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「この世界に、終焉を」  作者: 空乃慧
第1章 紅く染まってしまった世界
8/58

魔法講座

 *


 彼女の言葉に従って再び歩き出したのだったが。行き先は俺が決める、などと言ってしまった手前、エアルに進行の助言を求めることもできず。

 とりあえずカレンは地図上で一番近いカラバという町に向かうことにした。


「魔法ってどうやったら使えるんだろうな……」


 進みながらカレンはポツリと独り言を漏らす。

 確か魔法には先程エアルが使った火の系統のほかに水、風、土、さらには光や闇といったものまであると聞いたことがある。

 それらが自在に操れるようになったら、自分はどこまでも強くなれるのではないのだろうか。


「魔法には」


 そんな夢物語のような思考の最中、いきなり割り込んできた声にカレンはぎょっとして振り返った。


「魔法には、魔力(マナ)と呼ばれるものが必要とされるわ。魔力は基本的に誰にでも…それこそモンスターにも多少なりとも備わっていて、それを全て使い切ってしまうと、行動不能または死に至ることになる」


 振り返った先でエアルによる『魔法講座』が幕を開ける。無論、話しながらも足は止めないままだ。


「てことは、俺にも魔力があるってことか」


「そうね。そして、その魔力と結びつくものが素因(エレメント)、よ」


「素因…」


 おもむろに、エアルは右手を広げた。すると、その空気しか存在していなかったはずの空間に突如として小さな火花が出現する。


「おお……すごいな」


「この世界のあらゆるところに存在する素因。それと、私たちの中に宿る魔力が結びつくことで魔法は発動する。この火花はまだまだ小さな現象だけれど」


 言葉を切ると同時に、エアルは立ち止まってその右手を素早く横の木の幹へと向けた。


 ヒュッ


 空気を切る音がして、彼女の手から目にも留まらぬ速さでこぶし大の炎弾が発射される。その直後、樹皮に着弾した炎は木の全体に燃え広がり。

 パチパチと大きな音を立てて木を燃やし尽くしていった。


「ぅわっ、あっぶねっ」


 ズドンと彼らの方に向かって倒れこむ、炎の塊と化した大木。


 それは、エアルの指鳴らしによって一瞬で霧散した。


「このように大木を燃やし尽くすことも、超高温によって瞬時に蒸発させることも可能。対象範囲を限られた箇所のみに設定することで安全に行使することだってできるわ」


「それは、便利だな……」


 先程から感嘆の声をいくら漏らしたか分からないカレンの何度目かの声が静かに響く。

 その言葉に右手を下ろしたエアルは続けて。


「…でも、魔力の量は個人差が激しい。それに、誰にでも限界がある。そのために、どんなに強力な武器となる魔法だとしてもいつまでも発動させたままだといつか魔力切れを起こして力尽きてしまうの。万が一、戦闘中にそうなってしまえばその者は命を落とすことになるわ」


 再び歩き出した彼女に、カレンも続いて歩き出す。最初はカレンが前、エアルが後ろという隊列で進んでいたはずだが、話に夢中になるせいかカレンはエアルの横に並ぶ形になっていた。

 しかし、少女は特にそれを気にした様子もなく彼のために説明を続ける。


「対象範囲を設定することや、魔法の形態を思った通りにすることは、ある程度の訓練が必要になってくるから、」


 そこで少女の話に集中していたカレンのことをジロリと横目で見る。


「…あなたが今すぐ使おうと思っても、制御できずに魔力を使い果たして終わるだけだと思うけど」


「流石にそんなことしないよ。俺をなんだと思ってるんだ」


 彼女はその言葉には答えることなく、視線を前に戻した。


「そして、魔法にはそれぞれ火、水、風、土、光、闇属性とあるの。それぞれの主な発生現象は説明すると長くなるから割愛するわ。複数の属性魔法を組み合わせることも可能だけれど、組み合わせただけ魔力を消費することになるからよほど魔力の所有量が多くない限りは危険ね」


「お前、魔力の所有量は多い方だよな?」


 いきなり、当たり前といった様子でカレンが尋ねると、エアルは相変わらず無表情の顔を彼に向け、無言で首をかしげる。


「だってさっきからちょこちょこ魔法を使っているのに加えて、」


 彼は視線をエアルの脚を覆うロングブーツーーもとい、義足に落とした。


「その義足はお前の魔力を使って動かしてる物だろうし。さっき撃ちまくってた魔装銃……レザリアも、魔力が動力なんだろ?」


 その言葉に眉をピクリと動かす少女。表情の変化に乏しい彼女にとって、それはかなり珍しいことである。


「………なぜ、そうと分かるわけ」


 警戒しているような固い声を出したエアルに、カレンはあくまでも他意はないと苦笑する。


「別に、変に詮索してカマをかけたってわけじゃない。さっき…まあ、結構前になるけど、お前の義足を直した時に動力になりそうなものが見つからなくてちょっと不思議だったんだよな。今までの話を聞いて納得がいったけど」


