3話 『マスターと勇者と召喚士!』
改稿しました! 長すぎる……。
2019年10月29日(火)
※あ、2話のあらすじを消しました。
酒場……一体、どんな空間なんだろう。
やっぱ居酒屋をイメージしちゃうな。
私は未成年だから、そういう場所は行ったことはない。
あと、連れてってもらったこともない。
お兄ちゃんは行ったことあるのかな?
「お兄ちゃんって居酒屋って行ったことある?」
「家でしか飲まないから行ったことない」
「あっそう……」
もう話すのやめようかな。
木製のドアを開け、中に入った。
「すみませーん。アルバイト募集中の張り紙が見て入ったんですけども……」
ゲームで出てくるような酒場だ。
なんで居酒屋なんて想像してたんだ、私。
テーブル、椅子、床など、丁寧に清掃が施されている。
新しく造られたばっかりの空間のようだ。
「……バイト志望か」
私たちに気づいたらしく、カウンター越しに背の高い男性が低い声で話しかけてきた。
たぶん、この店のマスターだろう。
バーテンダーの黒い格好で、とってもダンディな雰囲気だ。
カールしてる髭が、まさにそんな感じ。
「はい、そうですけども……」
「そこに座れ」
グラスの中に白い布巾を入れ、左手でカウンター席を指さした。
面接とか、ないよね……?
張り紙には、大きくアルバイト募集中の文字しか書いてなかったはず。
……心配になってきた。
「とりあえず、これを飲め」
そう言って差し出したのは、オレンジ色の液体とアルコール臭のする飲み物だった。
「え……でも、私たちまだ来たばっか……」
「イリア……知ってるだろ? 昨日イリアが、『明日、俺の酒場にバイト志望で誰か来る』と言ってたんだ。だからそれは、何というか、その、アレだ」
マスターは後ろを向いてグラスを拭いていた。
……まさかこの人、私たちに「バイトしに来てくれてありがとう」と照れ臭くて言えないが為、その感謝の気持ちを、このグラスから溢れそうなくらいにいっぱいなジュースで表現しようとしてるのでは!?
……怖そうに見えて、実は優しい人なのかな。
「で、どっちがバイトをするんだ?」
マスターがこちらに振り返り、話し始める。
え? どっちかって……。
「イリアからは、片方しかバイトをしないと聞いているが……」
何、その予知。
頭を傾け、頬杖をついていた。
まぁ、予想はつくけども……。
「あ、俺がしません」
やっぱりか。
いつの間にかお酒を飲み干したお兄ちゃんは、我先にとそう言った。
「普通、ここは二人でアルバイトするでしょ?」
まだ高校生の可愛い妹に働かせるなんて、人間だったら普通しない。
「だって、俺接客業できないし、第一働きたくないし……」
何言ってんだ。
接客業できない事は承知の上。
ただ単に働きたくないって……。
「じゃあ、バイトをするのは、おめぇさんって事でいいんだな?」
「うーん……もーわかりました。私がやります」
結局私が引き受ける事になった。
「よし決まりだ!」
マスターは右手の親指と中指で指を弾き、良い音を出した。
何だか不服だ。
何故妹の私が働いて兄は働かないのか。
くぅ……もっと強く言えばよかった。
「そんじゃあ、バイトは17時から23時までだから、また七時間後に来てくれ。内容とかはその時教える。それまで――そうだな……この町を見て回るといい。あと、昼飯も晩飯も食べ忘れるんじゃないぞ。ほら、3000ギフだ。今日はこれで何とか昼夜を済ませろ。【働かざる者食うべからず】と言うが、食わないとよく働けないからな」
見た目にそぐわない不敵な満面の笑みで、金貨2枚と銀貨2枚を渡された。
金貨1枚1000、銀貨1枚で500ギフなのかな。
日本円でいう、1000円札と500円玉みたいなものか。
それにしても、笑顔になれていない感がすごい。
「あ……はい! ありがとうございます!」
まぁ、良い人に変わりはない。
――その後、言われた通り、私たちは町を見て回ることにした。
「さてと、町を見て回りますか」
って言ったけど、お兄ちゃんは全然乗り気じゃないみたい。
「俺はいいよ。そこらへんのベンチに座って待ってるから、そのクソウサギと一緒に見て回ってこい」
お兄ちゃんは、広場の木の下にあるベンチに向かって怠そうに歩いて行った。
「えー、お兄ちゃん町見ないの?」
と、呼びかけたが、全くこちらを見向きもせず、
「俺は不動が一番なんだ」
と言い、ベンチに座り背もたれに寄りかかる。
見知らぬ地で妹を一人にするなんて、本当にお兄ちゃんとしての自覚あるの?
