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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第1-2章 【チュートリアル】
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30話 『予兆』

 私が呼びかけてもメルちゃんは全く反応してくれない。とりあえずトイレにでも行こうかな……しかし手を放そうとしても全く離れることができない。

 どうやら、やたら力を込めて私の手を握っているみたいで、少し痛いくらいだ。いくら引っ張っても全く手を放してくれない。でも何で私の部屋に来ているのか。


「メルちゃん起きてー、結構痛いから」


 やっとメルちゃんは目を覚まし、私の方を見た。


「寂しいんだ」

「え?」

「私、家にいた時はお母さんから外に出ちゃダメだと言われてずっと一人だったの」


 約八十年間も家の中にいたんだ……そりゃ友達ができるわけがない。だからと言って今頃になってその記憶が蘇ってくるのは変である。


「それでどうしてここに……?」


 メルちゃんは私の手をまた更に強く握った。

 いや痛い! 本当に痛いですから! 


「変な夢見ちゃって……」

「どんな夢見たの?」

「また一人になる夢……みんなが私の傍からいなくなって、私一人になっちゃうの」


 要は悪夢という部類のものだ。

 そういえば近頃酒場に来る人が、荒れている人が多くなってきている気がする。それに関連しているのかは分からないけど。実は最近、私もひどい夢を見たもので、兄が一生引きこもりして私が一生懸命働いてギリギリの生活を、定年を迎え年金をもらっている親も含め養いながら送るという残酷な夢だ。


「うん。だから一人になりたくなくて……」

「それで私の部屋に?」

「そう」


 悪夢というものは、人の記憶から悪いものだけを抽出して寝ている間に見せるものがある。ビルから落ちる夢だとかはよく分からないけど、得体の知れない何かから追いかけられたりするのは『自分が過去に、誰かに追いかけらる怖い体験』から『追いかけられる』所を抽出されたものだ。なので、その悪夢を解決するには、根源にある事象を自らが取り除くという事をしなければいけない……って前テレビで偉い人が言ってた。


「じゃあさ、その悪夢解決するために、メルちゃんの家に行こうよ。その問題を解決しよう?」

「嫌だよ……お母さんに見つかったらまた家に連れ戻されちゃう」

「だから行くんだよ。説得をしに」


 メルちゃんの手を強く握り返し、エメラルドの様にきらきらとした目をしっかり見て話した。何もプランはないけれど、とりあえず行ってみないと分からない。案じていたって、隠れていたままだって何も解決しないし、解決させるためには実行をしなければいけないから。


「明日、行こう」


 メルちゃんは頷きまた更に手を強く握り返してきた。


「まだ一緒に寝てていい?」

「い、いいけど、とりあえず手の力を緩めて。結構痛いから……」

「あ、ごめんなさい」


 手の力は一気に緩められ、手が少し楽になった。そしてメルちゃんは目を閉じ、また眠りについた。とにかくトイレに……

 ベッドから起き上がろうとしたが、メルちゃんは寝ていてもやはり手を放してはくれなかった。

 トイレに行けないなんて地獄だ。

 仕方ないからもう寝ることにして、明日早く起きてから速攻でトイレに向かう事にしよう。再度ベッドに横たわり、目を閉じた。

 翌日、朝早く起きて、トイレ行って、カグラさんとお兄ちゃんに事情を話した。カグラさんもお兄ちゃんは少し驚いたが、すぐにわかってくれた。そしてガイルさんの了承も得て、酒場を出て北の門に向かって行った。マミさんは用事があるからと言って、私たちと一緒に来る事はなかった。


「とはいえ、メルがそのー、アクスなんやらという家の人だったとはな」


 お兄ちゃんが酒場を出てからすぐに話を始めた。


「しかし、メルの母親はどのような人なのだ? わっちは姿だけは見た事があるが、実際に会っていないから分からないぞ」

「とりあえず頭がおかしい人って思えばいいと思う」


 ため息をつきながら言った。まぁ約八十年間も娘を家に閉じ込めておくような親だ。過保護なのか、それとも掟みたいなものでもあるのかよく分からない。そんな一人での生活をしていたらつまらなくなって家を飛び出すのも無理はない。おそらくずっと前に町に来たのはメルちゃんを探すためだろう。

 しかし、最近町の雰囲気が少しピリピリしている気がする。

 前まであの酔っ払いのおじさん達がいただけだったのに、今では色々な人が朝から酔っぱらってそこらへんに座り込んでいる。治安が悪くなっているというか、何というか。

 外に出ている人も少なければ、いつもは朝から賑わっている市場も全く賑わいを見せていない。というかそもそも市場で出ている店が少しずつ減っている。パン屋さんもやってないみたいだし、他の飲食店もほとんどやっていない。数か月程経ったと思うけど、ここまで廃れていってるのには何か原因があるはず。

 北の門に着くと、いつもはいる門番の人達も誰もいなくなっていて、ただ単に上の大きい松明がぱちぱちと音をたてているだけの静かな門だった。


「あ、お兄ちゃん。そういえばセナさんは?」

「あー、実は呼びかけても全く返事がないんだ。かれこれ数週間くらいは経ってる」

「そう……」


 最近セナさんと全く顔を合わせていなく、少し心配になっていた。サン町の方でも同じような事が起こっているのだろうか……

 門から出て、メルちゃんの言う通り北東を目指していく。


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