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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第1-2章 【チュートリアル】
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39話 『作戦会議、準備!』

 私は料理を持ち、お兄ちゃんとカグラさんがいる部屋に入って行った。

 部屋の中に入ってみると、二人ともソファーの上で、鼾をかきながら気持ち良さそうに寝ている。私は 深いため息をつき、料理や食器などを三人分、テーブルの上に置いた。

 料理などを並べていると、先ほどと同じように、いきなり扉が閉まる音がした。


「——!?」


 驚いて、すぐに振り返ると、扉の前にはマグさんが立っていた。


「あれ、マグさんいたんですか?」


 すると、マグさんは嬉しそうに笑った。


「どこにも行くとは言ってないでしょ。で、どうだった? 私のサプライズは」


 満面の笑みで、体をそわそわさせて、早く聞かせてと言わんばかりの仕草をとっている。

 あの時本当に死にそうだったんですけどね。ずっと息止めてたから。


「死ぬかと思いました」

「あら、そうなの? あそこはね、私が作った空間で、水圧、浮力、音が響かない事、空気がない事とかの効果を全部打ち消してあげた、いわば水中効果無効空間なんだよ。もちろん消火効果だけは残してあるけどね」


 それを聞いた瞬間、私の体の上に、錘がどっと圧し掛かってきたような感じがして、体が一気に重くなるのが分かった。

 頭が痛くなってきて、頭を少し抑えて、ソファーの上に座る。


(私……今まで何してたんだろ。とんでもない茶番だったなあ……)


 そう思い、天井に吊るされているシャンデリアを見た。カーテンが閉まりきって、外の光が中に入らない分、シャンデリアから放たれている光が部屋も私たちも包みこんでくれる。あったかいなあ。


「で、どう? あそこ気に入ってくれた?」

「いや、まあ……ちょっと涼しかったくらいで、気にいった、気に入ってないとは別の話ですかね……」


 マグさんは「えー」と言い、少し残念そうな顔を見せた。その後、しょんぼりしたまま、口を尖がらせて、そのまま部屋から出て行った。

 ……逆に何を期待していたのだろうか。

 私はカグラさんとお兄ちゃんを、強く揺さぶって無理やり起こし、ご飯を食べさせた。


「うまいな、野菜炒め」

「うむうむ、美味しいのだ」


 二人とも、お気に召したみたいでなによりだ。私も、バクバクとすごい勢いで食べる二人に負けない様に頑張って食べた。


(ちょっと作りすぎたかな……?)


 私はだいぶ残した上でギブアップ。二人の食欲は全く止まらず、私の分までカグラさんやお兄ちゃんが食べてくれた。

 食べ終わった後の食器も私が洗いに行く。

 二人は私が何を言ってもキッチンの中に入るのを拒んで、結局私が洗いに行く事になったのだ。

 苦しくはないからいいんだけどもね。

 食器を大きいお盆の上に乗せて、再度水浸しのキッチンに戻る。食器などを全てをシンクの中に入れて、蛇口から水を出し、洗う。


 「水中でシンクを使って洗い物なんて、何か変な気分」


 私は独り言をブツブツと言いながら、野菜炒めやスープの入っていた皿などの食器を洗った。

 そういや私、この世界に来てから、異世界らしい事が、湖に行ったときにしか出来なかった気がする。 滝に行ったときはさらわれて、誘拐されたみたいな感じになっただけだったし、他はほとんど酒場の中でバイトだけしてたし。どっちかと言うと、高校生活を終えてバイトをしているだけって感じ。

 ……何だか、現実とそう、変わらないじゃん。

 私はそんな事を頭の中で思いながら、黙々と作業を進めて行った。

 その後、各自は部屋に戻り、刀を振る練習をしている危ない人がいたり、何かよく分からないダンスをしている変な人もいたりと、自分だけの時間を有意義に使っていた。

 私はもちろんシーツなどを取り換えふかふかになったベッドの上で寝転んで、一休みをした。


 ——。


 少し、時間が経って、目が覚めると、部屋の中は窓から入り込んでくる夕焼けで包まれていた。


(少し寝たつもりだったけど、ちょっと寝すぎちゃったかな……)


