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59話 『聞きたいことと話したいこと』

一日更新遅れて申し訳ございませんでした……

 マグさんがスリルさんに、紅茶のお代わりを持ってくるようにお願いした。スリルさんは軽く会釈をして、ティーカップとティーポットを、持っていた木製の皿に置いて、部屋から出て行った。


「そんで、聞きたいことなんだけども。私さっきの戦闘の後半あたりからほとんど記憶が抜けているんだけれど、私何か変なことしてなかった?」

「えっ? 普通に話していたじゃないですか。何言ってるんですか?」

「あら……そうだったの? 何故記憶が飛んじゃうのかしらね……最後の方しか記憶ないのよね……」

「火の魔法を使ってたのも覚えてない感じですか?」

「私火の魔法なんて使ってたの? うーん……火の魔法は使えないはずなんだけどなぁ」


 マグさんは腕を組み、首を傾げながら深く考え込んでいる。どうやら本当に記憶が消えているらしい。


「こういうこと結構あるのよね。最近はかなり増えたかな……いつの間にかメルを抱いていたり、いつの間にかキューポイ倒していたりね。どいうことなのかしらね」


 あの時の記憶も無かったんだ。自然な流れに見えたのだけれど……これじゃあ戦闘後半になってから考えていた聞きたいことは聞けないな……ゲームのシステム的には恐らく、呪術覚醒後からの記憶がないのだろうし。でもさっき、最後の方は記憶があったと言っていたから、私が一つ思ったことは聞けるかな。


「あ、あの、私も聞きたいことあるんですが、ちょっといいですか?」

「え……あっ、うん。いいよ」


 マグさんはなにかボーっとしていたらしい。記憶が無くなるという不思議な現象に遭えば混乱するのも仕方はない。


「戦闘の最後に、マグさんは自分で白旗を挙げたのですが、何でですか?」

「あぁ、あれね。疲れが一気に来てね。これ以上は無理かなぁって思って」

「なるほど……(魔力は要しないのに、動いてなくても疲れるんだ)」

「あとは一つ、あなたたちに……って、カナタは寝てるのね……」


 お兄ちゃんはいつの間にか顔面を机にベターっとつけて寝ていた。こういう所が相変わらず駄目ですね。


「んじゃあなつめさんだけでいいわ」


 いいんだ……

 マグさんは両肘を机に置き、両手を組み交わらせて、自分の顎を乗せた。そして、少し目を細めにして私に話しかけてきた。まるで私たちを疑っているような目つきだ。


「あなたたち何処から来たの?」

「えっ……」


 そうだね、そうだよね。そういえばその設定決まってなかったよね。

 私は戸惑ってしまい、言葉を詰まらせた。他の異世界系のやつでは、異世界にある大陸とか町とかから来たってことにしているものが多い。でもこのくそみたいな世界じゃ、大陸や町が限られすぎてて私たちの所在を教えることはできない。『違う世界から来ました』なんて言っても、信じちゃくれないだろう。


「答えられない理由でもあるのかしら?」


 マグさんがそう言った瞬間、スリルさんが紅茶が入ったティーポットとティーカップを持ってきた。スリルさんは机にそれらを置いて、また軽く頭を下げた。

 マグさんはスリルさんに目を合わせ、アイコンタクトらしきものをとると、スリルさんは分かったかのように部屋を出て行った。


「いやぁ、その……」

「もしかして……異界から来たの?」


 私は首を傾げた。異界……? 異界っちゃ異界だけど、もしこの世界でいう『異界』であるのならば、私たちの住んでいる日本とは違う場所になる気がするのだけれど……


「そっかー、やっぱそうよね。異界から来た人たちよね。だって融合魔法を全部成功させることができるなんて常人じゃないものね。異界の人は皆、特殊な能力を持つといわれているし」


 なんかもう今更違うとは言えない雰囲気になってしまっている気がする。


「……実はそうなんです」


 嘘をついてしまった。人生三百七十二回目の嘘だ……何故だろう百二回目のプロポーズを思い出してしまった。


「異界っていくつかあるらしいけど、あなたたちは少なからず辺鄙な土地から来た感じがするわね」


 その通り、日本の田舎に住んでます……!


