40話 『基本指導、終了!』
深夜、と言っても十一時くらいだから深くも浅くもない夜である。お兄ちゃんはポーチから銀色の皿の上に置かれた、白くてまだ新しい蝋燭を取り出して、机の上に乗せて魔法で火を点けた。すると、メルちゃんが慌てて蝋燭に息を吹きかけ、火を消した。
「メルちゃんどうしたの?」
メルちゃんはポーチから厚い紙を取り出して、蝋燭を銀皿から無理やりとって、紙で包んでゴミ箱に捨てた。
「お母さんね、火だけには異常に過剰に敏感で、家の中で少しでも点けたらすぐに来て滅茶苦茶に怒るんだよね。だから火はダメだよ」
そう言い、メルちゃんはポーチからスタンドライトを取り出した。キノコ型のスタンドライトを机の上に置き、スイッチを押した。
スタンドライトから放たれた光は、夜の暗闇に包まれて薄暗い部屋の中を、ぼんやりと照らしている。
どうやら夕食を食べた部屋の、長いテーブルの上に置いてあったスタンドライトをこっそり持ってきていたらしい。お兄ちゃんは手を顔の前で合わせて「ごめんごめん」とメルちゃんに言っていた。
「んじゃ、気を取り直して、明日の夜の戦いに備え、作戦会議を今から実行する」
お兄ちゃんは顎に手をあてて、楽しそうにしてにやけている。
元世でも同じような事をしていた。RPGをする時、私と協力プレイをするときは毎回の様に作戦会議をする。正直毎回、ゲームをする時間よりも長い会議になっている。
「作戦会議?」
メルちゃんがそう言うと、お兄ちゃんは二回頷き、勢いよく立ち上がった。
「戦闘において作戦会議は基本中の基本! そこで、なつめを除く二人には、戦闘においての基本を教えようと思う!」
右手で拳を握り、強く宣言をする。
……始まった。私がゲームを始めて間もない頃もこんな事を言って長々と話をしていた。今では私の方が上を行っているはずだけどね。
お兄ちゃんは静かに座り、いきなり冷静な口調で話を始めた。
「戦闘の基本は三つ。まず一つ目は【作戦を立てる】事だ」
「そんな事、わっちでも知ってるのだ」
カグラさんは片頬をぷくーっと膨らませて、目を半開きにして兄を見ている。
依然としてメルちゃんは首を傾げて不思議そうにしていた。
「あー、メルと俺がフィレスの森でオーガと戦った時に、ぼろい家の裏で少しだけ相談したろ? あれみたいな感じだ」
お兄ちゃんがそう言うと、メルちゃんは何か分かったようで、手をポンと一回叩いて、何回か頷いた。
「理解できたならよかった。次、二つ目は【敵・味方の状態把握】だ。なつめ、説明頼んだ」
「ええ……」
いきなり私に話を吹っかけてきた。というより、自分で説明する事ができない為無理やり私に振ったような感じである。私は仕方ないと思い、深いため息をついて説明を始める。
— 敵・味方の状態把握について —
メルちゃんとカグラさんは私の顔を真剣な眼差して見ている。
「えっとね……まず状態把握っていうのは、状態異常、仲間や敵の技効果や範囲を見る事なの」
「状態異常って何?」
と、メルちゃんが私に訊いてきた。
「毒とか、体が凍らされていたりとか、自分の体に変化がある事だよ」
うんうんと二回頷いて、右手の親指と人差し指を顎に当てている。
「状態把握って戦闘においてすごく重要で、例えば、敵か味方の技の範囲を見誤ると、ダメージを受けてしまったり巻き込まれてしまったりする。それを回避するためには、範囲の把握などを怠らない様にしなければいけない。状態異常に関しては、例えば、味方が毒とか呪いとかにかかって動けなかったり苦しんでいたりしている時に、助けないでいると、動けないままやられてしまったり何だりと、戦況が一気に不利になってしまう事がある。それを無くすためには、味方の状態をしっかり把握して、回復魔法や道具などで助けてあげる事が重要なの。偶にそんな事してる暇ないとか言う人いるけど、実際助けた方が有利になりやすいんだよね」
— 説明終了 —
私が長々と説明をすると、メルちゃんとカグラさんは口をぽかんと開けて、目を丸くしている。
「何か、凄いね」
メルちゃんがそう言うと、カグラさんは何回も何回も頷いた。そんな凄い事ではない様な気もするけど。
私は何か嬉しくて、少し照れ臭くなって下を向いた。
「では最後、【コンボ】について。なつめもう一回頼んだ」
と、お兄ちゃんは私に指を指して言った。語彙力が無い事は前々から知ってはいた。だけどこれは酷い。
「お兄ちゃん説明してよ」
「いやいや、なつめの方が頭良いし、説明上手だし」
露骨に褒めてきやがる。……こう言われると何だか嬉しくなっちゃって断れなくなってしまう。私の昔からの悪い癖である。
「……分かったよ」
— コンボについて —
私は右手の人差し指を上にピンと立てて、説明を始めた。
「コンボというのは、技と技を組み合わせた、所謂、複合技の事で、『敵に状態異常を与えてから、動きを鈍くして大技を決める』みたいな感じで、一番身近な例で言えば、メルちゃんのサイレントと暗殺スキルみたいな感じかな」
お兄ちゃんは腕を組みながら、何故か得意げに頷いている。一方、他の二人はキラキラした目で私の話をちゃんと聞いている。
「コンボを決める事ができれば、もちろん相手に致命傷を与えることもできる。ただ、コンボが決まらない場合は、確実に隙ができてしまい、逆に大きいダメージを多く受けてしまったりする。コンボをうまく決めるには、仲間との連携がすごく重要で、さっきも説明した、仲間の状態把握もこれに大きく関わってくるよ」
疲れた。ただ単に疲れた。
私は目を閉じて、軽く息を吐いた。
一応分かりやすく説明はしたつもりだ。実際にこの世界で説明するなんて思ってもみなかったから、この世界の設定によく合わせて、自分にも分かるように説明をした。最初の一回しか詰まらなくてよかった……
— 説明終了 —
お兄ちゃんは、私に手でグッドサインを作り、よくやったと言わんばかりの笑顔を見せる。
何だコイツ。
「この基本三つは、突発的な戦闘でも同じだから、よく覚えておくように」
お兄ちゃんがそう言うと、二人もお兄ちゃんと同じように手でグッドサインを作った。
「それではこれより、作戦会議を始める」
【チュートリアル】終了。(無理やり感が半端ではない)




