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「この世界に、終焉を」  作者: 空乃慧
第1章 紅く染まってしまった世界
5/58

森の中

 *


  鬱蒼とした森の中を進む2人。騎士団から脇目も振らず逃げてきたために、今いる場所が森のどの辺りに位置しているのかはよく分からないが…。

 

 方位磁石が指し示すのは、北だった。戦場からここへ逃げ込み、それはおそらく森の南側だったと記憶している。それからまっすぐに走り抜けてきたはずなので、おそらく今は南北に広がる大きな森の中の中央付近にいるのではないかと思われる。

 

 

 それにしても、考えてみると先ほどから走ってばかりだ。とはいえ、紅く染まった空のせいで時間の経過が分からないので、先ほどという表現が正しいのかはわからないのだけれど。

  ようやく疲労感を自覚したように、足がだるくなり、歩みが止まってしまう。


「……なぜ、いきなり止まるの」

 

 すると、不満を隠そうともしない声音が背後から響いた。

  前を歩いていたカレンと、少し離れて後ろを歩いていたエアル。カレンが振り返ると、その距離は縮まっており、すぐ前に彼女のむすっとした顔があった。

 

「足が疲れた」

 

「傭兵のくせに、体力がないのね」

 

「その原因はお前にもあると思うんだけどな…。まあ、いいか。止まったついでに、この先、一番に目指すべき目標の話がしたいんだが」

 

  カレンが地図を広げると、エアルは覗き込むこともせず、そんな彼の様子を無表情で見つめるばかりだ。

 

「ここから一番近いのは、森を東に抜けたところから少ししたところのカラバっていう町か…。でも、ここには戦火は及んでないのか……? わかんねーな…ここは、もう少し遠くに行ったほうが安全か? …って、おい」

 

 至極真剣に行き先を考えていた彼は地図から顔を上げた。

 

  全く話に興味を示そうとせず、未だ無表情に彼の顔を見つめているばかりの少女にため息をつく。


  「どこに、行こうとしてたんだ? 目的の町とか、そういうのは」

 

「特にないわ」

 

  「…今まで、どうやって進んできたんだ?」

 

「直感よ。進んで、障害物を片付けて、町にたどり着いて、…その繰り返し」

 

「それは、運がいいとしか言いようがないな。よく、この戦場だらけの世の中を生き延びてこれたよ…」

 

  もはや、彼女にこの先の話をしても、適当にあしらわれるか、相手にされず終わるだけだろうと判断してカレンは地図を外套にしまった。

 

「どうしたの? 考えることを放棄したの?」

 

「ひどい言われようだな。行き先は、俺が勝手に決めさせてもらうことにしたってだけだ。それでいいよな? 俺は、お前の護衛をすればいいんだろ。あいにく、お前ほど直感は鋭くないから考えて行動するけど」

 

「勝手にしてくれていいわ」

 

  「…はいはい」

 

  皮肉を混ぜて言葉を選んだはずだったが、表情を動かされることすらなく返され、気が抜けてしまいそうになる。


  思えば、この森の中は、本当に平和だ。

  エアルと会話していると、この森の外で今も争いが起きているだなんて忘れてしまいそうで。


 

「…あなた」


  そんなカレンの心情を読んだのか、

 

「何だ?」


  「よく、今まで生きてこられたわね? ずいぶんと腑抜けた顔をしているけど」

 

「……悪かったな、腑抜けた顔で」

 

  エアルはあくまで正論の暴言を吐いた。


 


  ーーと、同時にカレンの腹から低く音が響く。

 


  エアルから注がれる視線が絶対零度付近まで冷たくなるのを感じながら彼は座り込み、腰から下げたポーチから携帯食料を取り出して口に放り込んだ。

 その小さなブロック状の食料をそのまま少女に放ると、彼女は無言でキャッチしてしげしげと眺めた。そして、小さな口で、かりっと少しだけかじると。

 

「…おいしくない」

 

  眉をひそめてぼそりと呟いた。

 しかし律儀に全て食べ終えてから、平気な顔でなおも咀嚼を続けるカレンを見て首をかしげる。

 

  「よく、食べられるわね」

 

「味よりも、腹持ち重視だ。こればっかりは、我慢するしかないし、そのうち慣れるよ。にしても、携帯食は初めて食べたのか」

 

 こくりと頷いたエアルはまだ味が口の中から消えないようで、眉をひそめたまま続けた。

 


  「町で買った干し果実なら食べたことがあるわ。あとは、狩ったモンスターを食べてきた」

 




「は、はああああっ!?」

 




 ーーーカレンの驚愕の声が森に響き渡る。






  「うるさい」

 

  耳を塞いで不快感をあらわにするエアル。

 カレンは日頃、迂闊に大声などを出すことは決してしない。どこに敵がいるのかが分からない状況で大声を出すなど、死にたがりのすることだと思っているからだ。

 


  ーーしかし、今のは不可抗力だろう。

 


「狩ったモンスターを食べる……って、モンスターって、食用なのかよ…?」

 

「知らないわよ、そんなこと。火を通して食べたら特に毒もなく食べられたから、そうしていただけ。明らかに怪しいようなものは食べたりしないわ」

 

 それでも、じゅうぶんぶっ飛んでいる。モンスターを食べる……、あまり考えていなかったが、たしかに可能性はあるのかもしれない。



 と。

 

 

「……!」

 

 カレンの耳が、なにかの音を察知した。

 

 彼は素早く立ち上がり、剣を抜いて攻撃体制に入る。


  「何か来る…」


  「それは確実に、さっきのあなたの声が原因でしょうね」

 

「あれは確かに俺が悪かったよ…!」


  呆れたように淡々と告げるエアルを庇うように立ちながら声をひそめて返すと。





 ーー茂みから、一頭の犬型モンスターが飛び出してきた。

 

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