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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第1章 【引きニートと妹の異世界転生】
8/232

3話 『マスターと勇者と召喚士!』

改稿しました! 長すぎる……。

2019年10月29日(火)


※あ、2話のあらすじを消しました。

 酒場……一体、どんな空間なんだろう。

 やっぱ居酒屋をイメージしちゃうな。


 私は未成年だから、そういう場所は行ったことはない。

 あと、連れてってもらったこともない。


 お兄ちゃんは行ったことあるのかな? 


「お兄ちゃんって居酒屋って行ったことある?」

「家でしか飲まないから行ったことない」

「あっそう……」


 もう話すのやめようかな。

 木製のドアを開け、中に入った。


「すみませーん。アルバイト募集中の張り紙が見て入ったんですけども……」


 ゲームで出てくるような酒場だ。

 なんで居酒屋なんて想像してたんだ、私。


 テーブル、椅子、床など、丁寧に清掃が施されている。

 新しく造られたばっかりの空間のようだ。


「……バイト志望か」


 私たちに気づいたらしく、カウンター越しに背の高い男性が低い声で話しかけてきた。


 たぶん、この店のマスターだろう。

 バーテンダーの黒い格好で、とってもダンディな雰囲気だ。

 カールしてる髭が、まさにそんな感じ。


「はい、そうですけども……」

「そこに座れ」


 グラスの中に白い布巾を入れ、左手でカウンター席を指さした。


 面接とか、ないよね……?


 張り紙には、大きくアルバイト募集中の文字しか書いてなかったはず。

 ……心配になってきた。


「とりあえず、これを飲め」


 そう言って差し出したのは、オレンジ色の液体とアルコール臭のする飲み物だった。


「え……でも、私たちまだ来たばっか……」


「イリア……知ってるだろ? 昨日イリアが、『明日、俺の酒場にバイト志望で誰か来る』と言ってたんだ。だからそれは、何というか、その、アレだ」


 マスターは後ろを向いてグラスを拭いていた。


 ……まさかこの人、私たちに「バイトしに来てくれてありがとう」と照れ臭くて言えないが為、その感謝の気持ちを、このグラスから溢れそうなくらいにいっぱいなジュースで表現しようとしてるのでは!?


 ……怖そうに見えて、実は優しい人なのかな。


「で、()()()()バイトをするんだ?」


 マスターがこちらに振り返り、話し始める。

 え? どっちかって……。


「イリアからは、片方しかバイトをしないと聞いているが……」


 何、その予知。

 頭を傾け、頬杖をついていた。

 まぁ、予想はつくけども……。


「あ、俺がしません」


 やっぱりか。

 いつの間にかお酒を飲み干したお兄ちゃんは、我先にとそう言った。


「普通、ここは二人でアルバイトするでしょ?」


 まだ高校生の可愛い妹に働かせるなんて、人間だったら普通しない。


「だって、俺接客業できないし、第一働きたくないし……」


 何言ってんだ。

 接客業できない事は承知の上。

 ただ単に働きたくないって……。


「じゃあ、バイトをするのは、おめぇさんって事でいいんだな?」

「うーん……もーわかりました。私がやります」


 結局私が引き受ける事になった。


「よし決まりだ!」


 マスターは右手の親指と中指で指を弾き、良い音を出した。


 何だか不服だ。

 何故妹の私が働いて兄は働かないのか。

 くぅ……もっと強く言えばよかった。


「そんじゃあ、バイトは17時から23時までだから、また七時間後に来てくれ。内容とかはその時教える。それまで――そうだな……この町を見て回るといい。あと、昼飯も晩飯も食べ忘れるんじゃないぞ。ほら、3000ギフだ。今日はこれで何とか昼夜を済ませろ。【働かざる者食うべからず】と言うが、食わないとよく働けないからな」


 見た目にそぐわない不敵な満面の笑みで、金貨2枚と銀貨2枚を渡された。

 金貨1枚1000、銀貨1枚で500ギフなのかな。

 日本円でいう、1000円札と500円玉みたいなものか。


 それにしても、笑顔になれていない感がすごい。


「あ……はい! ありがとうございます!」


 まぁ、良い人に変わりはない。


 ――その後、言われた通り、私たちは町を見て回ることにした。


「さてと、町を見て回りますか」


 って言ったけど、お兄ちゃんは全然乗り気じゃないみたい。


「俺はいいよ。そこらへんのベンチに座って待ってるから、そのクソウサギと一緒に見て回ってこい」


 お兄ちゃんは、広場の木の下にあるベンチに向かって怠そうに歩いて行った。


「えー、お兄ちゃん町見ないの?」


 と、呼びかけたが、全くこちらを見向きもせず、


「俺は不動が一番なんだ」


 と言い、ベンチに座り背もたれに寄りかかる。

 見知らぬ地で妹を一人にするなんて、本当にお兄ちゃんとしての自覚あるの?