……もういいや。
「わかったよ……じゃあ行ってくるから、ここで待っててよ? 若しくはどこか寝る場所でも探して来て。あっ、それと1500ギフあげるから、これでお昼とか済ませて」
はいはい、と言ってお兄ちゃんはベンチの上で寝っ転がってしまった。
いっそのこと、ここでくたばってほしい。
□
……さてと、どうしようかな。
町の人に聞いて、オススメを教えてもらおう。
「あのー、ここら辺でオススメの場所ってないですか?」
野菜が詰められた籠を持ったおばさんにそう訊いた。
「え? オススメの場所……? そうねぇ……この町から少し南の方にある【英雄の滝】にいってみたらどう? あそこは絶景よ〜。あ、でも、道中で魔物が出るから、気をつけて行ってね」
そう言い、私に優しく微笑みかけた。
「はい! ありがとうございます!」
町出ちゃう……うーん、まぁ仕方ない。
それにしても魔物が出るのかぁ、ちょっと現実味がないけれど……。
ゴブリンとかスライムとかが出てくるのかな。
私ヒーラーだし、ウサギさんもなんか弱そうだし……うーん。
「頼り甲斐のない兄に変わり、私が着いて行きましょう」
そう後ろから声をかけてくれたのは、イリアさんだった。
「え? あれ? イリヤさん。用があるって……」
「用済ませちゃって暇なの。何だか久しぶりに戦ってみたい気分だし」
笑顔でそう言った。
心強い。
イリアさんが仲間になってくれるとは思わなかった。
「それでは、行きましょう!」
そう言って、拳を握りしめ手を高く上げた。
冒険かぁ……。
こんなに胸が高鳴るのは、初めてかもしれない。
魔物が出てくるのは少し怖いけど、イリアさんがいるからきっと大丈夫! のはず。
5分くらい南に歩き、大門を抜けて町から出ると、緑いっぱいの大きな平原が広がっていた。
地平線が見えるくらいだから、本当に何もない綺麗な草原なんだろうな。
それにしても、魔物の姿が見当たらない。
本当に魔物っているのかな……。
「今日は珍しいわね……魔物が一匹もいないなんて」
イリヤさんは、不思議そうな顔をしていた。
「いつもはいるんですか?」
「……えぇ、いつもならこの辺に、ゴブリン達が屯してるはず……それなのに今日はいない。今までこんなことはなかったのに……うーん……」
何か考え込んでいるが、何か心当たりがあるのだろうか?
「あの……?」
「え? あ、いや、何でもないわ。さぁ、モンスターが出てこないうちに行きましょう」
「はい……」
イリアさんは、私に何か隠してるような……そんな感じがした。
道を歩いている時、イリヤさんは常に何かを考えているみたいだった。
私が話しかけると、「え? あ、もう一回言って頂戴?」と、私の話が耳に入っていないのか、何度も聞き返してきた。
一体、何を考えているのだろうか……。
そんなこんなで、いつの間にか【英雄の滝】と呼ばれる場所に着いた。
「きれい……」
滝を囲む様に木々が生えており、崖の上から流れ出る滝の水は飛沫をあげていた。
その飛沫が太陽光に反射し、虹を作り出しているみたいだ。
これぞまさに絶景。
あのおばさんの言っていた通りだ。
「ここはね、私の古い戦友が眠っている場所なのよ」
イリヤさんが小さく口を開いてそう言った。
「古い戦友……?」
私は、咄嗟に疑問をなげかけた。
「私はね、昔、魔王討伐の勇者の4人のうちの一人だったのよ」
軽く衝撃を受けた。
イリアさんが……勇者!?
「えっと、では他の3名は……?」
「1人は、あなた達がさっき会った、ザトールの酒場のマスター。名は【ガイル】。彼は鉄壁の要塞と呼ばれるほど屈強な戦士だったわ。今はどうなのか……」
あのマスターが勇者の1人……そんなに強かったんだ。
「次の1人は女魔法使い。名前はマグ。確か彼女は今現在、アクスフィーナ家の館主を務めていたような……」
思い出す感じで話をしているけれど……アクスフィーナ家……?
