表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第3-2章 【7日間とちょっとという刻限】
214/232

27話 『使役』

今回、短めです。

 朝目覚めると、私の前には胡坐をかいた男がいた。


 その男は、横たわる私の腕にタバコの熱い方を擦り付ける。

 熱い、痛い。

 この熱さにはまだ慣れない。


「飯、作れ」


 そう言って、私を無理に立たせた。

 境界線とびらを越え、私の台所に立たせ、本を一冊地面に置いた。


「これ見て作れよ、分かったか?」


 私はその本を拾い上げ、表紙を見た。


『お手軽クッキング』表紙には大きくそう書かれていた。

 表紙には、様々な料理が描かれている。

 名前は知らないが、どれも美味しそうなものばかり。


 本をぺらぺら捲り、ある一枚のページで手が止まる。


『鮭のムニエル』


 料理が映った写真の上にそう書かれていた。


 鮭? 鮭というのは、どういったものなのだろう。


「冷蔵庫はその白いのだ。中のもの適当に使って作れよ」


 そう言って、男は衣嚢に手を突っ込み、リビングのソファーでくつろぎ始めた。

 床には、大量のゴミ袋が散らばっていた。

 異臭がする。


 私の檻よりももっとひどい。

何もかもが腐ったような臭いだ。


 冷蔵庫は酒臭かった。

 空き缶もあれば、賞味期限がとっくに過ぎている食パンもある。


 その中から、オレンジ色の切り身が二つ入った白い箱と、歪な形をしたバターを取り出す。


 本に描いてある切り身はこんな色をしているから、間違いではないだろう。


 本の通りに、まな板の上に切り身を乗せ、胡椒を塗した。

 最後にバターを溶かして塗りたくり、熱したフライパンの上に乗せて焼いた。


 良い香りがしてきて、涎が垂れてきそうだった。


 それをヒビの入った皿の上に乗せ、その男の待つソファーの近くに持っていく。


「できたか。上出来じゃないか」


 そう言い、男は私の頭を撫でた。

 何か、嬉しく感じた。


「じゃあこれ、お前の分な」


 そう言い、皿を奪って腐った食パンを渡してくる。

 男の目をみた。


「なんだ? その反抗的な目は……」


 そうしたつもりはなかったが、私は自然とその男を睨んでいた。


「誰が教えてやったと思ってるんだ!」


 そう言い、皿を置いて顔を殴った。

 地面に倒れ込み、男に引きずられて、私は檻の中にしまわれた。


「今日は飯抜きだ。明日も作らせるからな」


 そう言って、男は私の脚を蹴って扉を閉める。

 カチッと、鍵を閉める音がした。


 自分のくびを締め付けたくなった。

 鎖でも首輪でもいい、何でもいいから、自分の頸を。


 私は、本当に煌びやかな世界にやってきたのか?

 自分の目を疑った。


 いいや、紛れもなくこれは現実だ。


 これが私の【燦爛けがれた世界】である。


 昨日と今日は別世界。

 もう、私の今日には何も残っていない。


 後に残るのは絶望だけ。

 先に去るのは希望のみ。


 私は結局、この檻からは逃れられないのだ。


 今までにない絶望を感じた。

 それはもっと強く、見えない縄が私の頸を締め付ける。


 息苦しい。

 体が次第に冷えてきて、震えが止まらなくなった。


 その震えを止めるため、腕を交差させて肩を持つ。

 だが、震えは止まらない。


 呼吸が荒くなってくる。

 息が吸えなくなってくる。

 目が段々乾いてくる。


 全身から、汗がびっしょりと染み出てきた。





 ――『〇せばいいんじゃない?』


 と、耳元で囁く私の声が聞こえた。

 その瞬間、体の震えが止まる。



『アレを〇せば、あなたは晴れて自由の身』

「でも……」

『……でも、って……』

「私は、もうこのままでいいよ……」

『いいの? このままで』

「うん……」

『……そう』


 それだけ言って、その声は消えていった。


 再び、体の震えが始まった。


 寒い、寒い。

 自分の体が冷たい。

 氷のように固まっている。


 ……先ほどの声は誰だったのだろう。

 天使か? 悪魔か?


 ……もう、どうでもいいか。

次話もよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