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85話 『絶望の死』

 うん……やっぱり一人だけでこの空間を占領するのは気分的に好ましくない。家のリビングを一人でいる時と同じ虚しさを感じる。せっかく旅の仲間がこの家にいるのにも関わらず、みんなで楽しく話せる場であるリビングを一人でいるというのは、好きじゃない。

 一人でいたいときはいいけど、一人でいすぎても暇だ。でも、お兄ちゃんは引きこもるだろうし、メルちゃんとは少し話しにくいし……今日作戦会議しない方がよかったんじゃない? と思ってしまうくらい。重たい空気しか残らない作戦会議は身体的にも精神的にも辛く当たってくる。ただのゲームならまだ楽しんでできるものの、実際に命をかけるとなれば、重圧が全くの別物だ。

 そういえば、みんなお昼食べてないけど、お腹空かないかな。何か作るにしても……

 私はポーチについているブックを手に取り、時刻を確認した。午後二時過ぎ、今から食べたいなんて人はいないだろう。仕方ない。食材はこのままポーチの中に入れておくとして、私も自分の部屋でゆっくり午後のひと時を過ごさせていただくとしますか。

 私は水道水で手を洗い、タオルで手を拭き二階に上がり、自分の部屋の扉を開けて中に入った。

やはり灰色単色だと、特徴がなくて部屋に来ても「あっ、ここ自分の部屋だ」と認識できない。自分の部屋だということがわかりやすいように、机の上にうさぎのぬいぐるみでも乗っけておくとしよう。

ポーチからウサギのぬいぐるみを引っ張り上げて、木製の縦長のテーブルの上に乗せた。

うん。置くだけでもウサギカワイイの華やかさが雰囲気で伝わってくるけど、牢屋の中にウサギが収監されてるみたいでシュールな絵面に見えなくもない。

 私は少し硬めのベットの上に、あおむけで寝っ転がり瞼を閉じた。やっと落ち着けたとこで分かったけど、心臓が鎖につながれた猛獣みたいに暴れているようで、普段よりも心臓の動きが早い。呼吸のペースもいつもより少し早い気がする。私は今、とてつもなく緊張しているんだろうな。運命の日まだ六日あるはずなのに、こんな前から心臓が張り裂けそうなくらい緊張するなんて……なんとか落ち着かせないと眠れる気すらしない。たとえ眠れたとしても、疲れがとれない気がする。

 緊張を取り除く方法なんてこれくらいしか知らないんだけど……

 私はうつ伏せになって、右手を顔の前に出し左手で右手の掌に『人』と三回書いて飲み込んだ。飲み込んだ後、何とか食べてる風に見せる為に口をもぐもぐ動かした。

 うん、うん。なんも変わらないや。なんで人って三回書いてから飲み込むと緊張が解れるって言われてきたんだろう? 私がこれやって緊張が解れた試しがない。緊張がこんなおまじないで解れるの? って思い込んでしまっているから、その先入観によって効果が掻き消されてるのかな……でももう一度持ってしまった先入観は取り払うことは難しいし……うーん、こんなことを考えてるうちに、心臓の動きが穏やかになってきた。考えすぎはよくなかったみたいだ。ただ単に別の事を考えて逸らしておけば自然と緊張なんて解れるもんだよね。

 体勢を仰向けに直して、またゆっくりと目を閉じた。

 ――そして時が経ち、起きた。

 夢を見なかった気がする。というよりも、ずっと真っ暗な空間にいた感覚。夢の内容を覚えていないだけかな。

 ブックを取り出し時間を確認すると、既に二十三時を回っていた。

 回っていた。回っていた……? えっ!?

 驚きのあまり、声が出そうになった。目を何回も擦って、繰り返し見るが、二十三時の表示は変わらない。夢であってくれとほっぺを抓んで引っ張ったが、普通に痛いだけだ。

 周りを見てみても、机の上にちょこんと座ったウサギのぬいぐるみがあるだけで、他は何もない。知ってたことだけど。

 ああでもどうしよう。夕飯作ってないよ私……


「みんな激おこぷんぷん丸だよ絶対……」


 料理できるの私くらいなのに……メルちゃんは材料を揃えることばかりしてて料理作りそのものには参加をしなかったから……

 お兄ちゃんは役立たず……うん……

 私は部屋を出て、暗い廊下を……おや? カグラさんのいる部屋だけ扉が少し開いていて、ついでに部屋の明かりが外に漏れてる。

 カグラさんの部屋をそっと覗いてみても、カグラさんの姿はなかった。あったのは、地面に落ちているカグラさんの白色のヘアゴムだけだ。これは一体どういうことか……

 階段を降りて、電気設備がないリビングで、ライトの魔法を使い光るぷにぷにを頭の上に乗せた。そして、次はシンクを見てみた。

 洗われた食器がある。しかも同じ食器が四つ、部屋にはウサギのぬいぐるみが私が置いた時と同じ姿勢で座ってたから、セナさんが食べたとは考えにくい……誰か家に来たの……? 村長? それともルリちゃん? それとも村の人の誰か……?

 私は家の外に出て、柿のように鮮やかなで強みを感じるオレンジ色の灯りが両脇にいくつもある道を歩いた。そのうち、光るスライムは頭上で消滅してしまった。

 村長の家に着き、石の扉を叩いた。反応はない。今の時間なら当然のことだとはおもうが、それでも異様な雰囲気がある。

 石の扉を押してみると、鍵が開いていてそのまま扉が開いた。中は少し生臭かった。というより、血生臭い、と言った方が正確かもしれない。ライトを使うと、廊下には血の跡が不均等な感覚で床にこびりついていた。色は鮮やかな赤ではなく、少し濁った赤色をしていた。そして、血の跡に従い、リビングに着くと、昨日見た、村人と思われる青いつなぎに焦げ茶色のズボンを着た青年が倒れていた。


「――!」


 私が見たものは、今まで見た中でも衝撃的なものだった。青年の顔は真っ青で、それに体をよく見てみるとやせ細って骨が一部剥き出しになっていた。だが、まだ息はあるらしく、私が来たことを感知し、最後の力を振り絞ったのか、こんなことを私に言った。


『ダモ…………カ……グ……さま……や……まへ…………アァアアッ、アアァァァァアアアァ……ァァアァァッッッ!』


 彼が気勢を上げると、青年の体がマグマのようにドロドロに溶け始めて、そして、黒い液体になった。

私はそっと、フレイムを唱えてその液体を償却して、抹消させた。

 ……初めからこんなに悲しくて醜いものを見せて、一体何が目的なんだろうか。なんて悲しくて醜い世界なんだろう。この世界には荒んだ未来しか見えない。

人が殺されていくのを見て、それを笑う奴がいる。自分が殺される時の事も考えずに――

 私は立ち上がり、村長の家を出て家に戻らずに上の村に向かった。

 今から殺したやつに制裁を与えよう。

 ……今の私には、もう優しさしかない。

次話もよろしくお願いいたします!

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