 ……もういいや。


「わかったよ……じゃあ行ってくるから、ここで待っててよ? 若しくはどこか寝る場所でも探して来て。あっ、それと1500ギフあげるから、これでお昼とか済ませて」


 はいはい、と言ってお兄ちゃんはベンチの上で寝っ転がってしまった。

 いっそのこと、ここでくたばってほしい。



 ……さてと、どうしようかな。

 町の人に聞いて、オススメを教えてもらおう。


「あのー、ここら辺でオススメの場所ってないですか?」


 野菜が詰められた籠を持ったおばさんにそう訊いた。


「え? オススメの場所……? そうねぇ……この町から少し南の方にある【英雄の滝】にいってみたらどう? あそこは絶景よ〜。あ、でも、道中で魔物が出るから、気をつけて行ってね」


 そう言い、私に優しく微笑みかけた。


「はい! ありがとうございます!」


 町出ちゃう……うーん、まぁ仕方ない。


 それにしても魔物が出るのかぁ、ちょっと現実味がないけれど……。

 ゴブリンとかスライムとかが出てくるのかな。


 私ヒーラーだし、ウサギさんもなんか弱そうだし……うーん。


「頼り甲斐のない兄に変わり、私が着いて行きましょう」


 そう後ろから声をかけてくれたのは、イリアさんだった。


「え? あれ? イリヤさん。用があるって……」

「用済ませちゃって暇なの。何だか久しぶりに戦ってみたい気分だし」


 笑顔でそう言った。

 心強い。

 イリアさんが仲間になってくれるとは思わなかった。


「それでは、行きましょう!」


 そう言って、拳を握りしめ手を高く上げた。


 冒険かぁ……。

 こんなに胸が高鳴るのは、初めてかもしれない。

 魔物が出てくるのは少し怖いけど、イリアさんがいるからきっと大丈夫! のはず。


 5分くらい南に歩き、大門を抜けて町から出ると、緑いっぱいの大きな平原が広がっていた。

 地平線が見えるくらいだから、本当に何もない綺麗な草原なんだろうな。


 それにしても、魔物の姿が見当たらない。

 本当に魔物っているのかな……。


「今日は珍しいわね……魔物が一匹もいないなんて」


 イリヤさんは、不思議そうな顔をしていた。


「いつもはいるんですか?」

「……えぇ、いつもならこの辺に、ゴブリン達が(たむろ)してるはず……それなのに今日はいない。今までこんなことはなかったのに……うーん……」


 何か考え込んでいるが、何か心当たりがあるのだろうか?


「あの……?」

「え? あ、いや、何でもないわ。さぁ、モンスターが出てこないうちに行きましょう」

「はい……」


 イリアさんは、私に何か隠してるような……そんな感じがした。


 道を歩いている時、イリヤさんは常に何かを考えているみたいだった。

 私が話しかけると、「え? あ、もう一回言って頂戴?」と、私の話が耳に入っていないのか、何度も聞き返してきた。


 一体、何を考えているのだろうか……。


 そんなこんなで、いつの間にか【英雄の滝】と呼ばれる場所に着いた。


「きれい……」


 滝を囲む様に木々が生えており、崖の上から流れ出る滝の水は飛沫をあげていた。

 その飛沫が太陽光に反射し、虹を作り出しているみたいだ。

 これぞまさに絶景。

 あのおばさんの言っていた通りだ。


「ここはね、私の古い戦友が眠っている場所なのよ」


 イリヤさんが小さく口を開いてそう言った。


「古い戦友……?」


 私は、咄嗟に疑問をなげかけた。


「私はね、昔、魔王討伐の勇者の4人のうちの一人だったのよ」


 軽く衝撃を受けた。

 イリアさんが……勇者!? 


「えっと、では他の3名は……?」

「1人は、あなた達がさっき会った、ザトールの酒場のマスター。名は【ガイル】。彼は鉄壁の要塞と呼ばれるほど屈強な戦士だったわ。今はどうなのか……」


 あのマスターが勇者の1人……そんなに強かったんだ。


「次の1人は女魔法使い。名前はマグ。確か彼女は今現在、アクスフィーナ家の館主を務めていたような……」


 思い出す感じで話をしているけれど……アクスフィーナ家……?

