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66話 『良い二重人格者』

 扉の先には一つの村があった。所々に燭台があり、そこには火が灯してある。そこらじゅうに石造りの家がある。なんとなく見たことのある光景……おそらく上層の村の家々と同じ配置だろう。自分達の家を分かり易くするためだろうね。それはともかく、ここも相当静かで、人がいるなんて嘘のようだ。


「村長、いますかー」


 カグラさんが右手の親指がある側面を口の横に充てて、声がよく響くようにして言った。

 数秒間の沈黙の後、奥にあった周りの家に比べて少し大きい家から、誰かが出てきた。薄暗いからか、姿は見えても顔は見えない。


「お、おぉ……カグラか、カグラなのか!」


 ヨレヨレの声が奥から聞こえる。きっとあの人が村長なのだろう。


「そうです、村長! 無事でよかった……村の皆は?」

「……皆この家におるぞ! それより、こうやって遠くで話すのはちょっと辛いからこっちに来てくれんかのー。それに、連れもおるみたいじゃからの、顔が見てみたいわい」

「はーい、分かりましたー! じゃ、行きましょうか、皆さん」


 やはり村に来るとカグラさんの口調が様変わりする。町では、わっちわっち、のだのだって言ってたのに。まるで記憶を喪失して自分の人格が分からなくなってしまった人みたいだ。

 私たちは目を天にしながら、言われるがままにカグラさんに付いて行った。ここに居続けると迷路にいた時よりも酸素不足になってしまうんじゃないかと思ってしまう。

 とりあえず、燭台が多い。松明でもおいときゃいいのに何故に蝋燭代という経費が掛かる形を取っているのかが謎だ。

 と、あっという間に村長らしい人の家に着いた。考え事をしていると時間が短く感じるというのは本当だ。集中して勉強している時もそうだし。時間の感覚というのは全く不思議なものだ。


「おぉ、これはこれは。魔法使いに僧侶に……(やべ、分かんないわこの人)」

「あの、何か言いましたか?」


 お兄ちゃんが反応した。村長には、旅芸人か遊び人とでも思っておいていただきたい。


「皆さま、ようこそお出でくださいました。今は村の災いがあるため、盛大なもてなしはできませぬが、ご了承くだされ……」

「大丈夫です。あ、私なつめって言います。で、この魔法使いさんはメルで、コレは私の兄のカナタです」


 私はあえてお兄ちゃんをコレ扱いし、本人に指をさして教えた。

 本当におもてなしなんて必要ないという意味だ。


「カグラがこんな友……あ、いやこんな素晴らしい友人と出会うことができてよかったです。では、皆さまどうぞお入りください。特に何があるというわけではありませんが、旅の疲れくらいは取ることはできるでしょう」

「さすが村長! 話が分かる人です」

「カグラが言いそうなことを言ったまでじゃよ」


 実際に似たようなことを言っていた。

 まさか超能力者か!?(※この世界ではそういうことが普通にあり得ます。)


 中の構造もほとんど変わらないみたい。変わっていると言えば、家具があまり無いのと、足跡が埃に紛れて、足のサイズから少なくとも五人以上はいる。外装と同じく、壁には装飾は施されていない。それに塗装もしていないから、つまらな色が続くばかりだ。本当にこの下層の村は、緊急避難用の為だけに造った村なのだろう。色の無い村とはこのことだ。


「では、そこの椅子に腰をかけてくだされ。今水を用意します」

「私がやります。村長は、村民を連れてきてください」

「すまない……せっかく帰ってきたというのに……」

「いいんです。それより、私は皆の安否が気になって仕方がない」

「すぐ連れて来よう」


 私たちは椅子に座った。これも石で造られている。だが、椅子の上には白いモコモコした綿が置いてあり、座り心地は結構良い。

 村長は部屋を出て、玄関で見た、足跡が続く先に歩いて行った。カグラさんは透明なコップを四つと、水が入った透明なポットを持ってきた。カグラさんはコップにそれぞれ均等に水を注いだ。


「はい」


 水を注いだコップを、自分のぶんを取っ手から皆に渡した。


「カグラさん。ちょっと気になるんだけど、性格変わった?」

「何を言っているのだ? わっちは何も変わってないぞ」

「えー、嘘だー。お兄ちゃんも私と同じ意見だよね?」

「……あ、ごめん聞いてなかった」

「……メルちゃんは?」

「たまに変わるけど、どっちもカグラさんなんだからいいんじゃないかなー」


 独自性しかないメンバーだ。

 となると、カグラさんは二重人格者ということになる。ここまで極端に変わる人なんて、表裏の激しい嫉妬女くらいしか知らない。

 村長にカグラさんのことを詳しく聞いてみよう。どうせ今日はここで泊まるしかないのだから。


次話もよろしくお願いいたします!

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