足蹴りは使わないでおくよ。」


 出会って五秒、


「ばたん、ギャー。どすん、ギャー。ほ~~い、ギャフン!」


 古田はものの五分で試験が続けられなくなった。ニキータは署長の顔に己の顔を付けて力ずくで言わせたのだ。


「2人とも合格で~す。」

「古田くんどうしたの、胸合わせで負けちゃったの! 大きいもんね?」



 二人は採用されて公務員となって日本で人狼との戦いが始まる。それからは木之本新之助とニキータ、ホロの奇妙な三人の同居が始まった。




*)新婚生活は……お酒の味?


「ホロお婆さん、お酒が無いわよ!」

「昨日お前さんが飲んだんだろう?」

「何を言うんだい。昨晩は?!? そうかシンだね。」


 お風呂から帰って来たシンにニキータは問い詰める。二DKの風呂無しの部屋だった。下っ端のペーペーなのだから社宅も良い物が空いていないのだ。この部屋は出張者を泊めるものだから風呂はない、台所は申し訳ないね~程度はあるが煮炊きは出来ないか、薪はないのだから。


「おい、シン! ここに置いていた戦利品はどうした!」

「ああ、あの泥棒の上前……いや、うわ!……あれはバクダンだよ。俺は死なないから全部飲んだね。」

「あれは工業用アルコールのメチルアルコールだったのかい?」

「そうよ、あれを飲んだら失明か失命のもだよ。」

「ダジャレを言っても許さないよ。」


「ならば、これで許してくれよ。」

「おお!! 一升徳利じゃないかい。」

「帰りに買ってきたぜ、もう飯は出来ているんだろう?」


 ニキータは昔にパブの店で働いていたが今でも料理が出来ないから、殆どの料理はホロが一人で作っている。ま~出来合いを買って来て野菜を切って出すことくらいだがね。


 ここの家庭はすさまじいの一言で済む。三人のお給料があるがそのうちの二人分が酒代に消えるらしく、残り一人分の給料で食費などの生活費に消えるのだ。人狼とはとかく酒を飲みたいらしい、それでも足りないらしくてガサ入れの戦利品の酒をニキータの瞬間移動で持ち去る。


 半年ほどでニキータは娘を身ごもり北海道の麻美の実家で産み落とす。そう言葉通りでその後の育児は放棄している。


 北海道の平野にはカッコウの鳴き声がが良く響く。


 デルフィナと名付けられた娘は順調に巫女へと成長する。厩育ちだと娘は言って母親に食って掛かるのだから、母娘の関係を良く表しているだろうか。


 戦いに明け暮れる三人の生活は荒んだものだったようで、とてもでは娘なんかは育てられる環境は無かったとか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