第14部 ミーシャの想い 霧の遺品
ミーシャさんから霧お母さんについてお話しをして頂いてとても嬉しい。
母はしっかり者だったと言う。十歳まで阿部教授の子供として育ち、人狼の巫女という事で覚醒して、いきなり二十歳になったとか。
それは有り得ない育ち方をしている。二十歳からの約三年間で霧お母さんに成長したのだ。十三年を三年というとても短い期間で駆け足で過ぎたような生き方だったという。
ミーシャさんはつとめて平静に話し出す。
「霧さんはとても聡い子でした。観察力が高く能動力もあり、思い立ったら直ぐに行動に移す、そのような性格でした。だから私と母のスミヤは救われました。感謝いたしております」
「記憶が無い私・ミーシャを強引に連れて行く性格でした。この時はこれが私の運命だろうと思い、付いて行きました。念願の母のスミヤも何ら問題も無く見つけて頂いております。母のスミヤも感謝しています」
「巫女の封印を解く時にも、ご自分のロザリオを私に持たせてくれました。一度に沢山の記憶が流れ込んだのには驚きましたが、私の傍を離れる事無く付き添って頂いておりました」
「智治さんが瀕死の怪我で、もう幾ばくも無い命ですら、助けたい一心で私が提案した人狼の選択も、ご自分の命を懸けてまで智治さんを守り抜かれました。本当に敬服いたしました」
「この時は大変ぶしつけな事をいたしましたと、お詫びを申しましたら、反対にお礼を言って頂きましたのよ。とてもうれしかったのですよ」
「何だか器が大きい女性と思いましたね、その後のロシア兵の銃撃をお腹に受けてしまい治療が出来ずにいて、私共は霧さんに深い傷を残したままにしてしまいました」
「その傷が他の場所でしたら良かったんですが、下腹部にあたりでしたので傷口が再度裂傷へとなって広がり、お二人の出産に耐える事が出来なかったんです」
「霧さんもそれは解っていて泣くこともせずに、生まれ来る子供の事を、智治さんの事も、残される麻美さんやお父さんの事ばかりを、重んじられていました。貴方たちの名前は霧さんが考えてつけましたよ」
「沙という漢字はモンゴルを旅して感じた思い、乾ききった大地、を意味します。乾ききった大地でも小さな花の命をも守り抜く、煌びやかな力も意味しますのよ」
「澪という漢字はシベリアを旅して感じた思い、大地に巡る水を意味します。雪解け水は時に洪水となりて大地を潤し、力強い大きな川の流れを意味します」
「ぅううう……」x2
「そんなとても強い霧お母さんでした、いつまででもお二人を抱いてありました、それこそ死の直前まででございましたわ」
「ぅううう……」x2
「ただ一つの残念な思いをされてあります、今のお二人にはお分かりは出来ないでしょう。ですが、あえて申します。」
「はい大丈夫です。真正面で受け止めますのでお話をお願いします。」
「それは、お二人にお乳をあげれなかった! という事実です。」
「あ、でも、……あの時は麻美お母様が……?」
「そうですね、最初はエストニアの乳母の方からお乳を飲ませてありました」
「……」x2
「だからご自分で娘には、お乳をあげれない、という悔しい思いをされました」
「そうですね、……よく分りました、ですが……」
「お二人とも、たくさん涙を流されていいのですよ?」
「ええ、ありがとう・・・・・・」
*
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「麻美お母様は私たちを産んでは居ません。どうして麻美お母様からお乳が出たのでしょう」
「はいとても不思議ですね」
「……」x2
「それは神のみが知るでしょうか、霧お母様の願いが叶ったのですよ」
「うん、お母様が、私たちの為に、お乳をあげたい! という、願いですね」
「はい、そうだと今でも思っています」
「お母さま、ありがとうございます………………」
「当時のエストニアは独立運動で戦争状態でした。そんな中を乳母を連れてはいけませんもの」
「はい……そうですよね、国外の人のことは構ってはいられない時代ですもの」
「霧さんは……最後まで泣かれませんでしたのよ。看取った麻美さんは、それはもうお二人の分まで泣かれたと思います。」
「そうですね……」
「当時、桜子さんは並行世界におれれましたので、霧さんを看取ることが出来ませんでした。妹のように可愛がってありましたよ」
「はい、知っています」
「桜子さんが再会出来た時は青のロザリオと少しの赤い髪だけでした。狂気になられたように智治さんと麻美さんに突っかかってありました。ただただ智治さんと麻美さんは、桜子さんの涙を受け止めるしか、出来ませんでした」
「お母さまが、可哀そう」
「桜子さまも大変強うございました。いいえ反対に弱かったかも知れません」
「ええ? どうしてでしょう?」
「はい桜子さまは、翌々日からはもう泣かれませんでした。その代りに独立戦争の、私たちの立ち位置を常に考えられて、きっと、もう誰も死なせないという、思いが強く働いたのだと思います」
「泣く代わりに、強く振る舞ったのですか?」
「そう……だと、今でも思います」
「そっか~……母の口癖は、さ! 戦争よ! だものね」
「今でもそう言われますのね?」
「はい、特に実家に戻る時には必ず父に言っていましたわ」
「おっかしい~ですね、なんだか笑えそうですわ」
「どうか、霧の思いを汲んでください」
今のお二人は桜子さま、麻美さま、智治さま、阿部さまの愛を一身に受けて育ってあります、もう十二分に霧さんの望みを叶えた生き方をされてあります。
「私、ミーシャもあなた達にお会いできて嬉しく思いましたわ」
「これは霧さまのお団子頭の髪留めのピンです、左右の2本が私に託されておりました。きっと霧さんは私が日本へ行き、そして私がお二人に逢える事を予知されてあったのでしょう」
「二本のピンは長く身に着けておられた、霧さまの遺品となりました。お二人でお使い頂けましたら私の役目も終わります、このピンをお受け取り下さいませ」
「天国の母・霧の事を思って頂きありがとうございます」
「このピンは一生大事にいたします」
「お母さま……」x2




