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69話 『村長とのお話』

 冷たい石の階段を登りきると、通路が二手に分かれていた。見た限りでは、片方の通路に部屋が二つ、そして物置らしき空間が一つ。そうか、ここが家の外見を見たときに違和感があったでっぱりの部分か。もう片方の通路には、部屋が二つ、そして、例のごとく主張するトイレがある。片方の通路にある部屋の前に立ち、鉄製のドアノブを右に捻って扉を開けると、五畳くらいの部屋があった。おそらく他の部屋も同じ構造だろう。毛布が二枚重ねて敷かれたベッドに、木製のテーブルに椅子。もちろん天井にはこの村のあちこちにある、光源が付いている。これで夜でも怖くないってわけね。

 本当に必要最低限だ。ここに一週間も過ごすと、ストレスが溜まってしまいそうなくらい。でも、贅沢は絶対に言えないから我慢するしかない。


「丁度部屋が四つあってよかったね!」

「うん。お兄ちゃんはぐちぐち文句を言うかもしれないけどね」


 私は玄関の前に立っているお兄ちゃんを呼びに行き、部屋を決めた。

 階段を上がって右の通路の、奥からお兄ちゃん、次に私、左の通路には、奥からメルちゃん、次にカグラさんの順に部屋を決めた。

 お気づきいただけただろうか。この部屋割り、特に意味がないことに。


「さて、ご飯はどうしよう」


 私は自分の部屋の中で誰かに話すように言った。当然、一人の部屋の中での返答なんてあるはずはない。独り言が冷たく薄暗い部屋の中で静かに響くのが、ここまで切ないことはない。

 村長さんに食料について聞いてみることにしよう。あと、カグラさんについても気になっていたことがいくつかある。

 ――時刻は十七時、丁度いい時間帯だ。

 私は一人、扉を開け、部屋から出て階段を下りた。玄関に直行し、家を出た。

 村長や、村の人六人がいる家に向かった。音があるとすれば、村の灯りが、ジー、と機械音のような音が流れているだけ。

 奥にある家についた。扉を三回ノックすると、村長が出てきた。


「あ、突然すみません。少しお聞きしたいことがありまして」

「ええ、いいですよ。ワシで良ければ何でも聞いてくださいな」


 快く受け入れてくれた村長は、立ち話は大変だろうと言い、リビングにあげてくれた。それに、コップにお水まで入れてくれた。何か申し訳ない気持ちが込み上げてくる。


「それで、何を聞きたいのですかな」


 村長が私の目の前に座った。


「初めからすごく図々しい質問かもしれないのですが、食料はどう調達すればいいですか?」

「それなら、上の村に沢山ありますぞ。そこで採って食べるがよろしい」

「なるほど、ありがとうございます。それでですね、もう一つ質問なんですけど……」

「何かな?」

「カグラさんって、『何者』何ですか?」


 村長は私の質問を聞いた途端、一瞬微動し、コップを強く握りしめた。


「むぅ……」


 村長はずっとそう言い続けるだけで答えてくれない。


「あの……?」

「あの子は捨て子じゃ」


 カグラさんが捨て子だった……?


「ワシがもう少し若かったころだ。十数年前くらいかの、あの子は無残な事に、魔牢屋に閉じ込められて捨てられていた」

「え、牢屋に?」


 村長は頷くと、話を続けた。


「魔牢屋は特殊な牢屋でな。闇魔法を使わねば出られない仕組みになっているのじゃ。ここの村には魔法を使える者がおらんくて困っていたのだが、ある占い師が偶々通りかかってな。あの子を助けてくれた。その者の行方はいず知れずじゃがな……ただ一つ覚えている言葉と言ったら、お礼を言った直後、『ストーリーが崩れちゃうといけないので、あはは』じゃったかのう……今でもあの意味がよく分からんわい」


 その一言で分かった。それセナさんだ。

 とにもかくにも、メタい。


「それでな、その魔牢屋を作れる者をワシは一人しか知らなくての」

「それは誰なんです?」


 村長は立って、上を指で指し示した。天井? いや、山かな。


「パミルじゃ。この大陸に置いてあの魔回路魔術を操れる者は奴しかいない。カグラを途中まで育てていた理由は分からないがな……。カグラをワシが育てていった。それに、あの子は剣技が優れていてな。ここの剣技道場の師範代に二日鍛錬を積んだだけで勝ったほどだった。それに特殊なスキルも習得していて、村に魔物が来たとき、魔物を一掃したり、驚異的な身体能力で自然の食料を取ってきたりな、とにかくできる子じゃった。今もそうだが。恐らくそれもパミルによる神の恩恵と言ったところだろうがな……それからカグラは、村の中で神の子と奉られるようになり、ワシが今の口調を教えた。昔はわっちだとか、語尾にのだをつけるだとかあったんだが、今はもうなくなったわ」


 高齢者特有の話の長さ……物語の会話文で文字数を稼ぐなんて馬鹿なことを!

 いやまあそれはそれとして、カグラさんがパミルに育てられていたと。ダモンのことを知っていたのはそのせいか。


「それでな、あの子が十三か十四の頃、山の麓で二人の捨て子の赤ん坊を見つけて、二人とも連れて帰ってきた。それがルリとミナじゃ。何で連れて帰って来たかは分からないが、過去に関係していることは確かじゃろうな」


 だからあんなに嬉しそうに。

 でもミナって子はもう……


「ワシからはこのくらいじゃな。聞きたいことはそれで終わりかの」

「はい、ありがとうございました」


 私はポーチからデンジャラスエッグを取り出して、お礼として渡した。三か月前くらいにこのポーチに入れたこのエッグ、まるであの時と変わらない。日持ちがいいのか、ポーチに入れると時間が止まって何の変化もなくなるのか。

 それから、私は村長の家から出ていき、地下の村の出口である鉄の扉に向かった。

次話もよろしくお願いします!

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