2話 『無才と天才!』
☆1話のあらすじ☆
まんまとウサギに連れられて、兄と妹と共に来てしまった新たなる世界。
様々な事を一気に説明され、挙句の果てには勝手に主人公にされ、魔王を倒せと言われる。
まず、彼女らは、【最初の町 ザトール】の占い師の館に自分たちのタレント能力について聞きに行くことになる。
果たして、彼らの持っている才能とは・・・?
改稿しました! 長いなぁ。
2019年10月27日(日)
ザトールという町。
町人に話しかけると、様々な事を教えてくれる。
経験値についてとか、ステータスの上昇についてとか、あとは武器防具の壊れ易さとか……。
ザ・最初の町。
「えっと、占い師の館……ってここか」
綺麗なようで、どこか不気味な館がそこにあった。
玄関付近には、同じ種類の観葉植物が左右対称に並べられていた。
壁は紫の塗料で塗られ、壁にはピカピカの窓がいくつか取り付けられている。
この町にはあまり馴染まない、木造の館だ。
「なつめ……お願いがあるんだけど……」
隣にいる兄が、声を小さくして私に話しかける。
「なに?」
兄の方を見ると、腕でバッテンを作っていた。
「コミュ障で館の人とあんまり話せないし、第一、話したくないから。お前が先に入って話をしてくれないか?」
手を合わせてお願いの仕草をした。
呆れを通り越して失望……。
どうせ、そんなことを言うだろうと思った。
まぁ、いつもの事だし仕方ないか……。
「……わかったよ」
ため息を吐いて頷いた。
――タラランポラーン。
玄関を開けると、綺麗な音がした。
音が鳴る木琴の様なものが扉に取り付けられていたみたいだ。
扉が開いたり閉まったりすると、その衝撃で鳴る仕組みらしい。
うちにもある。
中は割と広く、外装通り異様な雰囲気を醸し出していた。
部屋の奥には木で作られた机があり、その机の上には本がたくさん。
その奥には、本が敷き詰められた本棚があった。
部屋の中央付近には、高級そうなソファーが対称に並べられ、その間にはガラス張りの机が置いてあった。
いくらしたんだろう?
部屋の右側には階段、左側には違う部屋に続くドアがある。
それに、コーヒーメーカーが上に置いてある木製の物入れや、ガラス張りの物入れがあった。
部屋の様子から言うと、まるで学校の校長室みたいだ。
だが、トロフィーや賞状といった物は置いてない。
光が差し込む場所がほとんど無く、照明は、天井についている紫色のライトだけ。
もちろん、部屋の中は暗い。
こんな空間にいて、暗い気持ちにならないのかな。
「あら? 誰かしら? こんな時期に珍しいお客様ね」
「あ、どうもおはようございます」
……二十代くらいだろうか。
紫色の綺麗なローブを着た、髪の綺麗なお姉さんが左側のドアから出てきて、こちらに近づき話をかけてきた。
うわ、胸でっか。
羨ましいなぁ。
「随分若そうな子がきたわね。で、その後ろに隠れている人は?」
そりゃ……私の後ろに隠れたってバレないわけない。
私よりも身長が高いし、それに体だって大きい。
やっぱりお兄ちゃんバカだ。
「あ、私の兄です」
「ふむふむ。どうもおはようございますね」
「あ、お、おはようございます……」
兄は少し笑顔で返事をしたけど……こんな何気ない会話でさえも噛んでしまうなんて……。
なんて情けないんだ……。
「えー、それで君たちは何故ここに?」
その女性は部屋の奥にある机に向かい、そのまま椅子に腰掛ける。
床が軋む音が少しした。
「その、私たち、自分のタレント能力が分からなくて……」
恐る恐るタレント能力の事を聞く。
「それで教えてもらいにここに来たと?」
「そうです。えーっと……」
そう言えば名前が分からなかった。
「イリアよ」
「イリアさん! では、教えていただけませんか?」
イリアさんは私の聞きたい事を分かってくれたらしく、自分の名前を教えてくれた。
私たちの名前、教えなくても良かったのかな……。
「いいわよ~。2人とも、1回こっちにきて」
イリアさんが手招きをしたので、私たちは足早に机に向かった。
「じゃあ始めるよ……。≪これより、この者たちの手筋を計る。さあ、星の精よ! 我に教え給え! この者達の才能を!≫」
イリアさんはそう唱え、何者かに話を聞いているかのように目を閉じ、そして頷いた。
「えーっと、なつめさん。まず貴女から教えるわ。あなたのタレントは【極☆ヒーラー】よ」
ネーミングセンスはひどい。だけど、何か良い能力っぽい感じがする。
……って、あれ? 今なつめって……。
ともかく、
「極ヒーラー……? それは一体どんな能力なんですか?」
すこし、期待を膨らませて聞いてみた。
「まぁ、簡単に言えば、回復のプロになれる才能があるって事かしら。かなり需要あるよ」
笑顔でそう答えた。
需要あるって……良い響き!
