37話 『勝負のお約束』
メルちゃんの事に夢中すぎて私たちに気付いてなかったのか……逆にそこまで一人の人間に集中できる心を持っているのだけは尊敬あできる気がする。
「あ、えっと、私はなつめって言います。それで、違う部屋で寝て……いや待機している二人もいるのですが、一人はカグラさん、もう一人は私の兄のカナタって言います」
マグさんは不思議そうにこちらを見たまま静止している。
真面目に答えたつもりなんですけどもねぇ……
「何であなた達はここにいるの?」
「メルちゃんの仲間です」
私がそう言うと、何故かマグさんは凍り付き、目を丸くした。何も変な事は言っていないと思うのだけれど、それともメルちゃんに仲間ができた事に感動している……とか?
どうせならそのくらいの緩さであってほしい。
「……後で話があるから、三人で、二階の奥の私の部屋に来なさい」
「は、はい」
先程までとは違う、少し表情を曇らせている様にも見えた。
話があるのは私たちの方だったのだけれど、話をしてもらえるならこっちとしても好都合である。
私たちの話もついでに聞いて貰えるかもしれないしね。
とりあえず、お兄ちゃんたち起こさなきゃ。最悪、二人とも引きずって行く事になるかもしれないけど……
部屋の中に戻ると、二人とも起きて呑気に欠伸をしいていた。
表ではあんな事があったというのにこの二人は……呑気で全くいいものです。
そして私は大きいため息をつき、話しかけた。
「お兄ちゃん、カグラさん。マグさんが話があるっていうから早く行くよ」
私が言ったのにも関わらず、まだ二人は欠伸をしている。こりゃどうしようもなさそう。
だとしても、お兄ちゃんは普通驚く所でしょうよ。いきなり訳の分からないところにいる訳なんだから。
あ、よく考えてみるとそもそもここに来るまでの過程を知らなかったお兄ちゃんが、驚かないのも不思議な事じゃないかも……
まぁそんな事はいいの。今はとりあえず、マグさんの話を聞きに行かなきゃ。
「なつめおはよう。どうした? そんな元気無さそうにして」
半ばお兄ちゃんのせいです。
「ふわぁ……なつめじゃないか。スリルさんはどうしたのだ? あとそこにいたマグさんは?」
そっか! マグさんが起きた事とか、スリルさんが海に盗賊を捨てに行った事とか寝てる間に起きた事なんだから分かるはずないよね。とりあえず二人に簡単に説明をしてからマグさんの部屋に行こう。
「かくかくしかじかで……」
二人に訳を説明した。二人とも理解力は高くて助かる。
「それで、今から行くと?」
「そう、私たちも話があるし、丁度いいかなって」
「わかったぞ! じゃあ行こうではないか!」
カグラさんは無駄に先陣を切って部屋から出て行く。
続いて、私もお兄ちゃんも部屋から出て行き、つい先ほどまで人が多くいた部屋は、あっという間に空になり、あっという間に静かになった。
私たちは階段を上り、奥の部屋に行く。廊下はそこまで長くはなく、結構すぐ着いた。
扉も私たちが今までいた部屋の扉と同じ扉で、この館の主の部屋の扉だというのに、何の威圧感もない。
三回ノックをして「なつめです」と声をかける。中から「どうぞ」と聞こえ、私たちは部屋の中に入って行った。
部屋の中は、割と大人しい部屋だった。奥に大きな窓があり、その前には大きな机。床には赤黒いカーペットが敷いてある。両脇には本棚が置いてあり、おそらく魔法の本やらなんやらが敷き詰められているのだろう。
それ以外は特に気になるものはなく、マグさんがイスに座っているだけだった。
「さて、話なのだけれど、もしやあなた達、メルを持って行こうとしてるのかな?」
マグさんは机の上に肘を置き、頬杖をつきながら言った。
「持って行くっていうか何というか……正式に仲間にしたいと言いますか……」
「いいよ」
即答だった。
本当に……いいのかな?
「ただし、少し条件がある」
お約束の条件きた。過保護の親が、人の前でも自分の娘を愛娘と言ってしまうような親がいとも簡単に自分の傍から放す訳がない。
「条件って……何ですか?」
私たちは窓から入ってくるい光がいきなり強くなった為、目線を下に逸らした。
マグさんはそれに気づいたのか、イスから立ち上がり、窓についているカーテンを閉めた。
「私と勝負してもし勝てたなら、ね」
マグさんは薄暗い部屋の中で、少しにやりと笑った。
「マグさんと勝負!? あんなの見て勝てるなんて思えませんよ」
「じゃあ、メルはもう私の方で預かる。それでいいかしら?」
「むぅぅ……」
私は片方の頬を膨らませた。
あんな怖い所を見せられて、まず戦える勇気さえ持てない……でも勝たないとメルちゃんはもう私たちの仲間から外れるし、それにもうメルちゃんと話す事も出来なくなってしまうかもしれない。
「いや、やる」
と、言ったのはお兄ちゃんだった。カグラさんも同意している様で、相槌をうっている。
この人たちは実際に何も見ていないからそんな事が言える。
「ただ、なつめは勝負に参加はするな」
「……え?」
兄は私の肩を掴み、私の方をじっと見る。
お兄ちゃんなりに心配してくれているのかな……?
「ふふ、妹を勝負に参加させないなんて、まさかあなた妹想いの過保護なの?」
マグさんは無邪気に笑い、そう言った」
「あんたにだけは言われたくはないぞ」
兄は言い返すと、マグさんを少し睨む。なんで牙をむいているのか私にはよく分からなかった。
「あーでも、勝負離脱者は一人としてなしよ。メルも含め、全員で全力でかかってきなさい。……それで勝てたら、メルをあなた達に預けても良いと思っているのよ」
マグさんは私たちの横を通りすぎ過ぎ、部屋の扉の前に立ち、また話を始めた。
「勝負は明日の夜にする。それまで少しここで休んでいきなさい。ここに来るまで疲れただろうし。部屋はこの部屋以外の二階にある部屋を使っていい」
そう言うと、マグさんは部屋から出て行き、どこかに行ってしまった。
私たちはお互いの顔を見合わせ、何か忘れていた事を必死に思い出そうとしていたが、やっと思い出す事ができた。
「メルは!?」
「メルちゃんは!?」
「メルはどこなのだ!?」
三人の考えと声が初めて合った時だった。
更新遅れてすみませんでした!
来週は何とか18時に間に合わせられるようにします!
(今週中にマグの倒し方を考えておきます。やっとゲームらしいの始まります)