17話 『心は広い。肩身は狭い』
帰る途中セナに話を聞いたのだが、どうやらこの世界は日本人が創り出したらしい。誰かまでは教えてくれなかったが。なつめには最初に来て俺が寝ていた時に話していたらしい。だから侍などという者もいるとかなんとか言っていたが、今の世界観とまるで合ってないと思うのは俺だけだろうか。カグラはそんな事は全く気にしていないらしく「わっちはわっちなのだ」と何気ない顔をしていた。出身やタレント能力については、後で教えると言っていた。
この大陸内らしいが、侍が何人も住んでいる集落とかなのかな?
しばらく歩くと町の門が見えてきて、酒場に戻るとガイルさんとマミがいた。
何かの作業をしている様で、マミはイスに座り何かを複製していて、ガイルさんはそれをカウンターの裏にある部屋の中に持って行っている。
確かあそこはキッチンだったような気がする。
しかし何を運んでいるんだろう。かごにたくさん入れているみたいだが、今まで近くで物(主にゲーム)を見てきたものだから、目が悪くなってぼやけて見えない。
目が良くなる魔法とかないか。
俺は作業をしているガイルさんに話をかけた。
「あの、ガイルさん。何してるんですか?」
ガイルさんは俺たちに気づいたらしく、カウンターにかごを置き、こちらに近づいてきた。
「あぁ、実はお昼は喫茶店として開店しようと思っているんだ。で、マミに色々作ってもらっている。それと……何で一人増えてるんだ?」
酒場もやってカフェもやるのか! でもマミが創るものだし、さぞかし人気は出るだろう。というかガイルさんコーヒーとかお昼に合ったもの作れるのか?
「あ、この人はデンジャラスエッグの時にお世話になった侍の」
「カグラと申す!」
カグラが先に、俺が紹介する前に言ってしまった。いつも通りなら俺がやるつもりだったのに! と、そんな事は気にしない。
俺だって心は広い。
……肩身は狭いが。
「侍か。北の山の麓にある【サンソン集落】出身か?」
北の山? コルク川が流れてきている山の事だろうか。しかしガイルさん知っているとは、行った事でもあるのかな?
でも、大陸の四分の一を占めている山なのだし、集落の一つや二つあるのだろうきっと。
「その通り! なのだ!」
カグラがなぜか自信満々に胸を張っている。そんなに胸を張る事でもないとは思うけど。
マミが席から立ちあがり「本気のこぴー、本気のこぴー」と何回も何回も連呼してテーブルに置いてある物を複製しまくっている。テーブルから溢れているので、さすがに見えた。あれは朝食べたジャムだ。あのジャムを使って何かつくるのだろうか。
「マミ、ありがとな。これはお礼の例の品だ」
ガイルさんはマミにごつごつとした小さな袋を渡した。
例の品とは何のことだろうか。マミは袋を開き中身を見て、ニコニコしながら二階に上がっていった。
何が入っていたのかガイルさんに聞いてみよう。
「ガイルさん。あの袋何が入っていたんです?」
ジャムをせっせと運んでいる。話は一応聞いていてくれたみたいで、運びながら話してくれた。
「ああ、あれは【ゼドラルガル鉱石】っていうんだ。マミがどうしても欲しいと言うから、昔から俺が持っていた一個をあげたんだ。今じゃ使うところないしな」
ゼドラルガル鉱石って確かメルが杖に使われてるとか何とかで言ってたな。そんなに貴重なものなのか? しかし、これだけのジャムを出して小さい袋一つなのだし、マミだったら二十万ギフとか請求しそうだ。
おそらく相当貴重なのだろう。
「カナタも手伝ってくれ。一人じゃこの量運ぶのはきつい」
「あ、分かりました!」
「わ、わっちも手伝うぞ!」
カグラが慌てて話に入ってきた。というかデンジャラスエッグ食べなくていいのか? 町に行ってからいっぱい食べるとか言っていたが、結局食べないのか。
それからしばらくかごを使ってジャムを運んだ。一体どんだけの量があるのか、もう何十往復もした気がするのにまだ全部運べていない。それに、もう何時間経っているはずだけど、なつめとメルはまだ帰ってこない。
ジャムを全て運び終えた頃、メルとなつめが帰ってきた、のだが……
「なんだ……その格好……」
二人は黒と白を基調としたメイド服を着て赤面で飛び込んできた。
「お兄ちゃんこれは……ガイルさんが! 」
「そ、そうです! ガイルさんにこれ買えって言われて着て帰って来いって言われて……! 」