「なるほど……!」
私にこんな才能があったなんて……ちょっと嬉しい。
小さい頃から、看護師を夢見ていて良かったと思う。
うん。嘘だけど。
本当は薬剤師。
そして、兄の方を向き、真剣な眼差しで話をする。
「で、そこのあなた……えー……カナタくんね。君のタレントは【皆無EX】よ」
皆無EX!? 何かお兄ちゃんのめちゃくちゃ強そうなタレント能力じゃない!?
特にEXの部分が!
「そ、その、皆無EXってどんな能力なんですか?」
兄は期待をふくらませていることだろう。
一目見れば一目瞭然だ。体がウズウズして震えている。
「素晴らしい能力よ!」
イリアさんがにこやかにそう言った。
え!? そんなすごい能力なの!?
嘘、俺つえー系ラノベの主人公みたいな設定やめてよ!?
お兄ちゃん、頭おかしくなるから!
「それに珍しい! というか、世界に二人もいるか分からない……!」
そこまで言い切るとは……そんなにすごい能力なのかな……?
「才能が一切ない者にのみ与えられる才能……要は、特に何も無い」
「え」
兄は絶句した。
目を丸くして、ただ呆然とし立ち尽くしている。
よかった……そんな凄くなくて。
これで、調子づくことはないだろう。
しかし、引っ張っといて何もないって……笑っちゃうなぁ。
長所がないのが短所みたい。ふふ。
お兄ちゃんは、やっぱちょっと怒っていた。
「才能がないことが才能ってなんだよ……長所がないのが短所ですみたいなさ」
なんか思考被ったのムカつくな。
「この世界でも……俺は差別されるのか」
「元々差別何てされてないでしょ。自分から引きこもったくせに」
私は的確にツッコミを加える。
といっても、さっきから不思議に思っていた。
なんで私たちの名前が分かったんだろう……?
唱える時に、星の精とか何とかって言っていたような……もしや、それと関係が?
「あの、質問なんですけど、私たちの名前、教えてないのに何で分かったんですか?」
早速疑問を投げかけてみる。
「そうねぇ、言葉で言うのは難しいんだけど……まぁ教えてあげる」
そして、イリアさんは自分のブックを取り出し、自分のステータスを見せてくれた。
するとそこには、HPの下にMPではなく、SPという略語が表示されていた。
――占い師とは?――
「私たち占い師は【星の力】を操り、様々な事柄を占ったり、人の能力を見たりとか、そういうのができるわ。その力を活かして戦闘もできる」
星の力って、結構そのまんまなんだ。
「あとね、私たち占い師は各々、【星の力で動かせるモノ】を最初に一つ決めさせられる。まぁ一番人気なのはぬいぐるみだけどね。もちろん、私はぬいぐるみ。そこの物入れの中に置いてあるやつ」
―――ご教授終了―――
ほんとだ。
可愛いワニのぬいぐるみが置いてある。
……ということはもしや、ウサギのぬいぐるみも占い師のものということ……?
そういや、名前を聞いていないな。
「それで気になってたんだけど、さっきからそのポーチから微かに星の力を感じるのだけれど……」
イリアさんは、私のポーチを指差し、疑問の表情を浮かべる。
「あぁ、これですか?」
と、ウサギのぬいぐるみを咄嗟に取り出す。
しかし、ウサギのぬいぐるは、なぜかぐったりとしていて、全く動き出さなかった。
「このウサギのぬいぐるみ……【サン町】に来たばかりの、新人占い師のものだったような……」
ウサギのぬいぐるみをまじまじと見て言った。
予想は的中!
