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73話 『風呂場での話』

「お風呂はやっぱり気持ちいいなぁ。セナさんも人形だけどお風呂に入れば?」

「いやあなたね、ふやけるとか染み込むとかそういうレベルじゃなくなるわよ」

「どういうことよ……」


 風呂場に丁度置いてあった桶の上に座りながらそうセナさんは話した。さっきポーチの中で耳を付け直したらしく、耳の付け根には糸で縫った跡がある。あの手の短さでいかにして縫ったのか。


「お風呂に入るのは問題ないけれど、水が染み込みすぎると動けなくなるのよ。メルに打撃を与えられてからね、あのー……名前の忘れたけど、この山に秘湯があるのね。そこでゆっくりしてたら、誰かに蹴飛ばされちゃってね。完全に弱体化されて負けました」

「ここはイル山だよ。それに、ゆっくりできる余裕があったら戻ってきてよ……」

「ごめんごめん。『そういえばこの山には昔から通い詰めていた美肌効果に疲労、肩こり、腰痛が取れる秘湯があるんだっけ』って思ってさ。ついつい」


 と、ウサギのぬいぐるみは照れくさそうに笑いながら、頭を手で掻いた。ちょっと可愛く見えてしまうのが嫌だ。私も行ってみたいと思ってしまうけど、この状態ではとても行くことはできない。ダモンとの勝負に勝ったら、行くのはありかもしれないけど、カグラさんやセナさんが念を押して危険だという程だから、余裕なんて一ミリもない。


「そういえばさ、セナさんはどこに住んでるの?」

「え? 港町のサン町だってずっと前言ったでしょ」

「そうじゃなくて、現実の方でさ」

「あー、私は東京出身よ。体はこの世界に置いてるから、今は現実の方にはいないけどね」

「へぇ。都会の人ですか。で、今はどこに?」

「東京在住……であってるかな。異世界にいるけど。基本的に社畜やってます」


 最後の一言だけ声が暗くなった気がした。社畜しながらこのゲームのプログラムまで作り上げ、それにゲームのデバッカーまで……よく死なないものだ。過多労働で倒れて救急車で運ばれるとか、会社の中で担架で運ばれるとかないのかな。


「あ、でもね。この世界を作ってからは社畜でも全然やっていけるようになったわ。一日二十五時間労働も余裕のよっちゃんよ」

「え、死にますよそれ」


 セナさんは人差し指を左右に振って、腕を組んで特に意味もなく格好つけた。


「この世界での時間の流れは、現実での零に凡そ等しい。つまり、死にそうになったら、トイレとか、外の空気吸ってくるとか、適当に言い訳つけて異世界コインたるものを使い会社から抜け出し、長期休暇を戴くって寸法よ。それに、夏場はバカンスをも楽しめる。港町に住んでいるから、南の島(そんなものは無い)にも行けるってことよ!」

「それ会社の人にバレたら恨まれそう」

「いやいやそんなことはない」


 セナさんは大笑いした。高い声が風呂場に響く。


「じゃあ時期の調整とかってどうやってるの?」


 セナさんはまた腕を組んだ。何処かから眼鏡を取り出して掛けた。インテリのキャラなのかバカキャラなのかハッキリさせてほしい。


「時期の調整はできない。時期調整をする秘訣は、厳密に言うと、現実世界での時刻に関わってくる。現実では、春夏秋冬の四季変化があるでしょ?」

「うん」

「その四季変化を時刻ごとで単純に区切っているの。六時間に一つの四季変化って感じでね。春は零時から六時まで、夏は六時から十二時まで、秋も冬も六時間ごとって感じにね。面白いでしょ。一年の区切りは同じなんだけど、時刻によって『異世界での一年で、入れる時期が変わってくる』ということ。日付は勝手に調整されるようにプログラム付けたわ」

「はぁ……」


 セナさんは眼鏡を外して放り投げた。指を勢いよく擦らせて音を鳴らすと、その眼鏡は光とともに消失した。スキルで造った伊達眼鏡だったのか。


「でさ、そろそろ逆上せてこないこない?」

「そういえば……」


 私はゆっくり湯船から出て、洗面所に出た。長湯し過ぎたらしい。体が赤い。


「セナさんは上がらないの?」


 風呂場にいるセナさんに話しかけたが、反応しなかった。


「聞いてる?」

「ごめん。やっぱりお風呂に入る。秘湯で湯気だけ浴びてても疲れは取れないしね。一回蹴飛ばされて無理やり入らせられたけどね」

「わかった。じゃあ先に寝てるよ」

「オッケー」


 体を拭き、風魔法で髪を乾かした。ドライヤーという便利機器が無いから冷たい風で乾かすしかない。

 数分後、髪を乾かし終えた私は、二階に上がり自分の部屋に入り、ベッドの上であおむけに寝そべった。


「セナさん、一日に二回もお風呂に入るのか……」


 私はその一言だけ云ってから、寝てしまった。一日中歩き回ってて疲れていたから仕方がなかった。


次話もよろしくお願いいたします!

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