43話 『作戦会議 ③』
三人は首を傾げた。
「どんな方法なのだ?」
カグラさんが私に訊いてきた。
メルちゃんも聞きたそうにして、ワクワクしているらしく、体をソワソワさせている。
「簡単に言えば、【先手取り】だよ」
「せんてどり?」
メルちゃんが顎に手を当てて効いてきた。
どう分かりやすく説明しようかな……
「んとね、相手が攻撃する前に自分達が先に攻撃を仕掛けることだよ。普通なら開幕即行だけど、今回はマグさんが本格的に攻撃を仕掛けてくるちょっと前の、カードを全部作り終えた瞬間を狙おうと思ってる」
メルちゃんとカグラさんは手をポンと叩き、理解した様子であった。
おそらくマグさんはステルスを使ってから、効果が切れるまでの時間で、カードの生成や、リミットブレイクを使って自分のステータスを上げたり、異結界を張って魔力を高めたりするだろう。そして、カードを六十枚を作った後は魔力が膨張しないために、必ずステルスを一時的に切るはずだ。
その瞬間を狙う。
すぐに決着をつけたいというよりも、今回は最初の守備に重点を置いて態勢が整ってから一気に攻め込む感じだ。実はもう連携は考えてあったりする。
「カグラさん。スキルの新月って、攻撃する前に姿を見えなくするんだよね」
私がそう言うと、カグラさんはコクリと頷いた。
「じゃあ、カグラさんはマグさんがカードを作り終わった瞬間に新月で突撃ね。で、メルちゃんはパワーアップで攻撃力を上げたら、私が合図したら地面を思いっきり叩いてね。カグラさんは私が合図した時に飛び上がってくれればオッケー! 私はそれまで、みんなの体力回復とかやるよ。お兄ちゃんはとりあえず何も余計な事しないでね」
カグラさんとメルちゃんは納得したが、お兄ちゃんの方は納得がいかないらしい。
まあほとんど戦闘に参加してるだけの寄生虫になる訳だから仕方ないかもしれないけど、しょぼい魔法とステータスじゃ戦えるはずないし、この方法が一番打倒だと思った。
何とかお兄ちゃんを説得して、了解を得る事ができた。
一時間くらいかかった。作戦会議よりも時間がかかった。
相変わらず面倒な性格している。
「これで作戦会議終了でいいかな?」
私がその言葉を言った時、もう2時を回っていた。
大体二、三時間くらい話し合っただろうか。ほとんど雑談で終わった気がするけど……
いや、元世にいた時も毎回こんな感じじゃなかった? 雑談と作戦会議八対二くらいの割合じゃなかったっけ。
……もう終わった事だしどうでもいいかな。
「もう今日になっちゃったけど、ゆっくり休むことにしよう。それじゃ、これにて作戦会議終了!」
私は手を胸の前で一回叩いた。
カグラさんとお兄ちゃんは眠そうに欠伸をしながら、自分の部屋に戻って行った。
が、一つ気づいた事がある。
二人が部屋に戻る時、扉をちらっと見たが、少し開いている様に見えた。ちゃんと閉めたはずなのに……
「メルちゃん! 起きて!」
私はぐっすり熟睡しているメルちゃんを優しく揺さぶって起こそうとしたが、一向に起きる気配はなかった。
このまま寝かせておこうかな……
私はメルちゃんに、ベッドの上に置いてあった毛布を掛けて、ベッドに向かおうとした。
(そういやちょっとトイレ行きたいかも……)
私はすぐに方向転換をして、部屋の扉に向かおうとする。方向転換した時にふと見たのが、メルちゃんが持ってきたマグさんのブック。
仕方ないと思い、トイレついでにこっそりと返すことにして、机の上にあったマグさんのブックを手に取って、扉に向かって歩いて行った。メルちゃんを起こさない様に、こっそりと音をたてずに部屋から出て、灯りのついていない廊下を歩いていく。
(確かトイレは一階にあったっけかな……)
階段を下りて、キッチンの逆にあるトイレに入った。
——トイレをすぐに済ませて部屋から出る。
洋式で良かった……
とは言え、やっぱり、暗いな。——なんか。
酒場のバイトに慣れた私には、この静かで重い感じに、違和感さえ覚える。
私もこの三ヵ月くらいで変わってしまったのだろう。嬉しくも悲しくもない。ただ何か物足りないだけである。
頭の中で滑稽でも何でもないことを考えながら、階段を上っていった。
階段を上がりきると、階段近くにある扉が開いて、中からマグさんがライト片手に顔を出してきた。
「あら、なつめさん。こんな遅くにどうしたの? トイレ?」
私は、突然のことだったので少し驚き、持っていたマグさんのブックをすぐ後ろに隠した。
作戦会議めちゃ早く終わりました。