 ……こういうのは積極的に訊いてみよう。


「アクスフィーナ家?」

「あぁ、説明してなかったわね。アクスフィーナ家っていうのは、ザトールを統治する一家で、

代々素晴らしい魔法使いが生まれる一家よ」


 そう言った。

 へぇ……アクスフィーナ家かぁ……。

 いつか会えるのかな。


「そして最後の1人。この英雄の滝で眠る、生きる伝説と呼ばれていた男、【ゼル】。彼は、20年前、自分自身の魂と共に魔王を封印した。そして、彼の抜け殻を、この滝の奥にある空間に埋めた」


 滝にかかる虹の橋を見ながら、イリアさんは話し続けた。


「ガイルはその時から変わったわねぇ……いつも五月蠅かったのに、あんなクール気取りになっちゃって、酒場まで始めちゃって」

「ガイルさん、そこまで……?」


 恐る恐る訊いてみた。


「彼とゼルは、幼馴染だったのよ」


 イリアさんは目を瞑って、小さく息を吐いた。


「昔はよく、ガイルからゼルの話を聞かされたわ。何回、何十回も喧嘩したこと、遊んだこと、そして、一緒に魔王に立ち向かおうって、ここで約束したこととか……」


 下を向き、左手を胸に当て、目を一体、どんな空間なんだろう。

 やっぱ居酒屋をイメージしちゃうな。


 私は未成年だから、そういう場所は行ったことはない。

 あと、連れてってもらったこともない。


 お兄ちゃんは行ったことあるのかな? 


「お兄ちゃんって居酒屋って行ったことある?」

「家でしか飲まないから行ったことない」

「あっそう……」


 もう話すのやめようかな。

 木製のドアを開け、中に入った。


「すみませーん。アルバイト募集中の張り紙が見て入ったんですけども……」


 ゲームで出てくるような酒場だ。

 なんで居酒屋なんて想像してたんだ、私。


 テーブル、椅子、床など、丁寧に清掃が施されている。

 新しく造られたばっかりの空間のようだ。


「……バイト志望か」


 私たちに気づいたらしく、カウンター越しに背の高い男性が低い声で話しかけてきた。


 たぶん、この店のマスターだろう。

 バーテンダーの黒い格好で、とってもダンディな雰囲気だ。

 カールしてる髭が、まさにそんな感じ。


「はい、そうですけども……」

「そこに座れ」


 グラスの中に白い布巾を入れ、左手でカウンター席を指さした。


 面接とか、ないよね……?


 張り紙には、大きくアルバイト募集中の文字しか書いてなかったはず。

 ……心配になってきた。


「とりあえず、これを飲め」


 そう言って差し出したのは、オレンジ色の液体とアルコール臭のする飲み物だった。


「え……でも、私たちまだ来たばっか……」


「イリア……知ってるだろ? 昨日イリアが、『明日、俺の酒場にバイト志望で誰か来る』と言ってたんだ。だからそれは、何というか、その、アレだ」


 マスターは後ろを向いてグラスを拭いていた。


 ……まさかこの人、私たちに「バイトしに来てくれてありがとう」と照れ臭くて言えないが為、その感謝の気持ちを、このグラスから溢れそうなくらいにいっぱいなジュースで表現しようとしてるのでは!?


 ……怖そうに見えて、実は優しい人なのかな。


「で、()()()()バイトをするんだ?」


 マスターがこちらに振り返り、話し始める。

 え? どっちかって……。


「イリアからは、片方しかバイトをしないと聞いているが……」


 何、その予知。

 頭を傾け、頬杖をついていた。

 まぁ、予想はつくけども……。


「あ、俺がしません」


 やっぱりか。

 いつの間にかお酒を飲み干したお兄ちゃんは、我先にとそう言った。


「普通、ここは二人でアルバイトするでしょ?」


 まだ高校生の可愛い妹に働かせるなんて、人間だったら普通しない。


「だって、俺接客業できないし、第一働きたくないし……」


 何言ってんだ。

 接客業できない事は承知の上。

 ただ単に働きたくないって……。


「じゃあ、バイトをするのは、おめぇさんって事でいいんだな?」

「うーん……もーわかりました。私がやります」


 結局私が引き受ける事になった。


「よし決まりだ!」


 マスターは右手の親指と中指で指を弾き、良い音を出した。


 何だか不服だ。

 何故妹の私が働いて兄は働かないのか。

 くぅ……もっと強く言えばよかった。


「そんじゃあ、バイトは17時から23時までだから、また七時間後に来てくれ。内容とかはその時教える。それまで――そうだな……この町を見て回るといい。あと、昼飯も晩飯も食べ忘れるんじゃないぞ。ほら、3000ギフだ。今日はこれで何とか昼夜を済ませろ。【働かざる者食うべからず】と言うが、食わないとよく働けないからな」