 目を擦り、ポーチの中に入れていたブックを取り出して、時計を見ると、十八時と書いてあった。

 結構寝すぎた。というか4時間くらい寝てた。夜眠れなくなったらどうしよう……

 そう思い、部屋から出ると、お兄ちゃんが部屋の前でうろうろしていた。


「あっ、お兄ちゃん」


 まだ少し眠いせいか、寝ぼけた声が出る上、目の前の景色がぼやけている。だが、こんな変質的な行動をするのは兄しかいないと確信し、私は目を擦りながら話をかけた。


「おっ、やっと出てきたか。今日、夜にお前の部屋にみんなで集まって、明日の夜の勝負向けて作戦会議をするぞ」


 と、お兄ちゃんは言うと、続けて「夕食もうできてるらしいから早くこいよ」と言い、階段を下りて行った。

 確かにいい匂いがぷんぷんする。他のみんなももう下にいるのだろうか。

 私は頬を両手で二回ほど叩き、眠気を何とか覚まして階段から一階に降りていくと、スリルさんが階段の下で待っていた。


「ああ、なつめさん。こちらで皆様が待っていらっしゃいますよ」


 そう言い、私から見て右の部屋、要は最初に来た部屋と逆の部屋を手で示した。


「あっ、早く行った方がいいですよね。遅れちゃってすみません」


 スリルさんは優しい笑顔で「大丈夫ですよ」と言い、私が階段から降りてきてから部屋の方向に歩き始めた。

 部屋の扉の前まで来ると、スリルさんが扉を開けてくれて、私を先に部屋の中に入らせてくれた。

 中には何人用か分からない程の大きいテーブルがあり、一番奥の方にはマグさんが座っていて、その周りにカグラさん、お兄ちゃん、メルちゃんが座っていた。部屋の中はほんのり暖かく、この暖かさがまたしても私を眠りに誘おうとする。

 テーブルの上に置いてある、小さなスタンドライトは、キノコの様な形をしていて、部屋の中をシャンデリアの光と共に、明るくぼんやりと照らしている。


「なつめ、早く食べよう!」


 メルちゃんが私に気付いたらしく、手でイスを何度も叩き、私の隣にきてアピールを滅茶苦茶にする。

料理ももう用意してあるらしく、各々の前には、ドームカバーが置かれている、いかにも高級料理店に出てきそうな、紅葉が描いてあって、風情のある綺麗な皿が置かれていた。

 私が来る前まで、マグさんの武勇伝を嫌と言う程聞かされていたらしく、みんな少し疲れ切っていた。

 早く来なくて正解だったかも。

 そして、私たちは夕食を食べ始める。と、その前に、お兄ちゃんと私はしっかりと「いただきます」と手を合わせて言った。周りに板人は私たちが何をしているのか全く分からないらしく、首を傾げていた。

 早速、目の前にある、大きな皿に乗っているドームカバーを開けると、ソースの良い匂いが鼻の中に吸い込まれていく。


「これは……」


 私がメルちゃんに訊くと、笑顔で答えた。


「キューポイのビーフだよ!」


 と言い、フォークとナイフを使って器用に食べ始めた。


「私がひとっ走りしてとっ捕まえて来たわ」


 マグさんがそう言い、大きく胸を張った。


「あの、キューポイって強いんですか?」


 私がマグさんに訊くと、彼女は頬杖をついて考え始めた。


「そうねえ……頑張ればあなたたちでも勝てるんじゃないかしらね」


 と、考えるのをやめて適当に受け流した。私は苦笑をし、「そうですか……」と、一言だけ言った。

 ひとっ走りで捕まえられるほどだ。それほど強くはないのだろう。

 私はそう思いながら、ナイフとフォークで切りながら食べる。


「――!」


 ザトールの町で食べた時とは違う、脂が多く詰まっていて、口の中に入った瞬間に蕩けてしまうようなこの柔らかさ、そして肉自体の歯ごたえ……すごく美味しい! それに、ビーフに絡みつけられているソースは甘く、肉との相性も良い感じになって、旨味をさらに引き出している。

 こんな美味しい料理が異世界で食べられるなんて、なんて幸せな事だろうか……!

 私は、勝手に動く手が止められず、すぐに全てたいらげてしまった。スリルさんは「まだ沢山ありますから、ゆっくりお召し上がりになってください」と言い、キューポイのビーフを更に持ってきてくれた。

私は今までにない食欲で何回か繰り返し食べ、お腹がいっぱいになった。他の人も、みんなたらふく食べたらしく、お腹をゆすって幸せそうな顔をしていた。

 そして、私たちは部屋に戻り、夜中になるまで、会議が始まるまで、ゴロゴロしたり風呂に入ったりなどをした。

 風呂もまた素晴らしいもので、一人で入るには広すぎるし豪華すぎる風呂場だった。

 ――そして、夜がやってくる。

 四人は、私たちの部屋に集まり、私の部屋にあった小さい正方形の机を中心にして、東西南北に一人ずつ座った。


「さて……作戦会議、始めるぞ」


 お兄ちゃんが静かに言った。


本当はここ(39話)で作戦会議に入る予定だったのですが、書いていた途中で39話だけのデータが吹き飛んでしまい、だいぶ内容が変わってしまいました。

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