51話 『ある特性』
勉強疲れが全然取れない……
「さてと……メルはもう疲れてろくに動けないでしょうし、あなたたちもメルを守るために動けなくなるでしょうし、次は私の番ね……!」
私の裏をかいたメルちゃんの裏をかいたマグさんがニヤリと笑った。
「異空間結界!」
マグさんがそう唱えた瞬間、庭全体が強い魔力の結界で包まれた。
「リミットブレイク!」
あたりの空気が少し重くなったように感じた。
私はマグさんを警戒しながら、メルちゃんの側に駆け寄り、重い杖は持たずにメルちゃんだけをおぶってカグラさんとお兄ちゃんのいる所に行った。
確かにこれじゃあろくに動けやしない。ましてや魔法を唱える隙さえあるか……いやまあ、今隙しかなかったからここまでメルちゃんを運べたわけだけど。
恐らくメルちゃんことが気がかりだったのだろう。これも親心ってことにしておきましょう。
「さて、反撃を始めるわ!」
マグさんは杖を自分の真上に放り投げ、その杖を浮遊させた。
魔法使いはそんなこともできてしまうのか。
「プレー! アロウ!」
マグさんがそう言うと、私たちの上にあったカード三枚が輝き出し、淡い緑色の光を纏った無数の矢が放たれた。
「わっちにお任せ!」
カグラさんが飛躍し、持っている刀で矢を全て切った。
切られた矢はすぐに消滅した。他の魔法も同じように攻撃することで消えるのだろうか。
「魔法を切るなんて……まあ上出来、と言ったところかしら」
マグさんはカードを二枚、人差し指と中指に挟んで持ちながら言った。
「なぁ、なつめ。これどうするんだ? 昨日の作戦丸潰れだよな? 杖あっちにあるし」
お兄ちゃんが私が今考えていることを訊いてきた。
「今考えてるところなの!」
私は焦りながらも考える。しかし、全く良い案が浮かんでこない。
というか何も考えられない。
「おぉーっとぉ!? なつめ選手、まさかの作戦崩れかぁ!?」
「セナさんうるさいです! 黙れください!」
「命令敬語を使うあたり、やはり兄妹か……」
マイク越しに私たちのことをセナさんは実況する。
そういえば、そもそもそのマイクはどこから持ってきたんだろう。
セナさん色々とずるいな……
「さて、あなたたちからの攻撃は無いのかしら? なら今度は私から仕掛けてあげるわ!」
マグさんが持っていたカードを空中に投げ、自分の周りに浮かせた。
「わっちに任せるのだ!」
カグラさんは私たちの前に出た。
このような状況では、いずれカグラさんが疲れ果てるのも時間の問題だ。かと言って、私の初級魔法が 通用する相手では無いであろうし……
——いいアイディアが思い浮かばない。
このままでは翻弄され続けたまま終わってしまう。
とりあえず、メルちゃんのことはキュアーで回復させよう。背負ったままでも回復魔法くらいは唱えられそうだ。
私はメルちゃんに何度も何度もキュアーを唱え続ける。しかし、体力は完全に回復できても、疲れ自体はあまり取れないみたいだ。
「さっきと同じようにいくと思っちゃ大間違いよ。この世には切れない魔法だって沢山あるんだから! 一!」
マグさんの右にあるカードが黒い光を放って私たちの周りから、濁った紫色の手のようなものが、複数、ゆっくりと押し寄せてきた。
闇魔法か……!
「くっ、闇……! これはわっちでは切れないのだ……!」
そうだった。確かカグラさんの刀は実体あるものしか切れないんだっけか……いや、私には手自体に実体があるように見えるけど……
私が考えていると、いきなりセナさんがマイクを使わずに大声で話をしてきた。
「他の属性魔法と違い、闇魔法、光魔法は、共に『無実』という特性があって、実体がないものでしか攻撃が通らず、その上搔き消すことができないの。だから、基本的に強い相手と戦う時に、相手から闇魔法、光魔法を使われたらまず、自分自身にシールドを張ってダメージを軽減することが最も有効な方法だと言われ続けているよ!」
「そういう解説実況はありがたいですセナさん! でも、私たち誰もシールド持ってないし、もうすぐそこまできてるから!」
セナさんは耳をハート型にして、嬉しそうに宙でゆらゆらして踊っている。
なんてお気楽なんでしょうか。