第九話
俺には両親がいた。
そう、いたんだ。
寡黙だが人一倍熱い心を持った父。
すべてをそつなくこなすが一歩引いて支える母。
俺はそんな両親が大好きだった。
しかし、今から15年前のある日、俺の最愛の家族たちはいなくなった。
後に調べたところ、謎の行方不明だったそうだ。
当時二歳だった俺は何がなんだか分からなかった。
親族のいなかった俺は、気づけば児童養護施設に預けられていた。
物事をある程度考えれるようになったころには、自分は捨てられた子なんだと思い込んでおり、幼いながらに人生に絶望していた。
毎日が灰色に染まっていた。
そんな毎日の中で出会ったのが沙耶だった。
彼女は俺の心に土足で上がりこんできた、もちろんいい意味でな。
マイペースな彼女に振り回されているうちに俺の心の中のもやは晴れていった。
おれがどんな境遇でも、どんな時でも明るく接してくれた。
俺もいつしか沙耶と一緒にいるのが当たり前になっていた。
だからだろうか、俺は、沙耶のことを、、、、、
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「よし、意識が戻る前にやっちまうぞ。」
「うっス、兄貴。」
「暴れるかもしれないからしっかり抑えとけ。」
「まかせてくださいっス。」
「いくぞ。」
誰かの会話する声が聞こえる。
人の会話の声か、なんだかすごく懐かしく感じるな。
でもいったい何の会話だ?
というか、おれはいったいどういう状況にいるんだ。
そろそろおきたほうが良いかもな。
でも、すごく体がだるくておきれそうに無いかもしれない。
寝る間に何してたんだっけ。
なんて考えていたときだった。
じゅぅ
という何かが焼ける音とともに激痛が俺を襲ったのは。
「ぐぁあああああああああああああああああ!!」
俺の意識は一気に覚醒した。
一目散に飛び起きて状況を確認しようとする。
が、しかしうまく起き上がれない。
闇雲に暴れてみようとするが何かに上から押さえ込まれていて満足に動けない。
(なんなんだ!?いったいなにがおきてるんだよ!!くっそ、またあの狼か!?それともべつの、、?)
絶叫を上げ痛みに耐えながらも考えをめぐらせる。すると次第に意識を失う前の出来事が思い浮かんでくる。
(そ、そうだ、あの狼に襲われて左腕を、、、そのあと追い詰められて、スピネルが、、、おれは、滝から落ちてそれで、、、)
そこからの意識は無い。
だんだんと痛みでちかちかとしていた視界がクリアになっていく。
まず目に浮かんできたのは、俺の上に馬乗りになり必死な顔で俺の左腕を押さえている獣顔の男だった。
いや、獣顔というよりも獣をそのまま人にしたような、言うなれば獣人といったところか。
その鬼気迫る表情は痛みと伴って俺に恐怖を与えてくる。
そして、押さえつけられている左腕の先を見ると、そこには禿げた男が一人。
その男は大きな肉切り包丁のようなものの腹で俺の腕の傷口を押さえていた。
その包丁は真っ赤になっており一目見ただけで相当な温度だと分かる。
押し付けている場所からは立ち上る煙と肉の焼けるなんともいえない音と香りが発生していた。
俺の左手を焼いているその男は、俺の上にいる男にも負けない面構えでがたいがものすごくでかい。
座っているのにもかかわらず威圧感が半端じゃない。
そんな状況の中俺にできることは、歯を食いしばり、うなり声を漏らし、ひたすら暴れることだけだった。
「よし、もう離しても良いぞジナード。」
「うっス、兄貴。」
そんな地獄の時間が終わるまでそう長くはなかった。
熱された包丁をどかされたあとでも腕はひどく痛んでいたが、絶叫を上げるほどではなかった。
しっかりと目を開き禿げマッチョを睨み付ける。
すると、何かの瓶を取り出したそいつと目が合い、不敵な笑みを見せた。
