83話 『作戦会議③』
「ともかくね、こうなったら是が非でも勝たなければいけないの。スキルの対処方法はこれでいいかしら? 目視可能なものは魔法で対処、目視不可なものは……そうね。回復魔法を自分にかけまくって頂戴。それしか守る手段がないわ。戦闘時になれば私が皆にダモンのステータス、スキルや魔法も教えるから」
セナさんは大きく一息ついた。
さっきから、少ない回数の呼吸で話しているみたい。セナさんも緊張しているのだろう。まぁ、大事な作戦会議をしてて緊張をしてない人なんてだれ一人いるはずないと思うけれど。
「私からはこれで終わり。他の人、何か言うことある?」
「あ、一つだけいいか?」
お兄ちゃんが腕を組みながらセナさんに言った。
「なに?」
「魔力回復薬はどこから調達するんだ?」
「ああそれなら……ね? なつめさん?」
と言い、セナさんが私のポーチを取り上げた。
「あ」
「この中に沢山入ってるわ。だから、心配しなくても大丈夫よ。魔力回復薬は体に少しでも浴びせるだけでちゃんと効果出るからね」
私の味付き魔力回復薬が今回の戦闘で底を尽きそうだ。せっかく大枚をはたいて買ったのに。
「まぁいいけどさ……早めに終わらせられるようにしようね」
セナさんが笑いながらポーチを私に返した。これはこれでいいとして、ポーチの中にいる時に勝手に中身見てたのかな。
「他は?」
「あ、わっちから一つある」
「なに?」
「スキルは使ってもいいのか?」
セナさんは元いた位置に戻り、耳で丸を作った。
「もちろん。止むを得ないときだけだけどね」
カグラさんは何故かガッツポーズをした。スキルが使いたくて仕方なかったんだろう。そういえば、カグラさんのもう一つのスキルを見たことがない。前のマグさんとの戦闘では一つだけ使っていたかな。
「他は……ないみたいね」
誰も声を挙げなかった。これで作戦会議は終了かな?
「あ、一つ言い忘れていたことが。注意点なんだけど、この作戦はさくまで理想形であって実際にできるものではない。マグとの戦闘なんて酷かったのなんのって。だから、臨機応変に対応できる力が戦闘には必要不可欠。もちろん、自分で考えることが実際には重要だから、引く判断や、攻める判断を誤らないように。それじゃあ、一旦終了! 休んでもいいし、イメージトレーニングをするのもいいわ。今からの過ごし方は自分で考えて頂戴。もちろん、ダモンと戦うってことをちゃんと意識しながらね」
皆頷き、メルちゃんはリビングに残り、お兄ちゃんは二階の自分の部屋に戻り、カグラさんはまた村長の家に行くといって家から出て行った。セナさんは私のポーチの中に入り、「ちょっと仕事してくる」とだけ言って、消えてしまった。
部屋の中に残ったのは、私とメルちゃんと少し重たい空気と沈黙だけだ。
「それじゃあ私は外に――」
私がそう言うと、メルちゃんが突然椅子から立ち上がり、私の服の袖を掴んできた。
「怖いよ……なんで私たちは悪くないのに、私たちがやらなきゃいけないの……?」
私は下を向いて黙り込んでしまった。何を返していいか思いつかなかった。
「私達じゃ到底敵わないってセナもカグラさんも言っている相手なのに、何で立ち向かわなきゃいけないの?」
メルちゃんは目に涙を滲ませて言った。
「仕方ないよ」
「仕方なくない! それに、まだ会って一年も経ってないのに、命に関わることやらされるなんておかしいよ!」
「私だって怖いよ。でも、これが私たちに付いてくるってことなんだよ。自分で決めたんだから。これは仕方ないとしか言いようがない。それに、まだ時間はあるんだから、少しずつ心を整えていけばいい。きっと、その日には覚悟を決められるはずだから。それじゃあ、私は外に出るね」
メルちゃんは私の服の袖を放して、足早に二階に上がって行ってしまった。
少し厳しいことを言ってしまって、メルちゃんの心を傷つけてしまったかもしれない。でも、今は甘いことなんて言っていられない。やなきやられるだけだから、やられる前にやらなきゃね。
きっとメルちゃんは、その日には気持ちを切り替えてくれる。こうするしかないって、悟ってくれる。
現実を分かってくれる。
私は家を出て、鉄製の梯を登り、また暖炉を潜って外に出た。
さて、私には一人でやりたいことがあったんだ。セナさんは仕事だとかってポーチの中に消えたけど、呼びかけても反応しないし。
私は歩いて西にある食糧庫の中に入り、誰もいないことを確認して隠れた。
よし、早速始めよう。このコマンドさえあれば、事実を隠すのが簡単になる魔法が作れる。まぁ、魔法と言っていいのかは分からないけれど。
私は倉庫の片隅で目を閉じて、静かに唱えた。
「異世界コマンドα、マジッククリエイト」
次話もよろしくお願いいたします!