……こういうのは積極的に訊いてみよう。
「アクスフィーナ家?」
「あぁ、説明してなかったわね。アクスフィーナ家っていうのは、ザトールを統治する一家で、
代々素晴らしい魔法使いが生まれる一家よ」
そう言った。
へぇ……アクスフィーナ家かぁ……。
いつか会えるのかな。
「そして最後の1人。この英雄の滝で眠る、生きる伝説と呼ばれていた男、【ゼル】。彼は、20年前、自分自身の魂と共に魔王を封印した。そして、彼の抜け殻を、この滝の奥にある空間に埋めた」
滝にかかる虹の橋を見ながら、イリアさんは話し続けた。
「ガイルはその時から変わったわねぇ……いつも五月蠅かったのに、あんなクール気取りになっちゃって、酒場まで始めちゃって」
「ガイルさん、そこまで……?」
恐る恐る訊いてみた。
「彼とゼルは、幼馴染だったのよ」
イリアさんは目を瞑って、小さく息を吐いた。
「昔はよく、ガイルからゼルの話を聞かされたわ。何回、何十回も喧嘩したこと、遊んだこと、そして、一緒に魔王に立ち向かおうって、ここで約束したこととか……」
下を向き、左手を胸に当て、目を一体、どんな空間なんだろう。
やっぱ居酒屋をイメージしちゃうな。
私は未成年だから、そういう場所は行ったことはない。
あと、連れてってもらったこともない。
お兄ちゃんは行ったことあるのかな?
「お兄ちゃんって居酒屋って行ったことある?」
「家でしか飲まないから行ったことない」
「あっそう……」
もう話すのやめようかな。
木製のドアを開け、中に入った。
「すみませーん。アルバイト募集中の張り紙が見て入ったんですけども……」
ゲームで出てくるような酒場だ。
なんで居酒屋なんて想像してたんだ、私。
テーブル、椅子、床など、丁寧に清掃が施されている。
新しく造られたばっかりの空間のようだ。
「……バイト志望か」
私たちに気づいたらしく、カウンター越しに背の高い男性が低い声で話しかけてきた。
たぶん、この店のマスターだろう。
バーテンダーの黒い格好で、とってもダンディな雰囲気だ。
カールしてる髭が、まさにそんな感じ。
「はい、そうですけども……」
「そこに座れ」
グラスの中に白い布巾を入れ、左手でカウンター席を指さした。
面接とか、ないよね……?
張り紙には、大きくアルバイト募集中の文字しか書いてなかったはず。
……心配になってきた。
「とりあえず、これを飲め」
そう言って差し出したのは、オレンジ色の液体とアルコール臭のする飲み物だった。
「え……でも、私たちまだ来たばっか……」
「イリア……知ってるだろ? 昨日イリアが、『明日、俺の酒場にバイト志望で誰か来る』と言ってたんだ。だからそれは、何というか、その、アレだ」
マスターは後ろを向いてグラスを拭いていた。
……まさかこの人、私たちに「バイトしに来てくれてありがとう」と照れ臭くて言えないが為、その感謝の気持ちを、このグラスから溢れそうなくらいにいっぱいなジュースで表現しようとしてるのでは!?
……怖そうに見えて、実は優しい人なのかな。
「で、どっちがバイトをするんだ?」
マスターがこちらに振り返り、話し始める。
え? どっちかって……。
「イリアからは、片方しかバイトをしないと聞いているが……」
何、その予知。
頭を傾け、頬杖をついていた。
まぁ、予想はつくけども……。
「あ、俺がしません」
やっぱりか。
いつの間にかお酒を飲み干したお兄ちゃんは、我先にとそう言った。
「普通、ここは二人でアルバイトするでしょ?」
まだ高校生の可愛い妹に働かせるなんて、人間だったら普通しない。
「だって、俺接客業できないし、第一働きたくないし……」
何言ってんだ。
接客業できない事は承知の上。
ただ単に働きたくないって……。
「じゃあ、バイトをするのは、おめぇさんって事でいいんだな?」
「うーん……もーわかりました。私がやります」
結局私が引き受ける事になった。
「よし決まりだ!」
マスターは右手の親指と中指で指を弾き、良い音を出した。
何だか不服だ。
何故妹の私が働いて兄は働かないのか。
くぅ……もっと強く言えばよかった。
「そんじゃあ、バイトは17時から23時までだから、また七時間後に来てくれ。内容とかはその時教える。それまで――そうだな……この町を見て回るといい。あと、昼飯も晩飯も食べ忘れるんじゃないぞ。ほら、3000ギフだ。今日はこれで何とか昼夜を済ませろ。【働かざる者食うべからず】と言うが、食わないとよく働けないからな」
見た目にそぐわない不敵な満面の笑みで、金貨を三枚渡された。
金貨1枚1000ギフなのか。
それにしても、笑顔になれていない感がすごい。
「あ……はい! ありがとうございます!」
まぁ、良い人に変わりはない。
――その後、言われた通り、私たちは町を見て回ることにした。
「さてと、町を見て回りますか」
って言ったけど、お兄ちゃんは全然乗り気じゃないみたい。
「俺はいいよ。そこらへんのベンチに座って待ってるから、そのクソウサギと一緒に見て回ってこい」
お兄ちゃんは、広場の木の下にあるベンチに向かって怠そうに歩いて行った。
「えー、お兄ちゃん町見ないの?」
と、呼びかけたが、全くこちらを見向きもせず、
「俺は不動が一番なんだ」
と言い、ベンチに座り背もたれに寄りかかる。
見知らぬ地で妹を一人にするなんて、本当にお兄ちゃんとしての自覚あるの?
