表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
両利きの最優者  作者: ことあまつかみ
13/13

閑話

暗い話です、ご注意を。

私には、家族はいない。


私の故郷であるエルフィリアのみが住まう集落で、物心つく前から暮らしてきた。


幼いころには親だと思っていた人はいた。


一緒に暮らし、ご飯を作ってくれて、読み書きを教えてくれた女の人だ。


しかし、その女の人は私が十歳を迎えた年に亡くなった。


肺の病だったそうだ。


息を引き取る少し前に、その女の人は苦しそうな声で私に告げた。


「私は、、あなたの本当のお母さんじゃ、、ないわ、、、、」


と、そして続けて聞かされたことは、私が捨て子だということだった。


ある日の朝、村の入り口に籠が置いてあったらしい。それを見つけたその人は中にいた私を、育てることにしたらしい。


同じエルフィリアではあるが、余所者である私、しかも私だけ髪色が黒。


そんな私を育てることを、村の人たちは反対したらしい。


しかし、村長と役職長たち数名が認めたことで、みんなは渋々了承したのだと。


私は、その衝撃の事実をすぐに理解することができた。


当時の私は、村長や村の偉い人達から「神童」と言われるくらいには聡明だった。


だからこそ、すべてを理解してしまった。



だから、村の大人達は私にきつく当たったんだ、と。


だから、村の子供たちと遊ぶことが無かったのか、と。




だから、あの人の看病に誰も手を貸してくれなかったんだ、、、と。






すべてを理解し、すべてが灰色に染まった日、私の感情は心の奥底へと沈んでいった。








それから数年、独り身で人のいい狩人の長の家に押し付けられた私は、あの女の人がくれたものと同じだけの愛を注がれて育った。


その家では、今までと同じ教育だけでなく、狩人としての技術を教わった。


その男の人曰く、


「弓を上手く扱えることは、我々エルフィリアにとっては誇りだ。」


「この村の弓の技は特殊だ、習得し使いこなせれば皆もお前を認めるだろう。」、と。


私はそう言われて、今まで認められなかったのはそれでか、と納得した。


それからはただただ弓を練習した。


ほかの者は、六歳を迎えたときに初めて弓を握るらしく、十歳からはじめた私との差は歴然だった。


その差をなんとしても埋めるべく、朝昼晩問わず弓を握っていた。


どうやら私はその分野でも「神童」だったらしく、十四歳を迎え、独り立ちするころには、村で私に勝るものはいなくなっていた。


私はやっと安心できた。


これでみんなから認めてもらえる、と。


なにせ村の一番なのだ、認めるしかないだろう、と。


しかし、その期待は淡くも崩れ去った。


妬まれこそすれ、認められることなんて無かった。


村の弓術大会で優勝したあの日、祝福してくれたものは一人もいなかった。


その大会は、私の師匠である狩人の長が獣によって殺され、次の長を決める大会だった。


今まで、少なからず気にかけてくれていた村長でさえも、準決勝で自分の息子が敗れた瞬間、私に向ける目は冷え切ったものに変わった。


そして、その村には、私の家族はいなくなった。


大会の優勝者が継ぐはずの長の座は、私ではなく村長の次男が継いでいた。


それからの生活はひどいものだった。


毎日朝早くから日が落ちるまで狩をし、組合へと収め、最低限の食料を対価として受け取り、ぼろ小屋へと帰る。


そんな日々でも生きてさえいければ、私は耐えれた。


私の親代わりだった人たちの愛で、心が壊れてしまうことはなかった。


誰よりも働き、誰よりも成果を挙げ、誰よりも質素に暮らす。


いつかきっと認められると信じて、日々を耐え抜いた。


そんな生活が終わりを迎えたのは突然で、しかしそれは必然だった。


私の住む小屋では湯で体を拭くことすらできなかった。


だから私は、体を洗うために川へと通っていた。


そこに現れたのは、狩人の長であり、村長の次男でもあるあの男だった。


私はあんな生活を送っている割に発育は悪くなかった。


だからこそ、自分よりも腕の立つ私に、日ごろから恨みをためていた彼が、襲いかかってきたのは、必然だったのだろう。


もちろん私は抵抗した。


押し倒され、覆いかぶされた私は、とっさに川原の石を手につかんだ。


それを男の顔へと打ちつけ、逃れることに成功した私は、すぐさま逃げようとした。


しかし、それは男の手によって阻止された。


片目がつぶれ、激しい怒りをあらわすその男に足をつかまれた。


川原から森のほうへと引きずられ木の根元に投げつけられる。


そして男は、私の両手を頭の上でつかみ、その手ごと矢で木につなぎとめた。


何本も打ち込まれ、激痛にゆがむ私の顔を見て、その男は楽しそうに笑っていた。


この腕があるから、お前なんかがいるから、とつぶやきながら、その男はズボンへと手をかけた。


「何もかも壊してやるよ」


その一言が、男の最後の言葉になった。


いざ事を起こそうとしたその男は、しかし実行することなく、死んでしまった。


首が胴体から離れ、血を大量に噴出し、私の全身を真っ赤に染めて、息絶えた。


私はその光景を見たショックと、痛みによって気絶し、そのときに何が起きたのかを知ったのは数日後のことだった。


村ではない場所で目が覚めた私に、薬師を名乗る男がおきたことを話してくれた。


とある傭兵団が遠征中に休息のため川に向かったところ、そこに襲われている女、つまり私を見つけた。


その傭兵団は、近隣でも評判のいい真面目なものたちらしく、便乗するでもなく、横取りするでもなく、助けたのだという。


出血と、ショックにより状態がよくなかった私を、急いで街まで連れ、腕のいい薬師の店にあずけた、ということらしい。


目が覚め、状況を理解した私は、矢でぼろぼろになった手に意識を向けた。


薬師が言うに、二度と弓は握れないそうだ。


それどころか、匙すら満足に扱えず、生活もままならない。


これからどうするか、と無感情に考えていると、薬師の男は、


「そんなら、森の奥にある、あんたみたいのがぎょうさんあつまっとる村に行ったらええで。」


と、教えてくれた。


そして私は、助けてくれたという傭兵団に連れられてその村へと移住し、穏やかな生活を送っている。


それが私の、テナという少女の今までの人生だ。



お読みいただきありがとうございます。

よろしければ感想などお待ちしております。

面白いと感じましたら、ぜひブックマークを。

次回更新は来週の金曜日を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