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両利きの最優者  作者: ことあまつかみ
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第七話

焚き火の煙を見つけてから三日後の朝


「よし、準備オッケーだぜ。」


そこそこの大きさのお手製のリュックを背負い、肩の上にはこの世界でできた唯一のお友達であるスピネルを乗せ、川の下流に向かい意気込む。


その奥先には焚き火を消した跡の煙が上っている。


「やっぱり、日に日に近づいてきてるな。」


それは、人らしきものが移動していて、なおかつその行き先が川沿いにこっちに向かってきているということ。


「このまま川を下って行けば出会えるかな。」


俺は朝飯代わりの真っ青なりんごのような果物をスピネルとかじりつつ川沿いを歩いて行く。


この三日間でスピネルとは大分仲良くなった。


こいつはとても知能が高いみたいで、質問をすれば鳴き声や動作でなんとなく答えてくれる。


群れや仲間、家族の存在を聞いてみるとこの森にはいないらしい。


もともと森の外から迷い込んだらしく、おれがここからの脱出を考えていることを話すと、ついてくることにしたらしい。


敵を見つけることに長けたこいつは連れていれば役に立つだろう。


それに食べ物もなんとなく見分けることができるようだし。


そんなわけで森を抜けるまでのパートナーになった俺たちは、順調に森を進んでいた。


日が真上に昇ってきた(木で正確にはわからないが)ようなのでお昼にするかな、と支度をする。


といっても大してことはしない。移動の時間を多くとって早く進むためにも食事や休憩は最小限にするつもりだ。


三日間で多少保存の利く食べ物も用意した。


ついに魚にも手を出した俺は、安全性を確かめたあとに簡易的な干物と、なんちゃってスモークフィッシュも作った。


簡単に昼食をすませる。スピネルは雑食らしく何でも食べる。この前は俺が持っていたあめを勝手に食べていた。


その後は移動しつつ果物などを食べたり、水分を補給したりと順調に進んでいった。


左手の使えない生活にもすっかり慣れてしまった。


最初は不便で仕方が無かったし、腕が使えないことへの言いあらわせない恐怖で落ち込んでいたが、


「異世界だし、部位欠損も治せる薬や回復魔法があるだろ。」


と、現実逃避的に考えやり過ごしているうちに慣れてしまった。


右手だけで魚もさばけたし、裁縫もできた、これからもきっと何とかなるだろう。


それに、隻腕の戦士とかちょっとかっこいいじゃん?異世界だしそんな強者もいるんじゃないかな、きっと。


そんなこんなで気づけば日も傾いてきた、野営の準備をし始めなければな。


石をつんで簡易的なかまどを作り薪木を集めて火をつける。


この行動にも慣れてきて簡単にこなせるようになった。


スピネルも薪を拾ってきたりと、手伝ってくれる。


寝るのも交代でおこない警戒はしておく。


初日に襲ってきた狼のようなものが他にもいるかもしれない。


俺もスピネルも今のところは見かけたこともないし、痕跡も発見できていない。


あんな凶暴なやつがうようよいたら俺たちは今頃生きていないだろうがな。


そんなことを考えつつ夜は更けていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



変化の無い旅路が三日ほど過ぎたころ、今までこっちに向かって進んできていた向こうの焚き火の跡が横にそれているように感じた。


その日はとりあえず今まで通りに川沿いを進んで行く。


日が暮れてきてそろそろ野営の準備をするか、と考えていると川が二つに分かれている地点にたどり着いた。


それを見てあの煙の根元にいる人は、二手に分かれたほうの川に向かって進んでいるのでは?と思い至った。


その日はいったんその別れ始めた場所で夜を明かし、次の日の朝に見えるであろう煙でどちらの川沿いに進むかを決めようと考えた。


それまでの道のりを思い返し、森のあまりの変化の無さにうんざりしていた。


煙との距離もまだ半分といったところだし、食料の問題もあるのでこの選択はとても大事になってくる。


考えたところで今どうにかできることではないし、無駄に時間を使うだけだ、と作業を再開する。


ちなみに作業とは武器の製作である。


といってもたいしたものではない。


川をどれだけ下ってもいなくならない例の爆発カニエビ、調理法が確立されたことでただの食料に成り下がったそれを俺たちは毎日食べていた。


その影響で、爆発液の入った袋が大量にたまってきているのだ。


それをどうにか活用しようと俺は手投げ爆弾のようなものを作ることにした。


いろいろ試行錯誤してみたが、最終的には簡単なものにした。


使い道の無い朽ちかけのロープをほぐして細い紐を作る。


その紐に爆発液を漬けるとなんと導火線のようになった。


それを液の入った袋の口にねじ込んで、普通の紐で縛る。


そうすれば簡易的な爆弾の完成だ。威力のほどは昼間のうちに確認済みだ。



初めて武器といえるようのものを手に持った俺は、その感動のままに川のそばに向かった。


そして爆弾の導火線に火をつけ川の中に投げ込んでみた、水で鎮火するかもと考えたが導火線の火は消えることなく進んでいき見事爆発、子供の背丈に少し足りないくらいの水柱を上げて音を響かせる。


思った以上の威力に呆然としていると、その爆発の衝撃で気絶していると思われる魚が数匹浮かんでくる。


「攻撃用のつもりで作ったが、漁にも使えるとは、異世界物質おそるべし。」


なんともいえない気持ちで魚を拾い上げた俺はそのままの流れでさばいておいしくいただいた。


昼間のことを思い出しつつ製作作業を続けているとどこからか視線を感じた。


はじめはスピネルかと思い横を見てみるが、俺の行動に気づきもせずぐっすりと寝ていた。


なんだかいやな感じがして周りをきょろきょろとせわしなく見渡す。


すると焚き火の向こう側、森の木々の奥にどこかで見たような二つの目。


その目と自分の目線がゆっくりと合わさったとき、突然に強い風が吹きそれによって火がかき消された。


薪の不完全に燃えた焦げ臭い香りのする中で、森の奥の存在がゆっくりとこちらに進んで来る気配を感じた。


三つの月の光に照らされたそいつは、存在感と威圧感をこれでもかと撒き散らすそいつは、、、



しとめ損ねたエモノに止めを刺しにきたあの狼だった。



お読みいただきありがとうございます。

次回投稿は来週金曜日を予定しております。

感想やアドバイスお待ちしております。

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