表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/232

最終話 『引きニートの兄と更生するために異世界転生』

最終話です!

 セナに言われた通り、正常終了(リターンゼロ)と言った。

 目が回り、私はいつの間にか倒れてしまった。


 ぐらぐら、渦巻き、波線……。

 緑や赤、青と言った色で、様々な模様が見える。


 だが、不思議と怖くはなかった。



 〝絶対に戻れる〟



 何故か、そう信じれたからだ。


 ……嗅いだことのある臭いが鼻をつつく。

 顔に何か重い物が乗っかっているような気がする。

 でも、暗くて何も見えない。


 ……戻って、きたのだろうか?


 ――っ! 真二、真二はどこ!?

 真二に早く会わないと、真二は……っ!


 ほんの少し動いただけなのに、全身がビリビリと痛んだ。

 体に電撃が走っているみたいだ。


 痛みを感じながらも、私は頭についている物体に手を伸ばし、何とか頭の錘を取った。

 ……ぼやけていてあまりよく見えないが、VR(ぶいあーる)ゴーグルで間違いないだろう。


 真二の姿が見えない。

 目がぼやけて見えないだけかもしれないが、少なくとも、パソコンの手前にはいない。


 ……うぅ、寒っ。

 大きい窓が開いてるみたいだ。


 ……真二は、真二はどこに行ったんだろう……。

 仕事なのかな……でも、仕事はやめたって……。



≪ピッピッピッピッピー…………現在時刻は、7月7日、22時36分35秒です。おはようございます。ピッピッピー…………≫



 機械音声で時報が聞こえた。

 聞き覚えのある女性の声だ。

 ……どこで聞いたんだろう。

 パソコンから音が流れているみたいだけど……じゃなくて、真二だ、真二!


 一体どこにいるんだろう?

 仕事をしていないのであれば、今はこの部屋にいるはずだ。


 ふと部屋の入り口を見ると、()()()()()があった。

 ぼやけていて何も見えないが、ぐったりとして壁に凭れ掛かっているみたいだ。


 一体、なんだろう。


 皮膚がかみちぎられるような痛みに耐えながら、その()()に近づいた。

 揺らしても、何も起きない。


 しっかり見たいと思い、目を擦ってみたが、ぼやけは一向に直らない。

 ただ、触感でわかるのは、人型である、ということだけだ。

 心なしか、肌も見える。


 ……嗅いだことのある加齢臭がする。

 少し、腐ったようなにおいもする。


「……真二なの?」


 私の呼びかけに、その()()は反応を示さない。


「……どうしたの?」


 反応はない。

 冷たい。

 ……冷たい。

 ()()は、とても冷くなっていた。


 私は、口を小さく動かした。


「……ごめんね、真二。私なんかが現れちゃって」


 心なしか、真二が首を振ったように見えた。


「私は何で生きてるのかってずっと考えてたんだ。外の世界に出れば、華やかな世界(げんじつ)が待っている。そう思ってたけど、違った。外はもっと腐ってて、私の世界は、ただの『明るい現実(げんそう)』に過ぎなかったんだなって。それで、私はそんな醜い人を消しながら生きてきた。何の目的もなく。でも、私、ここに来て見つけたんだ。生きる意味を。真二に面倒を見てもらって、知らない世界(ゲーム)を沢山見せてもらって、やらせてもらって……真二、ありがとう」


 少し、顔が微笑んでいるようにも見えた。


「……真二、私と飛ぼう。あのベランダから。それで、新しい世界に行こう。こんな腐りきった世界ゲームなんてやめて、みんなが幸せに生きれるような、華やかな現実に」


 真二の首にかけてある、太い縄を外し、余力を振り絞り、真二と手をつないだ。


(軽い……)


 真二をベランダまで運んだ。


(ベランダの窓が開いていてよかった)


 漸く、全てが終わる。

 生きる意味を見つけられた。


 やっと、生きるために死ねるんだ。



 真二を起き上がらせ、脆くなった手すりに手をかける。

 そして、立ち上がった真二を抱きしめ――



 ――全体重を手すりに押し付けた。




 手すりは壊れて、私たちはそのまま落下した。


 落下中に目をあけて、ぼやけた真二の顔をよく見ながら、私は最期にこう言った。





 ――真二お兄ちゃん、ありがとう。大好きだよ――





 と。












 記憶はない。

 あの後、どうなったのだろうか。


 意識はある。

 でも、あの電撃のような痛みはもうない。

 どこかに座っているみたいだが……。

 なんだろう、とてもふかふかしている……。



 すると、パッと、今まで暗かった辺りが白く染まった。


 隣には、目を瞑って寝ている真二の姿があった。

 少し離れた場所には、耳の長い女性が私たちをまじまじと見つめながら、豪かな椅子に座っていた。


 そうして、その綺麗な女性は、私たちのことを見てこういった。


「ようこそ、転生の部屋へ――私の名前はシル……げふんっ、シラスと申します。これより、あなた方の処遇を決めたいと思います」


 勝手に話が進んでいるみたいだ。


「処遇って……?」

「別の世界に転生するか、天国で過ごすか、です」


 ……転生、本当にあったんだ。


「……転生します。この人と」

「……ええ、分かりました。では、どのような世界で、どのような転生方法がいいでしょうか」


 色々と状況が理解できていないが、私の決めたことは言っておこう。


「……誰しもが幸せに人生をおくれる世界で、私たちは……赤ん坊からやり直させてください。もちろん、兄妹として――」


 そう言うと、その女性は軽く頷いて微笑んだ。


「分かりました。それでは、あなた方を新たな世界に転生させます。もちろん、幸せな家庭へと……では、いってらっしゃい――キョウカさん、シンジさん」



 そうして、私たちは不思議な光につつまれた――――






                                   ―おわり―

これで、『引きニートの兄を更生させるために異世界転生』は完結となります!

ここまで読んでくださり有難うございました! 感謝しかありません!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