「でも、私が一度行ったことのある『シャリゼノ』の出身じゃなくて安心したわ」

「そのシャリゼノってどんなところなんですか?」

「簡単に言うなら死者の国なんだけど、そこには死者蘇生をする悪魔みたいな女がいてね――」


 マグさんの話は夜遅く、つまり深夜まで続いた。その間にお兄ちゃんはフラフラしたまま自分の部屋に行き、寝てしまった。それも一時間くらい前だ。私は疲れて寝ていてもお人よしのせいで人の話を聞かないで自分だけ寝るなんてことできない……悪い癖ではある。元世の自宅の隣に住んでいる、佐藤さん(78)の話を冬真っただ中の寒空の下、三時間も聞いていたことだってある。回覧板届けるために行ったから、パジャマの上に、リビングのイスに掛けてあったお母さんのジャンパーを着ていった。

 それはそうと、マグさんの話。

 そのシャリゼノという異界は、住人がほとんど死人になりかけの人ばかりだという。そこに一人だけ女性がいるらしく、その女性はこの世界にはない、『死者を蘇生する特殊能力』を持っているらしい。タレント能力ではなく、スキルとして使えるそうだ。ただ、その女性はかなり性格が根暗で如何にも病んでいるっぽく、例えば病気で死んだ人を生き返らせたり、大傷を負って死んだ人を蘇らせたり……そこに住む住民は皆、コロシテ状態だと言う。怖いね。絶対に関わりたくないですね。


「あー久々に少し長く時間使って話したからスッキリしたわ。ありがとう、なつめさん。私の話に付き合ってくれて」


 マグさんは両手を思いっきり挙げて、体を伸ばし欠伸をした。

 異界の他にも、この世界の生活で有効活用できそうなプチ情報をもらったり、生活術を教えてもらったり、様々な事をご享受していただけた。


「それじゃ、もう終わって寝ましょうか。もうスリルも寝てると思うし、ポットとかカップは私が全部洗っておくわ」

「すみません、ありがとうございます」

「いいのよ。このくらいなら私でもできるわ!」


 むしろこのこと以外何にもできないのかといえるような言いようではある。


「では、おやすみなさいです」


 私は席を立ちあがり、目を擦って扉の前まで歩いて行った。


「あ、そういえば話したいこと話すの忘れてたわ」


 私は立ち止まり、そういえばと思ってマグさんの顔を長い机越しに見た。


「あなた達には行ってもらいたい場所がある。今ザトールで起きている、人間の邪悪化……それを引き起こしているのは、この大陸の守護者である『パミル』の弟である『ダモン』だと思う。というかアレしか人の夢を操ることなんてできないと思うし。そこで、あなた達にダモンを倒してもらおうと考えているのだけれど、そのためには北にある大山の頂上にまずは行かなければならない。そこに住んでいるはずだからね。二人とも」


 この大陸の名前と同じ……由来はそこからかな。


「マグさんは行かないんですか?」

「自分で本読みながら占いしてみたんだけど、山には上るなって出てきたから行かないわ」


 あ、この人めっちゃ占い師に騙されやすいタイプだ!

 私もそうだけどね!


「で、分かった? 次に行くところは北の山、正式名称は『イル山』よ。そこの山頂目指して頑張って歩みを進めていって」

「はい……」

「じゃあ、よろしくね。メルのことも」

「……はい!」


 私は部屋から出て、すぐさまシャワーを浴びて自分の寝床についた。明日は早く出ていこう。山に登る前にそこまでが相当長いとおもうから、もし途中で村や小宅でもあれば泊めてもらうことにしよう。お金を積めば大体許諾してくれるでしょうし。

 では、おやすみなさい……


 私はベッドの上に乗り、横になって布団を体に掛けた。

 ……そういえば、セナさんどこに消えた?

 結局、私は、セナさんのことを考えていてろくに眠ることができなかった。温かいベッドでようやく心地よく眠れると思ったのに。

 いつかゆっくりと眠れる日々がまたくると良いなぁ……


次話もよろしくお願いいたします!

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