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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第1 - 4章 【剋殺・過去】
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91話 『協力すること』

 朝……じゃない、時間的にはお昼の時間。

 本当はもう少し早く起きるつもりだった。

 服をいつもの服に着替えて部屋を出る。皆の部屋の扉は開いていて、中を見ても誰もいなかった。

 さすがに起きるか……カグラさんはどうしているんだろう。ちょっと心配だ。

 階段を降り、リビングに向かうと、人影が見えた。話し声が一切聞こえないからなのか、とても入りづらい雰囲気がある。カグラさんが、私が深夜に山頂に来ていたことを言っていたら、リビングに入った途端に怒られそう。

 私は恐る恐る音をたてないように歩き、リビングに入る直前まで来て立ち止まり、中を覗いた。三人は黙ったまま椅子に座り、少しも動いていなかった。

 もしかして私が来るのを待っているんじゃないだろうかとも思える程の静けさ。私のライフがゼロになりそう。

 私は勇気を振り絞ってリビングに足を踏み入れる。


「あっ、えぇーと、皆さんおはようござま――」

「なつめ」


 お兄ちゃんが真っ先に振り返り、私の顔を見て名前を呼んだ。


「は、はい?」

「カグラから聞いた。……カグラを探す為とは言え、深夜に山頂に行ったら危ないだろ。夜中、俺がトイレで起きた時になつめの部屋とカグラの部屋が空いてて、俺はどうしたらいいか分からなくて寝たんだぞ」


 腕を組みながら話してきた。

 というか寝たんかい……


「さっきまでカグラの事を叱ってたんだ。次はお前の番だ。カグラの隣に座れ」


 私は何も言わずにカグラさんの隣に座った。せっかく昨日肩の荷が下りたのに、今度は重たく冷たい氷を乗せられたように、肩が一気に重くなる。


「なつめ、お前は俺の妹なんだぞ。そして、第一に家族なんだ。一人で危ない所に行っちゃいけないって誰からも教わらなかったのか? 俺はな、滅茶苦茶心配しつつ寝たんだぞ?」


 最後の一言のせいで感動何て文字は一気に吹き飛んで、そして一気に力が抜ける。


「うん……」


 私は下を向きながら笑いをこらえた。


「何笑ってんだよ」


 私が笑いをこらえるために下を向いているのに気が付いたらしく、そのことを指摘してきた。


「いやだってさ、寝たって……」

「仮に俺がメルを起こして行ったとして、何になる」


 確かにそうだけども……


「ちょっと。私のことは余計なんじゃないかな?」


 メルちゃんが自分の杖を構えてお兄ちゃんに体を向けた。隣にいるカグラさんも下を向いて耳を赤くしてくすくす笑っていた。


「カグラまで……あー、何か叱る気無くなっちゃったな。もうやめるか」


 お兄ちゃんは背もたれに寄りかかり、腕の力を抜いて真下に垂らした。


「そういえば、カグラさんから話を聞いたってことは、他の皆の事も……この事変自体が解決したってもう知ってるってこと?」


 お兄ちゃんは天井を見ながら「ああ」と返事をした。メルちゃんは杖を机に立てかけて頷いた。


「そっか……なら、今から話すことは勿論、今後の事だよね?」


 私が皆に訊くと、皆頷いて、メルちゃんは目線を私に移し、腕を張って両手を太ももに置き姿勢を正した。カグラさんは相変わらず俯いたままで、お兄ちゃんは怠けた姿勢のままだ。


「私、昨日……というか今日考えてたんだけど、私とお兄ちゃんとメルちゃんの三人は、まずザトールに行ってからサン町に行き、船で次の大陸を目指すとして……」


 お兄ちゃんはまた「ああ」と言って頭を上下に動かし、メルちゃんは真剣な眼差しで私を見つめながら頷いた。


「カグラさんはどうしたい?」


 カグラさんは膝に置いていた拳を力強く握りしめた。


「わっちは……」


 カグラさんは目に涙を浮かべて、首を振った。


「わっちはこの集落に残って、ずっと育ててもらってきた村長や集落の人々が見に来ても笑顔で帰れるような集落を作りたい。だが……」


 カグラさんは大粒の涙を流して目を瞑りさらに拳を強く握った。強く握った拳は震えて、指の先が見る見るうちに真っ赤になった。

 私は、何を言えばいいか分からなかった。


「わっちは一人じゃ何もできないのだ」


 その一言を聞いて、私まで悔しくなってしまっていた。いつも一人だった私には、誰かに一人じゃなくさせる方法を知らない。あるとしても、私自身がそうされたように、私もカグラさんに寄り添うことしか思いつかない。そのこと以外を考えられない自分に苛立ちを覚えた。


「カグラさん……」


 俯きながら名前を呼ぶことしか、私にはできなかった。


「じゃあさ、俺らも協力するから、まずは人を集めよう。この集落に快く住んでくれる人をさ」


 お兄ちゃんが姿勢を戻し、力を抜いていた腕を机に乗せて左の頬を左手に乗せ頬杖をつきながらそう言った。


「で、でも、それでは迷惑がかかるぞ……」


 カグラさんは閉じていた瞼を開いてお兄ちゃんの方を見たが、またすぐに下を向いてしまった。


「俺もなー、昔は一人じゃ何もできなかったんだよ。何をやってもダメだし、日常が全て嫌になった時もあった。でもな、いろんな人と協力することによって、一つの何かが生まれるって、吹奏楽をやってて気づいたんだ」


 メルちゃんは吹奏楽という聞きなれない言葉を聞いて首を傾げていた。


「つまりな――」


 私は、次のお兄ちゃんの言葉に胸を思い切り叩かれたような衝撃的な衝動を受けた。


「――人間は一人じゃ何かを生み出すことができないんだよ」


 何故だろう。きっと良い言葉のはずなのに、私の心には長い針が何本も何本も心臓目掛けて刺されたかのような痛みが生じた。

 思い出したくない思い出なんて思い出さなければいいのに、私が忘れていた何かを思い出させようと頭がそうさせる。


「だから、皆でやろう。だって俺ら、仲間だろう? もちろん次の大陸に行かないといけないけど、出来るところまでは協力したい。そこで、俺らがやるのが、住民集めって事だ」


 カグラさんは目から出てくる止まることない涙を袖で涙を拭って拭って拭いまくって、「ありがとう、本当に、本当に……」と、何度も何度も言った。


 たまにはいいこと言う、じゃなくて、たまにはいいこと言わせてやりたい。というか現実で本当にこんなこと言えるような大人になってほしいです。

 次話もよろしくお願いいたします!

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