 見た目にそぐわない不敵な満面の笑みで、金貨を三枚渡された。

 金貨1枚1000ギフなのか。


 それにしても、笑顔になれていない感がすごい。


「あ……はい! ありがとうございます!」


 まぁ、良い人に変わりはない。


 ――その後、言われた通り、私たちは町を見て回ることにした。


「さてと、町を見て回りますか」


 って言ったけど、お兄ちゃんは全然乗り気じゃないみたい。


「俺はいいよ。そこらへんのベンチに座って待ってるから、そのクソウサギと一緒に見て回ってこい」


 お兄ちゃんは、広場の木の下にあるベンチに向かって怠そうに歩いて行った。


「えー、お兄ちゃん町見ないの?」


 と、呼びかけたが、全くこちらを見向きもせず、


「俺は不動が一番なんだ」


 と言い、ベンチに座り背もたれに寄りかかる。

 見知らぬ地で妹を一人にするなんて、本当にお兄ちゃんとしての自覚あるの?

 ……もういいや。


「わかったよ……じゃあ行ってくるから、ここで待っててよ? 若しくはどこか寝る場所でも探して来て。あっ、それと1500ギフあげるから、これでお昼とか済ませて」


 はいはい、と言ってお兄ちゃんはベンチの上で寝っ転がってしまった。

 いっそのこと、ここでくたばってほしい。



 ……さてと、どうしようかな。

 町の人に聞いて、オススメを教えてもらおう。


「あのー、ここら辺でオススメの場所ってないですか?」


 野菜が詰められた籠を持ったおばさんにそう訊いた。


「え? オススメの場所……? そうねぇ……この町から少し南の方にある【英雄の滝】にいってみたらどう? あそこは絶景よ〜。あ、でも、道中で魔物が出るから、気をつけて行ってね」


 そう言い、私に優しく微笑みかけた。


「はい! ありがとうございます!」


 町出ちゃう……うーん、まぁ仕方ない。


 それにしても魔物が出るのかぁ、ちょっと現実味がないけれど……。

 ゴブリンとかスライムとかが出てくるのかな。


 私ヒーラーだし、ウサギさんもなんか弱そうだし……うーん。


「頼り甲斐のない兄に変わり、私が着いて行きましょう」


 そう後ろから声をかけてくれたのは、イリアさんだった。


「え? あれ? イリヤさん。用があるって……」

「用済ませちゃって暇なの。何だか久しぶりに戦ってみたい気分だし」


 笑顔でそう言った。

 心強い。

 イリアさんが仲間になってくれるとは思わなかった。


「それでは、行きましょう!」


 そう言って、拳を握りしめ手を高く上げた。


 冒険かぁ……。

 こんなに胸が高鳴るのは、初めてかもしれない。

 魔物が出てくるのは少し怖いけど、イリアさんがいるからきっと大丈夫! のはず。


 5分くらい南に歩き、大門を抜けて町から出ると、緑いっぱいの大きな平原が広がっていた。

 地平線が見えるくらいだから、本当に何もない綺麗な草原なんだろうな。


 それにしても、魔物の姿が見当たらない。

 本当に魔物っているのかな……。


「今日は珍しいわね……魔物が一匹もいないなんて」


 イリヤさんは、不思議そうな顔をしていた。


「いつもはいるんですか?」

「……えぇ、いつもならこの辺に、ゴブリン達が(たむろ)してるはず……それなのに今日はいない。今までこんなことはなかったのに……うーん……」


 何か考え込んでいるが、何か心当たりがあるのだろうか?


「あの……?」

「え? あ、いや、何でもないわ。さぁ、モンスターが出てこないうちに行きましょう」

「はい……」


 イリアさんは、私に何か隠してるような……そんな感じがした。


 道を歩いている時、イリヤさんは常に何かを考えているみたいだった。

 私が話しかけると、「え? あ、もう一回言って頂戴?」と、私の話が耳に入っていないのか、何度も聞き返してきた。


 一体、何を考えているのだろうか……。


 そんなこんなで、いつの間にか【英雄の滝】と呼ばれる場所に着いた。


「きれい……」


 滝を囲む様に木々が生えており、崖の上から流れ出る滝の水は飛沫をあげていた。

 その飛沫が太陽光に反射し、虹を作り出しているみたいだ。

 これぞまさに絶景。

 あのおばさんの言っていた通りだ。


「ここはね、私の古い戦友が眠っている場所なのよ」


 イリヤさんが小さく口を開いてそう言った。


「古い戦友……?」


 私は、咄嗟に疑問をなげかけた。


「私はね、昔、魔王討伐の勇者の4人のうちの一人だったのよ」


 軽く衝撃を受けた。

 イリアさんが……勇者!? 


