最終話 『引きニートの兄と更生するために異世界転生』
最終話です!
セナに言われた通り、正常終了と言った。
目が回り、私はいつの間にか倒れてしまった。
ぐらぐら、渦巻き、波線……。
緑や赤、青と言った色で、様々な模様が見える。
だが、不思議と怖くはなかった。
〝絶対に戻れる〟
何故か、そう信じれたからだ。
……嗅いだことのある臭いが鼻をつつく。
顔に何か重い物が乗っかっているような気がする。
でも、暗くて何も見えない。
……戻って、きたのだろうか?
――っ! 真二、真二はどこ!?
真二に早く会わないと、真二は……っ!
ほんの少し動いただけなのに、全身がビリビリと痛んだ。
体に電撃が走っているみたいだ。
痛みを感じながらも、私は頭についている物体に手を伸ばし、何とか頭の錘を取った。
……ぼやけていてあまりよく見えないが、VRゴーグルで間違いないだろう。
真二の姿が見えない。
目がぼやけて見えないだけかもしれないが、少なくとも、パソコンの手前にはいない。
……うぅ、寒っ。
大きい窓が開いてるみたいだ。
……真二は、真二はどこに行ったんだろう……。
仕事なのかな……でも、仕事はやめたって……。
≪ピッピッピッピッピー…………現在時刻は、7月7日、22時36分35秒です。おはようございます。ピッピッピー…………≫
機械音声で時報が聞こえた。
聞き覚えのある女性の声だ。
……どこで聞いたんだろう。
パソコンから音が流れているみたいだけど……じゃなくて、真二だ、真二!
一体どこにいるんだろう?
仕事をしていないのであれば、今はこの部屋にいるはずだ。
ふと部屋の入り口を見ると、大きい何かがあった。
ぼやけていて何も見えないが、ぐったりとして壁に凭れ掛かっているみたいだ。
一体、なんだろう。
皮膚がかみちぎられるような痛みに耐えながら、その何かに近づいた。
揺らしても、何も起きない。
しっかり見たいと思い、目を擦ってみたが、ぼやけは一向に直らない。
ただ、触感でわかるのは、人型である、ということだけだ。
心なしか、肌も見える。
……嗅いだことのある加齢臭がする。
少し、腐ったようなにおいもする。
「……真二なの?」
私の呼びかけに、その何かは反応を示さない。
「……どうしたの?」
反応はない。
冷たい。
……冷たい。
真二は、とても冷くなっていた。
私は、口を小さく動かした。
「……ごめんね、真二。私なんかが現れちゃって」
心なしか、真二が首を振ったように見えた。
「私は何で生きてるのかってずっと考えてたんだ。外の世界に出れば、華やかな世界が待っている。そう思ってたけど、違った。外はもっと腐ってて、私の世界は、ただの『明るい現実』に過ぎなかったんだなって。それで、私はそんな醜い人を消しながら生きてきた。何の目的もなく。でも、私、ここに来て見つけたんだ。生きる意味を。真二に面倒を見てもらって、知らない世界を沢山見せてもらって、やらせてもらって……真二、ありがとう」
少し、顔が微笑んでいるようにも見えた。
「……真二、私と飛ぼう。あのベランダから。それで、新しい世界に行こう。こんな腐りきった世界なんてやめて、みんなが幸せに生きれるような、華やかな現実に」
真二の首にかけてある、太い縄を外し、余力を振り絞り、真二と手をつないだ。
(軽い……)
真二をベランダまで運んだ。
(ベランダの窓が開いていてよかった)
漸く、全てが終わる。
生きる意味を見つけられた。
やっと、生きるために死ねるんだ。
真二を起き上がらせ、脆くなった手すりに手をかける。
そして、立ち上がった真二を抱きしめ――
――全体重を手すりに押し付けた。
手すりは壊れて、私たちはそのまま落下した。
落下中に目をあけて、ぼやけた真二の顔をよく見ながら、私は最期にこう言った。
――真二お兄ちゃん、ありがとう。大好きだよ――
と。
☆
記憶はない。
あの後、どうなったのだろうか。
意識はある。
でも、あの電撃のような痛みはもうない。
どこかに座っているみたいだが……。
なんだろう、とてもふかふかしている……。
すると、パッと、今まで暗かった辺りが白く染まった。
隣には、目を瞑って寝ている真二の姿があった。
少し離れた場所には、耳の長い女性が私たちをまじまじと見つめながら、豪かな椅子に座っていた。
そうして、その綺麗な女性は、私たちのことを見てこういった。
「ようこそ、転生の部屋へ――私の名前はシル……げふんっ、シラスと申します。これより、あなた方の処遇を決めたいと思います」
勝手に話が進んでいるみたいだ。
「処遇って……?」
「別の世界に転生するか、天国で過ごすか、です」
……転生、本当にあったんだ。
「……転生します。この人と」
「……ええ、分かりました。では、どのような世界で、どのような転生方法がいいでしょうか」
色々と状況が理解できていないが、私の決めたことは言っておこう。
「……誰しもが幸せに人生をおくれる世界で、私たちは……赤ん坊からやり直させてください。もちろん、兄妹として――」
そう言うと、その女性は軽く頷いて微笑んだ。
「分かりました。それでは、あなた方を新たな世界に転生させます。もちろん、幸せな家庭へと……では、いってらっしゃい――キョウカさん、シンジさん」
そうして、私たちは不思議な光につつまれた――――
―おわり―
これで、『引きニートの兄を更生させるために異世界転生』は完結となります!
ここまで読んでくださり有難うございました! 感謝しかありません!




