89話 『何でもするって言ったよね?』
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ああ、そう、私は小学生の頃と、中学生の一年生の時に虐められていた。もう今では、私に非があったかなかったかなんて分からない。あの頃の私は地味で無口で笑いもせず誰かと会話することもほとんどなかった。あるとしても、グループ授業で少し話す程度だった。給食の時も、一人で黙々と食べて、トイレに行ってその時をやり過ごしていた。
幼稚園にいた時も、そんな感じだった。だが、私には一人だけ友人と呼んでいいかは分からないが、唯一話せる人がいた。
その人はいつでも幼稚園の頃から一人でいる私に無視され続けても話しかけてきてた。それから私が、いくら振り払おうとしても付いてくることをやめずに、話しかけてきた。その人と私が話した時、その人はとても嬉しかったのか、今ある夜空の星のように目を輝かせていた。相当嬉しかったのだろう。当時の私には嬉しいなんて分からなかったが。
それから少し話すようになって、その人の家に遊びに行くこともたまにあった。あったとしても、一か月に一回あるかないかの頻度であったが。
小学生になってからも、その関係は続いた。でも、私が黙っていることに誰かが釘を刺したらしく、私に関する妙な噂が知らない場所で広がっていた。おそらく、その人もその噂は知っていたのだと思う。だから、私と学校で話す機会が次第に減っていった。ただ、学校の帰りには一人で帰っている私を追いかけてきて、一緒に帰っていた。
その時の噂はどんなものだったのかな。
学校の同学年の間では、私が同級生の横を通ると、ひそひそ話と微かな笑い声が聞こえた。
『ほら、あの子でしょ? 無口で気味が悪い子って』
『そうそう、地味だし、髪はぼさぼさだし、きっとお風呂に入ってないんだよ』
『あのつ、親がいないらしいぜ。もしかしたら、あいつが親を殺したのかもな』
こんなことを呟かれていた。
何の根拠もなく作り出される噂の数々は、やがて同学年だけでなく、学校全体の噂になった。
……先生たちはその噂を無視していた。
それから、噂が建てられてから一年経って小学三年生の秋、ついに私に『虐め』という行為を実際にする人が現れた。それは、同学年の男の子だった。
きっかけは何だっかか、確か、道徳の時間だったか。その時にやった授業の内容は覚えていないが、人いうものがテーマだった記憶だけはある。そこで、その隣に座っていた男の子は私に向かって、
『おい、人殺し――』
と、私を人殺しと呼んだ。そこから、群集心理なのか、私に対する虐めが噂や避ける事だけでなく、実際に行動として示されるようになった。
人を殺してもないし、そもそも私に家族と呼べる人がいないわけではない。ただ、家族かと問われると、家族ではないと言えるかもしれない。
話を戻します。
それから、私はずっと虐められ続けた。もちろん、仲が良かったその人は私を気遣って遊びに誘ってくれたり、一緒に帰ってくれもした。だが、それもそう長くは続くはずがなかった。小学生だった時は子ども染みたイタズラのようなものばかりだったが、中学生になってからは全く違かった。知識を少し得た子どもたちが過度な虐めを始めてきた。小学生の時は、一人でトイレや教室の掃除をさせたり、自分の机だけを廊下に出されたり、あとは、ただ単に避けられたり、そんなものであったが、中学からは、トイレの個室に一人でいる時にバケツの水を上からかけられたり、虫を食べさせられようになったり、男子女子に肌をライターで……多すぎて思い出せない。その頃は、まだたった一人の友達がいたから笑うことができた。嬉しいことや楽しいことを感じることができる心情は持っていた。
だが、中学一年の一学期、その人に裏切られた。その人までもが、虐めに参加してきたのだ。
でも、私を虐めようとするその人の顔を見て、何故かその人に虐められようとしている私は嫌ではなかった。今考えてみるとよく分かることなのだが、恐らくその人は本意ではなかったなかったのだろう。嫌々やっているようにしか見えなかった。
でもその時は何も分からなかったから、勝手に裏切られたと思って、完全に人の心を失くしてしまった。それが、私の『本性』であると、その時に悟った。
ああでも、優しさだけを残した理由って、なんだったかな――
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「……分かったのですが、あのー、なつめ……? どうしたんですか、ずっとボーっとしてましたが」
「え? あっ、いや、何でもないよ」
少し昔の事を考えていた。
思い出したくない事のはずなのに……
「そうですか、じゃあ私はこれで……」
パミルはゆっくりと台座の上にある両手鍋を開けようとした。
「……お願いは?」
パミルは体をビクッとさせて、振り返り苦笑いをした。
「あははー、はぁ……お願いって、何でしょうか……?」
「私兄姉はいるんだけど、妹がいなくて、友達の妹談を聞くといっつもうらやましく思えちゃうんだよね」
私は苦笑いをするパミルの近くに寄って、パミルの両肩に手を置いた。
「私のことをこれからはお姉ちゃんと呼びなさい! うん、これが一番簡単で私にとって得がある気がする! というか一回でもいいからお姉ちゃんとか言われてみたい! パミルさん私よりも少し若そうに見えるし」
「えぇ!?」
パミルは驚いて顔をキョトンとさせた。
「そう目の前で言われると、恥ずかしいんですけど……」
パミルは顔を赤くして私から目をそらした。この大陸の逆年齢詐欺おばあちゃんは結構見た事あるけどこの子は断トツで子どもらしさが出ていて可愛い気がする。同年齢に見えるのに、どうしても甘やかしたくなってしまう。
「それじゃ、言って? お姉ちゃんの前に私の名前を添えてね」
私はパミルの肩から手を放して、少し後ろに下がって手を当てて肘を張った。
「な、なつめお姉ちゃん……?」
パミルはますます顔を赤くして、そして顔で両手で隠した。
「ああダメです! 慣れてないもので、恥ずかしくて恥ずかしくて……」
ああいい響き……満足満足ご満悦です。お姉ちゃんって呼ばれるの初めてだから、私も少し緊張しちゃったよ……
「よし、これからは私をお姉ちゃんと呼んでね」
「う、はい……恥ずかしいですけど」
三日に一度くらい来たい。
次話もよろしくお願いいたします!