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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第1-2章 【チュートリアル】
33/232

28話 『想い出話』

 私は話に聞いていただけで、実際に店内には入った事は一度もない。でもお店はお兄ちゃんの言っていた通り、少し質素な感じがする。


「こんにちはー!」


 メルちゃんが扉を勢いよく開けて元気な挨拶をする。すると、奥から男性が出てきて、爽やかな笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。おや、あなた方は……」

「マロンクリームパン買いに来ました!」


 男性は棚の上に置いてあるカゴを一つ取り、こちらに持って来た。おそらくあれがメルちゃんの言っていた美味しいパンなのだろう。私はあまりマロン系食べた事ないんだけど、どんな味がするんだろう。


「はい、何個いりますか?」

「ぜーんぶください!」


 全部食べるんかい。

 男性は頷き、トングでカゴからパンを取り出し、丸い円の中に不思議な文字が書いてある袋に入れた。


「あ、そういえば、湖での話って何だったんですか?」

「ああ、話してなかったですね。では、奥の部屋でパンでも食べながら話しましょう」

「分かりました」


 私たちは男性に連れられ、奥の部屋に行った。奥の部屋は、パンを焼くための(かまど)や、テーブルとイスが置いてあったり、キッチンがあったりと、生活感のあるスペースだった。そして私たちはイスに座り、メルちゃんが袋からパンを一つ取り出した。


「あ、代金は……」


 急いでポケットから、マミさんに作ってもらった花柄の小さい財布を取り出した。


「あ、今回は僕の話であなた方の時間を潰してしまうし、お代は半分の千ギフで結構ですよ」


 ラッキー! といえばラッキーなのだけど、私たちから押しかけておいて、半分なんて申し訳ない。

 まあ、めっけものみたいな感じに思っておこう。


「いいんですか?」

「いいですよ」


 男性は微笑み、透明なガラスのコップに水を注いで持って来てくれた。私は財布から銅貨十枚を渡し、申し訳なさそうに男性に手渡した。そして男性は、テーブルを隔てて私たちの前に座り話を始めた。


「これは数年前の話ですが……」


 — パン屋の男性の思い出 —


 その話は、男性がこのパン屋を始めるきっかけになった話だった。数年前、湖である生き物と出会い、恋をし、その生き物がいつか地上に来てくれると信じて、パン屋を開いたと言った。

 その生き物とは、


 ——人魚。


 人々には存在すら認知されていない。

 人間なのか、魚なのか、それとも怪物なのかも曖昧な存在であり、誰も知らない未知の生物。その人魚の女性に、パン屋の男性は恋をした。毎日湖に行き、彼女に会って、いつか彼女とずっと一緒にいたいと思って過ごしていたが、文化、環境など全てが違うため一緒になる事はできなかった。そしてある約束をしてから、彼女は一切湖に来なくなってしまって、また一人の生活がまた始まってしまった。

 今でもその人魚の女性が来るのを信じて、湖に行っていると言う。

 どこに住んでいるかも分からないし、どこから来たかも分からない。

 しかし、一つだけ知っている事があった。

 それは、名前。

 そしてその人魚の名前は——。


 — 終了 —


 話を聞き終えた私達は、男性にお礼をして、袋を抱えてパン屋を出て行った。もう17時を過ぎていて、早く帰らないと酒場の本業の方が始まってしまう。私たちは少し早歩きをして酒場に戻った。

 酒場に入ると、カグラさんとお兄ちゃんがイスに座って待っていた。私たちはガイルさんに「遅くなってしまってすみません」と言って、メイド服に着替え、準備に取り掛かる。


「随分と沢山買って来たな……」


 お兄ちゃんが少し引き気味に袋の中身を覗いて言った。それもその通り、パン屋さんでは話に聞き入ってしまい、結局私は食べず、メルちゃんも二個しか食べる事が出来なかったからである。


「あ、それ、みんなで分けて食べよう」


 私は白い皿を持ってきて、パンをわけた。でも一人三個だから、夜ご飯食べられなくなっちゃいそうだ。

 カグラさんとメルちゃんはすぐにパンを手に取り、食らいついた。お兄ちゃんは少し遅れてから、パンを口にする。スープが温まるまで私も食べてみよう。

 初マロンクリームはどんな味がするのだろうか。パンを掴み、口を大きく開けて一口食べてみる。パンにマロンクリームが多く入っていたので、口の周りにクリームが付いてしまった。しかし、パンはふわふわ、クリームは程よい甘さで、栗の味もしっかり引き立っていてとても美味しかった。

これがマロンクリーム……ハマりそう。

 そして十八時になり、仕事を終えた人や、依頼を終えた冒険者さんなどが段々と集まってきて、すぐに活気のある酒場になった。

 お兄ちゃんとカグラさんは、みんなの中に混ざり、騒ぎあっている。みんな楽しそうにしているので、私も楽しい気持ちになってくる。


「おーい、スープおかわりくれー」

「は、はーい! 」


 冒険者のパーティのひょろっとした男性騎士が、私を呼び止めてスープのおかわりを要求した。私たちは忙しいけど、魔物と命掛けで戦うこの冒険者さん達よりはマシな仕事をしているのだから、頑張らなきゃね! 

 そのうちマミさんも二階から降りてきて、みんなと一緒に飲んでいた。時間が経つのは早く、もう2時になり、大半の人が騒ぎ疲れ、酔い潰れ、お酒に強い仲間に背負ってもらいながら帰っていった。テーブルに置いてあるジョッキや皿を全て洗い場に置き、ガイルさんにすぐに綺麗にしてもらい、お風呂に入って自分の部屋に戻りすぐに眠りについた。

 パン屋の男性の話については、後に【外伝】として詳しい事を書きます。

今は本編に集中しようと思います!

でも、いずれ本編に・・・

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