……もういいや。
「わかったよ……じゃあ行ってくるから、ここで待っててよ? 若しくはどこか寝る場所でも探して来て。あっ、それと1500ギフあげるから、これでお昼とか済ませて」
はいはい、と言ってお兄ちゃんはベンチの上で寝っ転がってしまった。
いっそのこと、ここでくたばってほしい。
□
……さてと、どうしようかな。
町の人に聞いて、オススメを教えてもらおう。
「あのー、ここら辺でオススメの場所ってないですか?」
野菜が詰められた籠を持ったおばさんにそう訊いた。
「え? オススメの場所……? そうねぇ……この町から少し南の方にある【英雄の滝】にいってみたらどう? あそこは絶景よ〜。あ、でも、道中で魔物が出るから、気をつけて行ってね」
そう言い、私に優しく微笑みかけた。
「はい! ありがとうございます!」
町出ちゃう……うーん、まぁ仕方ない。
それにしても魔物が出るのかぁ、ちょっと現実味がないけれど……。
ゴブリンとかスライムとかが出てくるのかな。
私ヒーラーだし、ウサギさんもなんか弱そうだし……うーん。
「頼り甲斐のない兄に変わり、私が着いて行きましょう」
そう後ろから声をかけてくれたのは、イリアさんだった。
「え? あれ? イリヤさん。用があるって……」
「用済ませちゃって暇なの。何だか久しぶりに戦ってみたい気分だし」
笑顔でそう言った。
心強い。
イリアさんが仲間になってくれるとは思わなかった。
「それでは、行きましょう!」
そう言って、拳を握りしめ手を高く上げた。
冒険かぁ……。
こんなに胸が高鳴るのは、初めてかもしれない。
魔物が出てくるのは少し怖いけど、イリアさんがいるからきっと大丈夫! のはず。
5分くらい南に歩き、大門を抜けて町から出ると、緑いっぱいの大きな平原が広がっていた。
地平線が見えるくらいだから、本当に何もない綺麗な草原なんだろうな。
それにしても、魔物の姿が見当たらない。
本当に魔物っているのかな……。
「今日は珍しいわね……魔物が一匹もいないなんて」
イリヤさんは、不思議そうな顔をしていた。
「いつもはいるんですか?」
「……えぇ、いつもならこの辺に、ゴブリン達が屯してるはず……それなのに今日はいない。今までこんなことはなかったのに……うーん……」
何か考え込んでいるが、何か心当たりがあるのだろうか?
「あの……?」
「え? あ、いや、何でもないわ。さぁ、モンスターが出てこないうちに行きましょう」
「はい……」
イリアさんは、私に何か隠してるような……そんな感じがした。
道を歩いている時、イリヤさんは常に何かを考えているみたいだった。
私が話しかけると、「え? あ、もう一回言って頂戴?」と、私の話が耳に入っていないのか、何度も聞き返してきた。
一体、何を考えているのだろうか……。
そんなこんなで、いつの間にか【英雄の滝】と呼ばれる場所に着いた。
「きれい……」
滝を囲む様に木々が生えており、崖の上から流れ出る滝の水は飛沫をあげていた。
その飛沫が太陽光に反射し、虹を作り出しているみたいだ。
これぞまさに絶景。
あのおばさんの言っていた通りだ。
「ここはね、私の古い戦友が眠っている場所なのよ」
イリヤさんが小さく口を開いてそう言った。
「古い戦友……?」
私は、咄嗟に疑問をなげかけた。
「私はね、昔、魔王討伐の勇者の4人のうちの一人だったのよ」
軽く衝撃を受けた。
イリアさんが……勇者!?
