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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第1 - 4章 【剋殺・過去】
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88話 『訊きたい事、訊かれたくない事』

「まず一つ目なんだけど、貴方達は誰から生まれたの?」


 パミルは変わらず顎に手を当てて、こう言った。


「それが私にも弟にもよく分かってなくて。誰に育てられたかの記憶がないんです。あっ、一つだけ覚えていることといえば、『私には姉弟なんていなかった』ということだけです」

「それはどういう……」

「相当前の話になるのですが、私がこの世界に誕生したのは今から大体四、五十年前です。ちなみに、この容姿は形体維持が神性の一部に入っているからなのです。で、生まれてから弟がいたなんて記憶が一切ないんです。当時二十歳だった私は、気が付くとこの山の小屋にいました。その時点で誰に育てられたのかという記憶が消えていました。あの起きた時は私は一日中泣き叫び続けました。涙も枯れて、泣くことができなくなった時に、立ち上がって小屋のもう一つの部屋を見ると、まぁなんと小さな男の子の赤ん坊が眠っているではありませんか! 自分に下や上がいなかったことはわかってたんですが、どうもあの頃は今の弟より可愛くて見過ごすことはできませんでした。そして、私自身に神性が付いていたことは自分がよく理解していたので、その赤ん坊にも神性を付与しました。今思えばそんなことせずにいれば今の状況よりは大分マシになってた気がします。ザックリ言うとこんな感じです」


 パミルの長い話はザックリと言わない。割と詳細に説明してくれた。それでも、おかしな話ではある。何故身元も知れない子を今弟と呼んでいるのか、記憶を消された理由、捨てられた理由……訊いてみてもいいが、どうせ分からず屋の一点張りだろうからやめておこう。なんか疲れたし、帰って早く休みたいから無駄な時間はあまり使いたくない。


「なんとなく分かったよ。じゃああと一つだけいいかな」

「はい」


 パミルは頷いた。


「カグラさんを捨てたのは何故? パミルさんは捨てられた苦しみを知っていたはずなのに」


 パミルは鍋が置いてある正方形の台座の上に軽々しく飛び上がって座り、深呼吸をしてから話した。


「カグラ、ですか……この子は山の麓にある大きい川の近くに捨てられていました。そのあと二年ほどは私が育てていました。ですが、あることを思い立ってから、この子の私に育ててもらった記憶はほとんど消しました」

「あること……?」


 パミルは台座の上で立ち上がり星空を見上げた。


「この世には無数の星が存在します。それと同じように、この世には無数の才能が存在します。生まれてきた人にとって、その才能は人生を左右します。私はこの子の才能タレントをある占い師に見てもらった時から、この子はあの集落で捨てようと決めました。才能なんて差別意識がないあの集落へ……この子の才能は私達ではどうにもなりませんでしたから。実際は、普通の子として生きてほしい、という願いが強かったのですが」


「なるほど……では何故神性を?」


 パミルはまた台座に座り、台座の中央の窪みに入れてある両手鍋を抱えた。


「この子、本来なら身体的な障害を持っていて、歩けもしなければ手で何かを持つこともできないんです。筋肉の発達が異常に遅い、とでも言うのでしょうかね。それがあると普通の人としては生活ができないと思い、身体能力に関する神性だけを与えました」


 カグラさんにそんな秘密が……でもその神性特効、やり過ぎたのでは? と私の中で疑問が生じる。今やもう歩ける手で何かを持てる云々でなくて、跳べるし重い刀すら軽々と振るうことができるようになってる。私も申請して神性付与してもらおうかなー、なんて言って。てへぺろ。


「あの、一人で下出して頭ごっちんしてなにやってるんですか?」

「あ、なんでもないよ」

「…………」


 パミルは私の真似をして、下を横に出し、片目を閉じて右手で後頭部をコツンと叩いた。


「……どうですか?」

「みっともないよ」

「……っ……貴方がやってたんじゃないですかー!」


 パミルは赤面して両手鍋を打楽器のように、掌で何度も叩いた。


「はぁ、はぁ……それはそうと、私も訊きたいことがあるのですけど」

「なに?」

「貴方の性格についてです。弟と対面している時や、ここにくるまでの貴方には、人間の心というあたたかさが感じることができなかったのですが、今の貴方には人間の心が感じられます。それはなんでですか?」


 パミルは私が人生で一番訊かれたくない質問をした。この事を聞くと、あの何の変哲もない地獄のような日々が思い出される。とても醜い人間たちの思想や行動などが……


「あまり訊いてほしくなかったかも」


 パミルはおどおどして、「無理なら言わなくてもいいんですよ」と言った。

 無理なことはないのだけれど、これを言われて変に気づかいをされるとこれからやりたいこともうまくいかない気がする。


「じゃあ一言だけで纏めるからしっかり聞いててよ。これ以上は言わないから」

「はい!」


 パミルは元気よく返事をして、両手鍋を台座の窪みに置き、台座から降りて立った。


「私は昔ね、同年代の子達に虐げられていたんだ」

次話もよろしくお願いいたします!

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