降り注ぐ光
*
カレンは胡座をかき、もうほとんど萎んでしまった炎をただ見つめていた。
息を吐き出す。
そして片方の頬に手を当て、広げた足の上に肘をつく。
それはまるで不貞腐れた少年のような姿だった。
事実、彼の心境はそれに近いものがあった。
エアルは、さっき確かに「空が紅く染まった」と口にしていたのである。
しかし、その真意を確かめる前に彼女はまた意識を手放してしまった。
一人置いていかれたような気分の中で、傭兵は息を吐き出した。
ーーーーしかし。
「…………お前は」
横で静かに呼吸を続ける少女にカレンの表情が少しだけ強張る。
初めて見るエアルの姿。
まだ付き合いは浅いとはいえ、暗殺者の襲撃を受けた時ですらその表情を崩さず、凛とした態度でいつでも前を見据えていた彼女の姿しか知らないカレンにとって、あれほどまでに何かを怖がるエアルは衝撃的であった。
「いや、違うな……」
彼は考えを整理しながらゆっくりと体勢を起こした。
ーーーー感覚が、麻痺しているのだ。
自分も、エアルも、その周りを取り巻く環境も。
少女が戦場で圧倒的なまでの力を持つことが当たり前であってはいけないのだ。
何かを怖がることがおかしなことであってはいけないのだ。
その感覚の麻痺が自分にも、エアル自身にも及び、彼女を苦しめている。
あれは、押し殺された本来の少女としての姿が顕れた瞬間だったのだ。
「……辛かったよな。苦しかったよな。こんな世界…………間違ってるよな」
あの幼かった暗殺者の瞳と、エアルの瞳が重なる。
どれほどの絶望が、彼女たちにあんな顔をさせるのだろう。
そしてそれは、空が紅く染まったこととどんな関係があるのだろうか。
カレンは、群青色の髪の隙間から、空を見つめた。
まるで、迫ってくるかのような紅。
その息苦しさに思わず息を吸い込んだその時。
わずかに燻っていた残り火がかき消されたように消え、
ーーーー空が、迸るように光を放った。
まるで何かを守る殻が破られたかのように紅い空に亀裂が入り、その割れ目から真紅の輝きが無数に地表に降り注がれる。
傭兵は、どさりと地面に倒れ込んだ。
ーーーーそしてエアルは、その瞼を上げる。
現れたそれは、真紅の瞳。
「…………レザリア」
主の密やかな喚び声に反応し、魔装備はその姿を顕現させる。
しかし、その魔法陣も血で染められたかのように紅く。
エアルは、立ち上がった。
「この世界は、私が終わらせる」
そう、呟いて。