「……」


「レザリアは、魔法陣から現れた時点で魔法関連の物だろうってことは見当がつくだろ? まあ、魔装備も魔法陣も話に聞いていただけで、実際に目にしたのはあれが初めてだったからその時点での確信はなかったけど……。お前が騎士団に向けてレザリアで攻撃してた時、実弾が見えなかったんだ」


「……………よく、見てるのね」


「まあ、伊達に傭兵やってるわけじゃないからな。この職についてると、いつでも相手の癖や弱点、なんかを探すようになってしまう。日常生活でも自然といろんなものに目を配らせる癖がついちゃってるんだな。…てことで、俺の洞察力、舐めんなよ?」


 最後に少しおちゃらけた様子で言葉を締めくくると。



 ー少女は、ぼそりと言葉を吐き捨てた。



「……そんなひょろひょろななりで、よく言うわ」


「そっ……れは、関係ないだろっ。気にしてんだよ、これでも! …でも、少し気をつけた方がいいぞ。俺ごときにいろいろ見破られてるってことは隙があるってことだからな」


「…ご忠告感謝するわ」


 それからエアルは、小さく頷く。


「あなたの言う通りよ。この義足も、レザリアも、動力は魔力。義足の場合は魔力を私側から常に送り込んでいて、それを動力として内部でエネルギー変換が起こる。そのエネルギーを今度は義足側から脚に送り込むことで、私の脚を動かすことが可能になるわ」


 カレンの歩みと変わらず進むエアル。彼女の脚は一般の人々と変わらないように動いているが、それは義足の恩恵があってのことなのである。

 実際、彼女の義足が正常に作動しなくなると、エアルは立つことすらままならなかった。


「レザリアの場合は、召喚する時に魔力を要するわけではないから、ただ手にしているだけでは特に魔力の消費はない。でも、あなたの言ったようにレザリアが発射するのは実弾ではなくて、具現化された魔力だわ。あの子には魔力を補充(チャージ)することで魔法を付与(エンチャント)し、それを発射することも可能だけれど」


「ま、まあ、あまり専門的なことを言われてもよく分からないんだけどさ…」


 よく分からない言葉が多くなってきたことに戸惑うカレンがその旨を告げると、エアルはため息をついた。


「だから、レザリアの方が、総合的には消費魔力は大きくなる、ということよ」


「なるほど」


「話をまとめると、義足に常に一定の魔力を注ぎ込みながらも、時にレザリアを呼び出して戦闘するという魔力消費の同時進行を可能としているのは私の膨大な量の魔力ということになるわ」


「ずいぶんと詳しく説明してくれるもんだな」


 感心したように彼が言葉を漏らすと、エアルはそれを一言で一蹴する。


「ただ歩いているだけでは暇だからよ」


「……そうか」


「暇ついでに、もう一つ教えてあげるわ。モンスターの持つ魔核(コア)は、基本的には人間の心臓部分に位置している。それは、モンスターの中の魔力を体を動かすエネルギーに変えるための役割を果たしている場所なの。でも、あるモンスターたちにはもう一つ弱点が存在するわ。それが、魔力野(ゲート)と呼ばれる部位よ」


「それは、何の役割を果たしている部位なんだ?」


「魔力野は、魔法を使うために必要な魔力の変換器の役割を果たす」


「モンスターも、魔法が使えんのかよ……」


「限られたモンスターだけではあるけれど、そうよ。魔力野を通すことで、どんな生き物でも魔力を魔法発動に適する状態へと変換できるようになる。そして、その魔力野があるのは……」


 突然、カレンのこめかみにエアルの白く細い人差し指が突き立てられる。


「う、お……」


「モンスターも人間も変わらず、この辺りよ」


「驚かせんなよ……」


 すっと離れていく指に、カレンは一筋汗を伝わらせた。

 油断していたとはいえ、全く避けられなかった。今の状況でもし避けていれば彼はエアルの怒りを買ってしまっただろう。しかし、これがただ魔力野の位置を示すためではなく不意をつく攻撃だったとしたら、今の一撃でカレンは殺されていたかもしれなかったのだ。


 彼女の実力に歯が立ちそうにない自分の情けなさに少しだけ唇を噛む。


「……以上で、魔法に関する説明は終わるわ。今のであなたがどれくらい理解したのかは知らないけれど」


 エアルの声で我に返った彼は、僅かに強張った顔で笑うのだった。


「あ、ああ、ありがとう。勉強になったよ」


「こんなことも知らなかったなんて………」


 そこで言葉を切った彼女は、青い瞳でカレンの隻眼を見据える。






「とんでもない無知ね」






「なんでそう強調するかな………」


 軽くうなだれる彼は、ふと足を止めた。


「お、でもお前の暇つぶしのおかげで、着いたみたいだぞ」


 目の前に広がるのは、小さいながらも人で賑わう町並み。







「ここが、カラバの町だ」


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