36話 『元勇者の一人はやっぱ強いね!』
そうだ、一昨日の盗賊……見られると、震えたくもないのに、脚が竦んで動けなくなってしまう不思議な現象が起こる。恐らくこいつのタレント能力だろうけど、かなり厄介なものである。
「一昨日の盗賊……!」
盗賊は歩くのを止め、私の方をじっくり見る。
「そうさ……お前らにやられてから、何とか町に戻ってきて、後をつけてみたら、湖の上に立ったりとか訳分かんねぇことしやがる。だが、お前等が湖の上でいきなり消えてから、湖の上を歩いてみれば、変な花びらが落ちててな、変だと思ってよーく顔に近づけて見ると、頭がぐらっときて、目を開けた途端この家が現れたって訳よ」
盗賊はニヤニヤしながら話した。後を着けられていたなんて……もしや姿を消すスキルでも使っていたのかな。町を出てからここに来るまで全く気付く事が出来なかった。
「仕返しのついでに、ザル警備すぎるこの館の高そうな物は貰ってく。どうせこの大陸で俺の【目視戦慄】に敵う奴なんていないだろうかならぁ! そこで俺が出て行くまで震えあがってな! 」
震えているメルちゃんを強引に引きずり、私たちの事を見ながら後ずさりをしていく。
私もスリルさんも脚が竦んでしまって、歩く事が出来ない。立ち上がりたいのに……立ち上がりたいのに立つ事が出来ない! このままじゃメルちゃんが……
「……罪で汚した手で私の愛娘に触れるんじゃない……!」
マグさんが凄い剣幕で盗賊を睨みつけている。その目は真っ赤に染まっていて、怒りを露わにしているようだった。
「どうせ俺に、八十七レベルの俺に敵わねぇんだからよぉ……そこで大人しくしてるこったな。はーっはっは!」
盗賊は口を大きく押っ広げ、得意げにバカ笑いして言った。マグさんですら敵わないというのだろうか……
さっきからその場を全く動いていない。でも、脚が震えている様に見えないのは私だけかな……?
てか、もう! こんな時に何でカグラさんもお兄ちゃんも寝ているの!?
カグラさんは仕方がないとしても、お兄ちゃんは助けに来るべきなのでは!
「そんなクソ雑魚タレントが何だって……? まさか自分がこの大陸で一番強いとでも思っちゃってんの……? それともう少し、周りを見ようか」
「…………なんだ?」
いつの間にか、盗賊の周りには4枚のカードが浮いていた。さすが元勇者! やっぱこんな87Lvの盗賊に負けるはずがないよね!
「何をするつもりだ! こ、こいつを殺してもいいのか!」
メルちゃんの首元に更に近く刃物を近づけ、追い込みを入れようとする。しかし、マグさんは動揺している様子を全く見せず、ぶつぶつと何かを唱え始める。
「一枚目」
盗賊の右上に浮いている黄緑色のカードが光を放ち、粉々に砕ける。カードから放出された光が、鋭い刃物状に変わり、盗賊の、ナイフを持っている手を風の様に切り裂いた。
「ああぁぁっ!」
盗賊は悲痛な叫びをあげあげ、ナイフを放した。生々しい血液が垂れている左手を右手で抑える。そのおかげで、メルちゃんは盗賊から解放された。
「二枚目」
マグさんがそう言うと、盗賊の左上に浮いている黒いカードが、黒い閃光を放ち、黒煙に変化する。その黒煙はメルちゃんを包み込み、マグさんの隣にメルちゃんを運んできた。
「三枚目」
盗賊の右隣に浮いているカードが鮮やかな水色の砕け散る。少しひんやりとした風が流れてきたと思うと、盗賊の周りが凍える様な冷気に包まれ、盗賊の体が完全に固まった。
「四枚目、エンド」
盗賊の左隣に浮いている茶色いカードが、盗賊の体より大きくなり、盗賊の全身を覆い、そのまま固まって、大きな岩となった。
……私は一体何を見ていたのだろうか。目の前で起こった一部始終が全く頭の中で理解出来ない。それにカードがいつの間に盗賊の周りに……?
「スリル、この醜い『物』を海に沈めてきて頂戴」
「分かりました……」
スリルさんは立ち上がり、この館にそぐわない、不釣り合いな人型の岩に近づき、軽々と持ち上げて、玄関の扉から出て行った。
私は、ほんの少し震える脚を、一昨日と同じ様に手で支えながら何とか立ち上がる。メルちゃんはまだ恐怖が取れないらしく、震えながら倒れたままでいる。マグさんはメルちゃんの体を横抱きし、心配そうにメルちゃんを見ながら、階段を上っていく。
「あの……」
私はお礼を言おうと思い、階段を上っているマグさんに話をかけた。
「あ、ありがとうございます……」
マグさんは立ち止まり、私の目を金色の目で見つめる。あれ? さっきは赤くなっていた様な気がしたけども……静かにじーっと見つめてくるので、さすがに恥ずかしくなってきて目線を下に逸らす。
「……ねぇ」
マグさんが静かな声で私に話をかけた。
「は、はい……?」
私は恐る恐る返答をした。正直心の中がヒヤヒヤしている。
「……あなた……誰? いつからそこにいたの?」
「……え?」
予想外の質問だった。
今まで気づいてなかったのかぁ。
ギリギリ2000文字になりませんでした。後47文字でした。頑張りました。深いため息




