90話 『明日に備えて、寝る』
その後、ダモンの今回の件についての処理はパミルに任せて、目を覚ましたカグラさんを連れて私は帰った。帰り際に後ろを振り返った時、織のようなものが見えたが、気のせいだろう。これでこの大陸には安泰がやってくる。不幸ばかりが蓄積されて、荒んだ人がほとんどいなくなる。
なんて、こんなフラグ立てるとまた面倒なことになりそうだから考えるのはやめにしよう。
帰り道、カグラさんは何が起こったかを訊いて来た。私は、「復活したパミルがことを収めてくれた」と答えた。『復活した』、という言葉を聞いてピンとこなかったのか、カグラさんはまだボケている頭をフル回転させるために頭を抱えて、『理解できないのだー』と言っていた。正直どうでもいいことだから理解しなくてもいい。
仕方ないと思い、私はカグラさんに詳細に説明した。幸福のお鍋のこと、その汚染効果のこと、また、ダモンが勘違いという理由でこの事を起こしていたことを……カグラさんは私が言った事を聞き、とても悔しがった。
可愛がっていたルリちゃんとミナちゃんのこと、そして、村の人が全員全滅したことも。村長の家で倒れていた村人に全てダモンがやったと告げられ、理性を失って山頂まで来てダモンに無謀な勝負を挑み、敗北してしまった事も。自分の今までの行動全てを悔やんでいた。そのうち、私たちと行動を共にした事も悔やみ始めそうで、なんだか怖くなってしまい、私はその時カグラさんの話を聞くだけで何も話そうとはしなかった。無駄な事を言ったら嫌われてしまいそうな気がした。
その時の時刻はもう深夜の三時で、長そうで短い時の流れだったと、家に帰って、部屋で一人になってから実感した。
家に帰ってから、カグラさんは一直線に自分の部屋に向かっていった。「おやすみなのだ……」と明らかに暗いトーンで言われた。おやすみなさい、と返答はしたが、どうも申し訳ない気分がして、私はリビングのイスに座りながら考えていた。
どうしよう。事を終わらせちゃった。明日……じゃなくて今日、どうお兄ちゃんや昨日泣いていたメルちゃんに言えばいいんだろう……それに、セナさんはどうする? 珍しく真剣に作戦を考えてくれたのに、何もさせないまま終わらせてしまうとは……私じゃなくて魔法が強いだけなんだけど、まさか私一人で終わらせられるなんても思ってなかったし……今更だけど、私の一言だけで全てを察したパミルって相当賢くない? さすが長い年月生きてるだけあるって感じがする。
そんなことはさて置き、寝すぎて眠くないし、カグラさんのことが第一に心配なんだ私は。大切な命を多く奪われて何も残らなくなったこの集落に、自分がどうすべきかきっと路頭に迷っているのだと思う。おやすみなんて言ったけど、さっきからリビングの上の天井ドカドカ石の地面を叩く音とか踏む音が聞こえるんだよね……寝れるはずないもんね……わかるわかる。
……よし、とりあえず、お風呂に入ろう。お風呂に入れば疲れが取れて少しくらい良い考えが思い浮かぶかもしれない。
私は立ち上がり、すぐにお風呂の支度をした。どこからお湯が供給されているかなんて関係ない。いや、セナさんが言っていた温泉から源泉が直接この集落にパイプのような何かを通して送られているのかもしれない。
あっ、そんなことはどうでもいいんです! 今私が考えるべきは今後の事。一応大陸のボスは倒したことになったはずだから、ゲームであれば次の大陸に進むためのフラグが立てられたはず。なら次は港町のサン町で船の切符を買って――
お風呂場の前にある脱衣所および洗面所で服を脱ぎ、下に置いてあった木製の服入れ籠に入れ、お風呂場のドアを開けて入った。
もちろんシャワーなんてない。あるのは水を入れる桶だけ。要は浴槽の中のお湯を桶で掬いながら髪の毛や体を洗うということだ。便利になった元世ではそんな洗い方をする人はそこまでいないだろう。便利なものってどうしても使いたくなってしまうものであるし。
風呂場に用意してあった青い石鹸と円柱型のケースにたっぷり入れてある白い液体を使い、シャンプーである白い液体を泡立てて髪の毛を優しく洗い、脱衣所の木製の籠の中に入っていた細長いタオルを使って、青い石鹸をタオルで包み、タオルに水をつけて、石鹸をタオルで何度も擦った。次第に、作り立てのホイップクリームみたいにふわふわで、青白い泡が出たので、石鹸を元あった場所に置き、タオルを畳んだまま、次はタオル同士でゴシゴシ擦った。石鹸の泡でタオルが殆ど見えなくなったらやめて、その泡まみれのタオルで体を擦った。
桶で石造りの浴槽のお湯を汲んで、桶を両手で掴み、桶を頭上でひっくり返して頭からかけた。何回も繰り返して、体の泡がなくなったら、次にタオルを泡が無くなるまで洗い、水を絞って頭にタオルを巻き、立ち上がって浴槽の中に足を入れた。
「温かい……」
体を全部入れると、溜まりに溜まった疲労感が一気に抜けたように感じだ。そして、浴槽の中で私はまた考え始める。
メルちゃんとお兄ちゃんは事態の収束の事を教えるだけで良いとは思うけど、一番心配なのがカグラさんだ。終わったことは何も変えることはできない。もしかしたら、マジッククリエイトで魂を呼び戻す魔法を作れるかもしれないけど、一度死んだ人を蘇らせるっていうのはなかなか気が進まない。だからと言って集落を捨てさせて私たちに付いてこさせるなんて言語道断だ。カグラさんをここに残すことは決定するとして、その後の事を何て言えばいいか、そこが問題。
この集落の、活気ある状態を再生する、なんて私が言えたもんじゃない。それに、カグラさんもここにいるのは辛いのでは……いっそザトールで暮らすとか……うーん、そこらへんはカグラさん次第か……
ずっと考えていたおかげで体が逆上せてしまった。私は一先ず考えることをやめ、お風呂場から出た。体洗いに使ったタオルを畳んで洗面台に置き、籠に入っているバスタオルで髪の毛や体を拭いた。
あーそういえばこの服もそろそろ変えたいなぁ。正直このエプロンとか私の年齢的にはもう合わないんだよね。変な刺繍ついてるし。
次の装備はこの時期に純白のワンピースなんて……季節感、息してる? もういっそ、サン町の防具屋にでも行って買おうかな。品ぞろえは分からないけど、港町だから、様々な大陸の物が色々置いてあるかもしれない。よし、そうしよう。
ポーチからいつものパジャマを取り出し、下着を着てパジャマを着た。
やっぱお風呂入った後だと暑いなぁこのパジャマ。本来ならまだ夏場に使っている半袖短パンのピンク色のパジャマ着てるのに。今日は上はシャツだけ着て寝ちゃおっかな。明日の朝地獄を見そうだけど。
私は地面に置いてあった物干し竿を手に取り、丁度掛けられる場所があったので掛けて、そこにタオルを二つ干した。パジャマや下着は作った魔法で綺麗にしよう。きっと新品みたくなるはず!
っと、もう五時か……私どれだけ長い間考え事してたんだろう。もう朝だけど、休憩程度に少し寝ることにしよう。これからのことは起きてから皆と考える。
私は自分の部屋に戻り、ベッドの上に乗って布団を掛け眠りについた。
どうか、明日は平和になりますようにと願いながら。
次話もよろしくお願いいたします!