「えっと、では他の3名は……?」
「1人は、あなた達がさっき会った、ザトールの酒場のマスター。名は【ガイル】。彼は鉄壁の要塞と呼ばれるほど屈強な戦士だったわ。今はどうなのか……」
あのマスターが勇者の1人……そんなに強かったんだ。
「次の1人は女魔法使い。名前はマグ。確か彼女は今現在、アクスフィーナ家の館主を務めていたような……」
思い出す感じで話をしているけれど……アクスフィーナ家……?
……こういうのは積極的に訊いてみよう。
「アクスフィーナ家?」
「あぁ、説明してなかったわね。アクスフィーナ家っていうのは、ザトールを統治する一家で、
代々素晴らしい魔法使いが生まれる一家よ」
そう言った。
へぇ……アクスフィーナ家かぁ……。
いつか会えるのかな。
「そして最後の1人。この英雄の滝で眠る、生きる伝説と呼ばれていた男、【ゼル】。彼は、20年前、自分自身の魂と共に魔王を封印した。そして、彼の抜け殻を、この滝の奥にある空間に埋めた」
滝にかかる虹の橋を見ながら、イリアさんは話し続けた。
「ガイルはその時から変わったわねぇ……いつも五月蠅かったのに、あんなクール気取りになっちゃって、酒場まで始めちゃって」
「ガイルさん、そこまで……?」
恐る恐る訊いてみた。
「彼とゼルは、幼馴染だったのよ」
イリアさんは目を瞑って、小さく息を吐いた。
「昔はよく、ガイルからゼルの話を聞かされたわ。何回、何十回も喧嘩したこと、遊んだこと、そして、一緒に魔王に立ち向かおうって、ここで約束したこととか……」
俯きながら胸に手を当てて、目を潤わせながらそう語った。
「へぇ……」
「彼は、ゼルがいなくなった時から……今でも一週間に一回は必ずここに来てる。そして、ゼルとの記憶を思いだして――」
もしかして……ガイルさんは私たちにお礼をしたかったのではないだろうか。
1人だった自分の所へ、私たちが来てくれたことを――
なんて、私の勝手な解釈なんだけども。
「さて、滝も見れたことだし、町に戻りましょ」
イリアさんが私の方を見て微笑んだ。
と、私たちがその場から立ち去ろうとしたその瞬間――
『そうはさせねぇ!』
私たちが出ようとするのを待ち構えていたのか、ゴブリン達が茂みの中から出てきた。
一匹、いや、十匹、いや……ざっと三十匹くらい。
イリアさんは身構えた。
どうしよう……こんなに多いんじゃ、とても太刀打ちできない……。
いくら勇者でも、数の暴力には――
「仕方ない! 今回は手伝ってあげよう!」
さっきまでぐったりしていたウサギさんが、私のポーチから飛び出してきてそう言い放った。
「あなた、その身体で戦えると思ってるの!? 星占い師は本体のみしか――!」
イリアさんがそう言うと、ウサギさんは指をクイっと左右に振った。
「ふんふん、もちろん私だけでは戦えない、だから――」
ウサギさんは深呼吸をしながら、ゆっくりと魔法陣を作り出した。
「聖なる月、太陽から生まれし双子よ! 今ここで私に力を貸し給え! アンヴォカシオン! 【ルナ・アンド・サン】!」
そう、ウサギさんが唱えると、私と同年代くらいの、二人の女の子が空から舞い降りてきた。
どちらもポニーテールで、髪が青い方はウサギの髪飾りを左に、髪が赤い子は、ウサギの髪飾りを右につけていた。
都会にいそうな女子高生の格好をしている。
スカートはチェック柄で短め。
まさに、J・K。
「さぁ、ルナ! サン! いくよ!」
ウサギが二人に向かい声をかける。
『『はーい!』』
と、二人は手を挙げて、元気な返事をした。
「魔物召喚術……!? まさか……あなたサモナー!?」
イリアさんは、声を張り上げてそう言った。
「……話は後よ! 今はこいつらとの戦闘に集中して!」
ウサギさんの雰囲気が今までで全然違う……!
ウサギさんがサモナー……この女の子2人が、魔物……?
と、とりあえず、言われた通り、今は戦闘に集中しないと!
次話もよろしくお願いいたします!