「えっと、では他の3名は……?」

「1人は、あなた達がさっき会った、ザトールの酒場のマスター。名は【ガイル】。彼は鉄壁の要塞と呼ばれるほど屈強な戦士だったわ。今はどうなのか……」


 あのマスターが勇者の1人……そんなに強かったんだ。


「次の1人は女魔法使い。名前はマグ。確か彼女は今現在、アクスフィーナ家の館主を務めていたような……」


 思い出す感じで話をしているけれど……アクスフィーナ家……?

 ……こういうのは積極的に訊いてみよう。


「アクスフィーナ家?」

「あぁ、説明してなかったわね。アクスフィーナ家っていうのは、ザトールを統治する一家で、

代々素晴らしい魔法使いが生まれる一家よ」


 そう言った。

 へぇ……アクスフィーナ家かぁ……。

 いつか会えるのかな。


「そして最後の1人。この英雄の滝で眠る、生きる伝説と呼ばれていた男、【ゼル】。彼は、20年前、自分自身の魂と共に魔王を封印した。そして、彼の抜け殻を、この滝の奥にある空間に埋めた」


 滝にかかる虹の橋を見ながら、イリアさんは話し続けた。


「ガイルはその時から変わったわねぇ……いつも五月蠅かったのに、あんなクール気取りになっちゃって、酒場まで始めちゃって」

「ガイルさん、そこまで……?」


 恐る恐る訊いてみた。


「彼とゼルは、幼馴染だったのよ」


 イリアさんは目を瞑って、小さく息を吐いた。


「昔はよく、ガイルからゼルの話を聞かされたわ。何回、何十回も喧嘩したこと、遊んだこと、そして、一緒に魔王に立ち向かおうって、ここで約束したこととか……」


 俯きながら胸に手を当てて、目を潤わせながらそう語った。


「へぇ……」

「彼は、ゼルがいなくなった時から……今でも一週間に一回は必ずここに来てる。そして、ゼルとの記憶を思いだして――」


 もしかして……ガイルさんは私たちにお礼をしたかったのではないだろうか。

 1人だった自分の所へ、私たちが来てくれたことを――

 なんて、私の勝手な解釈なんだけども。


「さて、滝も見れたことだし、町に戻りましょ」


 イリアさんが私の方を見て微笑んだ。


 と、私たちがその場から立ち去ろうとしたその瞬間――


『そうはさせねぇ!』


 私たちが出ようとするのを待ち構えていたのか、ゴブリン達が茂みの中から出てきた。

 一匹、いや、十匹、いや……ざっと三十匹くらい。


 イリアさんは身構えた。

 どうしよう……こんなに多いんじゃ、とても太刀打ちできない……。

 いくら勇者でも、数の暴力には――


「仕方ない! 今回は手伝ってあげよう!」


 さっきまでぐったりしていたウサギさんが、私のポーチから飛び出してきてそう言い放った。


「あなた、その身体で戦えると思ってるの!? 星占い師は本体のみしか――!」


 イリアさんがそう言うと、ウサギさんは指をクイっと左右に振った。


「ふんふん、もちろん私だけでは戦えない、だから――」


 ウサギさんは深呼吸をしながら、ゆっくりと魔法陣を作り出した。


「聖なる月、太陽から生まれし双子(そうし)よ! 今ここで私に力を貸し給え! アンヴォカシオン! 【ルナ・アンド・サン】!」


 そう、ウサギさんが唱えると、私と同年代くらいの、二人の女の子が空から舞い降りてきた。


 どちらもポニーテールで、髪が青い方はウサギの髪飾りを左に、髪が赤い子は、ウサギの髪飾りを右につけていた。

 都会にいそうな女子高生の格好をしている。

 スカートはチェック柄で短め。

 まさに、J・K。


「さぁ、ルナ! サン! いくよ!」


 ウサギが二人に向かい声をかける。


『『はーい!』』


 と、二人は手を挙げて、元気な返事をした。


魔物召喚術(ルビネス)……!? まさか……あなたサモナー!?」


 イリアさんは、声を張り上げてそう言った。


「……話は後よ! 今はこいつらとの戦闘に集中して!」


 ウサギさんの雰囲気が今までで全然違う……!

 ウサギさんがサモナー……この女の子2人が、魔物……?


 と、とりあえず、言われた通り、今は戦闘に集中しないと!

次話もよろしくお願いいたします!

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