「あとは、これをかければおしまいだ。ちょいと染みるが、暴れるなよ。」
ばしゃっ
と、瓶から謎の液体を焼けている傷口に振り掛ける禿げマッチョ。
その瞬間、再び激痛が走る。が、先ほどよりかは軽く、一瞬のことですぐに収まった。
痛みが治まるとさっきまで感じていた痛みも引いていき大分ましになった。
「どうせならこいつも巻いとくか。」
そういった男は先ほどの液体を包帯状の布にしみこませ左腕に巻き付けて傷口を覆う。
すると痛みはほとんど感じなくなりだんだんと精神も落ち着いていった。
「どうだ、痛みは落ち着いたか?」
「あ、あぁ、えっと、助かった、のか?」
「おう、状況は理解できてるか?」
いやわかるわけがない、何なら絶賛警戒中だ。
あんたら何者なんだ?それにここはいったいどこなんだ?見たところ小屋の中のようだが。
こいつら二人の装備を見た感じ戦闘を生業にしてそうな雰囲気だ。
彼らの装備はよくい使い込まれたレザーアーマーのようなもの、ところどころに金属の板がつけられていて機動性と守備力のバランスがよさそう。
見た目や態度などから傭兵や盗賊、荒くれ者といった感じがする。
そんな見た目の怪しさだが、さっきまでの鬼畜の所業はきっと治療行為なのだろう。
血も止まっているし痛みも格段に引いている。
すべての情報を加味して出した結論は、
「まったくわからん、説明しろ。」
「だろうな、よし、説明や自己紹介も含めてまずは、、、」
「まずは?」
「飯だ!!おい、ジナード!!」
「はいっス、準備万端っスよ!!」
うるさすぎるやりとりに顔をしかめていると目の前に木の椀がどんっと置かれた。
置いた獣人の男、ジナードの方に顔を向けると満面の笑みで、
「おいら特性のパン粥っスよ!味付けは贅沢に王都産の干し肉を使ってるんで絶対旨いっスよぉ。」
その笑顔はすごく得意げな表情で、無邪気さと幼さを感じた。
(毒なんかは入ってない、と思うけど、だいじょうぶなのか?)
少し警戒を残したままたっぷり注がれている椀の中をのぞいていると、
「毒なんて入ってねぇから、さっさと食って腹満たせよ。何があったのか知らんがその怪我だ、血は確実に減ってる、しっかり食って回復させないとここから出発できんぞ。」
そう言われて、急に腹が減ってきた。
たしかに、体が食べ物を求めているらしい。匂いを感じたときから口の中のよだれが止まらない。
まぁ、ここで俺に毒を盛ったとしても何の特にもならないだろう。
素直に受け取って食べるとしよう。
「わかった、いただくとする。」
「おう、そうしてくれ。おっと、自己紹介が遅れたな、俺の名はフリード・マクスウェル、王立騎士団の部隊長を任されている。」
はっ!?今なんていった?王立騎士団??そんなばかな、その見た目でか?
「んで、こっちのビーステルの男は俺の部下の、」
「ジナードっス!!よろしくっス!!」
いろいろと聞きたいことが増えていくが、とりあえずは俺も名乗らないとな。
「えっと、俺の名前は、ふた、、、いや、ユウだ、助けてもらったみたいだな、感謝する。」
「よろしく頼むぜ!つーことで、自己紹介も終わったし、いい加減飯だ、さめちまったら勿体ねーぞ!!」
「そーっスよ、せっかくおいらが作ったんスから早く食べるッス!」
俺は、この厳つそうな二人と飯を食いつつ、これまでの状況と、これからについて話し始めた。
その内容には驚くべきものがたくさんあり俺の頭は混乱する一方であった。
今回はここまでです!!
ちょっと半端な終わり方ですが、ここで切らないともっと長くなってしまうんです、だから仕方が無いんです。
いえ、いいわけです、ただの力不足です、申し訳ない。
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