二人は座り込み、息を切らしている。おそらくできる限りの全力疾走で駆け抜けてきたのだろう。というかガイルさんがこの服を選ばせたって、まさかそんな趣味があるのか!? いやいやいや、まさか勇者たる者そんなメイド服を選ばせたりするなんてないはずだ。俺の勝手な偏見なんだが……
「お、戻ってきたみたいだな。それになかなか似合うじゃないか。これで集客もうまくいくはずだな」
あ、ああ……そうだよな。私欲の為にメイド服を着させる事なんてないだろう。おそらくカフェを盛り上げる為だと思う。
しかしそれだと男ばかり集まりそうな予感がするのだが、そこは考慮していないのであろうか。
ガイルさんがメルとなつめに近づき、じっくりと眺めている。
「それによく似合うじゃないか。やはり俺の見込みに狂いはなかったな。絶対に可愛くなると思った」
二人は顔がトマトのように真っ赤になり、後ろに倒れこんでしまった。可愛いと思って仕事着に採用したって事は、やっぱり見るのも目的の一つだったのか。ガイルさんって昔どんな人だったのだろうか。
後でイリアさんにでも聞いてみようかな。
「あ、そういえばデンジャラスエッグ取ってきたんですけど、これどうします?」
ポーチに入れてあったデンジャラスエッグを全てテーブルに出した。カグラは目を輝かせながら早く食べたそうにうずうずしている。甘い香りに気付いたのか、倒れていたメルとなつめも立ち上がり、テーブルに近づいた。
「結構たくさんあったんだな。さて、これ半分程貰えるか?」
「あ、え? いいですけど、何かに使うんですか?」
ガイルさんはカウンターの下から小包を持ってきて、俺に手渡した。中には一枚の金貨が入っているみたいだ。依頼の報酬なのか?
「それは、依頼の報酬の三千ギフと、エッグ買取代を合わせた金だ。で、話を変えるが、実はこのエッグのエキスを抽出して、甘いを作ろうと思っててな」
あ、これ一万ギフなのか。なんら日本とは使っている素材以外あんまり変わらないみたいだ。しかし、実から甘いエキスが取れるなんて、爆発すると聞いた時には一切思わなかったのだが。
「早く食べよう!」
カグラが既にイスに座っていた。なつめもメルもいつの間にか座っていた。
「わかったよ」
事実、俺も食べてみたい。
椅子に座って、二十五個あったので、ガイルさんの分も含めて五個ずつわけた。
「「いただきます!」」
俺となつめは手を合わせ、メルとカグラはすぐ食べてしまった。この風習は純日本人だけなのか。
「あまぁい」
先に食べた二人はほっぺに手を当て幸せそうな顔をしている。あれ? なつめはもう3つも食べたのか?
なつめの方を見るとテーブルには二つしか残っていなかった。食べたとしても早すぎる。もしかしてポーチの中に入れたのか?
頬杖をついて何かを考えているみたいである。
そういえばさっきから自然に四人で同じテーブルを使っているのだけれど、メルとなつめは何でカグラがいる事を疑問に思わないんだ。
普通だったら「この人誰?」みたいな感じで聞いてくると思ったのだが。少々調子が狂ってしまう。
「さて、食べ終わったら夜の為に準備をするぞ。カナタもカグラも休んでていい。明日から依頼いっぱいくると思うから明日に備えて休んでおけ。なつめとメルはその格好のままで今日からバイトだ」
メイド服のままでやらせるのか。でも店の為だから仕方ないよな。というか、何でカグラもなんだ?
「あ、そういえばあなたは?」
さっきまで考え事をしていたなつめがカグラに話をかけた。
今頃かよ!
「あ、わっち北の山のサンソン集落に住んでいるカグラと申す! この度仲間になった」
え? なんで勝手に仲間になっちゃってるの? 俺何も言ってないんだけど。
「そうなんですか! 美人で強そうな人が仲間に来てくれてうれしいです!」
メルはすでにカグラに懐いているみたいで、カグラの方にイスを寄せて、なぜか抱きついて頬を胸にスリスリしている。
「この人がザトールに来る途中で、ゴブリンに襲われている私を助けてくれたのー」
お前は元の飼い主に捨てられて、孤独の中新しい飼い主に拾われたことを喜ぶ犬か。
カグラはちょっと照れ臭そうに笑っている。
女剣士というか、女侍だったんだな。
隣を見ると、なつめも嬉しそうにしている。
「改めて、よろしく頼むぞ!」
カグラがすかさず話を強引に進めた。
俺の意見と決定権は公使されることはないのであろうか。
そして、ぐだぐだとしたまま時間だけが過ぎていった。