まさか、本当にこのぬいぐるみの持ち主が占い師だったとは。
あれ、でもそれじゃあ、なんで私の家に……。
「そのサン町って、どこにあるんですか?」
早く、このウサギのぬいぐるみの主に会ってみたい……。
「この大陸の西部。まぁ、この町からずーっと西に行けばたどり着けると思うわ」
イリアさんは優しく教えてくれた。
「ありがとうございます。では早速行ってみます!」
私はお礼を言い、180度方向転換して、その場から立ち去ろうとした。
しかし、立ち去ろうとする私をイリアさんは慌てて引き止めた。
「あ、でも待って! 道中はそこそこ強い魔物がいるから、ある程度装備とかレベルとか……あと『スキル』を屈指していかなきゃいけない。あなた達の今の装備とレベルじゃあ……とても突破できそうにないわ。大前提に、それパジャマだし……だからねぇ……まず、この町でお金を稼いで良い装備を買って討伐依頼でレベル上げて、どうにか突破できるようにした方がいいわ」
イリアさんは、早口で言った。
始まりの町とは名前だけではないんだな……。
「うぅ、やっぱりそうなるのかぁ」
大体予想はしていた。
「あ、それでね。今さっき言ったスキルのことなんだけど……少し説明良いかな?」
「もちろん、オーケーですよ」
右手の親指を立て、OKサインを出す。
―――スキルについて―――
「スキルについてお教えいたしまーす」
何故か、ポーチからウサギが出てきて唐突に話し始めた。
「スキルとは、レベルアップ時に得られる、タレント能力に徹した技のことです。例えばなつめさんは、極ヒーラーというタレント能力を持ってる。今はキュアーというHPを回復する技を覚えているけど、次レベルが3になると、味方の状態異常などを回復してくれるスキル、≪リフレッシュ≫というものを覚える」
(ちなみにスキルなどは、SP(Star Power)とは全くの別物の【MP(Magic Power)】を消費する)
「こんな感じです。お分かり?」
「ちょっと待ってくれ。タレントの能力に徹してるんじゃ、俺はどうなるんだ?」
またお兄ちゃんが話に入ってくる。
「…………さぁ、どうなるのかなぁ。何もないんじゃない? ドンマイドンマイ」
やはり、お兄ちゃんの事だけを適当に受け流している。
お兄ちゃんは、また地団駄を踏んでいた。
「はーい以上で説明終わりまーす」
「ちょ、待ってくれよ!」
―――説明終了―――
そのままお兄ちゃんを無視して、ぬいぐるみはポーチに戻った。
……自然な流れで戻って行ったけど、何で変に思われてないんだろう……。
それはそうと、さすがの私でも、お兄ちゃんの事、ほんの少し可哀想だと思った。
あ、でもほんの少しだけ。
……正直言うと少しスッキリした。
まさにリフレッシュされた気分。
……これがスキル!?(ちがう)
「そうねぇ、カナタくんはどうなるかしらね。このタレントは私でさえ見たことがないから、恐らく他の占い師も知らないと思う。魔物と戦ってレベルが上がって、何か変化があったら私に教えてくれるかしら?」
イリアさんは人差し指を立ててそう言った。
「分かりました。まあ、レベルを上げる機会があるか分かりませんが」
おそらく、この世界でもニートをつづけるつもりなのだろう。
せっかく更生させるため異世界に来たのに、これでは意味がない。
今すぐぶっ飛ばしたい。
「え? どういう事?」
イリアさんは驚き、目を丸くする。
「あ〜……兄の事はあんまり気にしないでください。いつもこんな感じなんです」
私はため息をつき、どういう事かを説明した。
要は『兄がニートで引きこもりだった件について』。
「そっか……クズだったんだ……」
花丸あげたい。
「まぁ、私はあくまでただの占い師。あなた達に深くは関わろうとしない。けど、カナタくん。あなたの言った、その言葉をよく心に刻んでおいて頂戴ね」
イリアさんは真剣な眼差しで、お兄ちゃんの顔を見ながらそう言った。
「え? は……い……?」
お兄ちゃんは、ちょっとキョドっていた。
一体、イリアさんは何のことを言っていたのかな。
……もしや、あのウサギが言っていた、システムに何か関係が――
「じゃ、私はちょっと用があるから、これでおしまい。では、またね」
最後まで、私に対して笑顔でいてくれた。
一方、お兄ちゃんには軽蔑の眼差しを送っていた。
「あ、はい! ありがとうございます!」
お礼を言い、イリアさんに続いて館から出た。
そして、手を振って別れを告げた。
お兄ちゃんと一緒に館から出ると、ガチャっと、ドアの鍵が閉まる音がした。
イリアさんの星の力で、自動で閉まる仕組みにしたんだろう。
すごい技術力だ。
とりあえず、私たちのタレント能力が分かったこと……何にせよ、良かった。
後は働いて食べ物とか、装備とかも充実させていかなきゃなぁ。
まぁ、私は装備あるんだけども。
けど、お兄ちゃんパジャマだし(私もだけど)、武器無いから何もできないし……。
まずは働く場所を探さなきゃ。
何処が一番稼ぎやすいかな? いや働きやすいかな?
アルバイトとか一回もしたことないし、こういうの不慣れなんだよなぁ。
……おっ、あれは……。
占い師の館を出て、少し歩いた所に酒場があった。
看板がジョッキに入ったビールのマーク。
明らかに、酒場だってわかった。
『アルバイト募集中! 誰でもいいから求む!』
その壁には、その張り紙が一枚あった。
茶色いレンガで壁が作られているみたいだ。
西洋風ファンタジーの鉄板だろう。
小さい植木鉢が飾ってあったり、可愛いお花が飾ってあったり……。
荒れた酒場ではなさそう。
でも……酒場って、大人がいっぱい来るよね……。
つまり、居酒屋的な。
……いや? 良く考えてみよう。
割と酒場って割と稼げる所なのでは……?
…………よし、決心した。
案ずるより産むが安何とやら! 怖気づかずに入ってみよう……!
「お兄ちゃん!」
声を張った。
「酒場で働くよ!」
決意を胸に込めるため、胸の前でガッツポーズをしながらそう言った。
「え、マジで言ってんのか?」
驚きを隠せないのか、少し体を後退させるお兄ちゃん。
もちろん、私は本気なのだ。
「うん! 本気で!」
次話もよろしくお願いいたします!