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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第3-2章 【7日間とちょっとという刻限】
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24話 『気のせい』

 夜までの時間、私は読書をしながら過ごした。

 でも、なんだか堅苦しいことを書いてある本ばかりで飽きたから、結局昼寝した。


 本なんて全然読んだことないし、まず見たこともない漢字は読めない。

 それに、英語でも日本語でもない別の言語で書かれたものもあった。


 読めるか、こんなの。


 そもそも、私は何でこんなところにいるんだ。

 ゲームの世界に入るのは、VRでもできないはず。

 意識がどうたらとか言っていたが、何一つ理解ができていない。


 何のために作られた世界なんだ?

 この体の持ち主のなつめは、元々どこに住んでいたんだ?


 ……考えるだけ無駄かもしれない。

 世界の真理をつくような哲学は、私には向いていない。


「夜ごはんできましたよー」


 そう言ったのは、キッチンにいたセリーゼだった。

 塩の香りが空気の橋を渡って、鼻の中にスッと入ってくる。


「あの、また塩焼きですか?」

「すみません……これしかできなくて」


 苦笑いをして、魚の乗った皿を机に二つ置く。


「いただきます」


 セリーゼが、器用に箸を使って魚をつつく。


「普段、これしか食べないんですか?」

「そうですね」

「飽きません?」

「飽きますけど、お母さんに教えてもらったの魚の焼き方だけなので」


 サバイバルでもしていたのかこの家は。


「お母さんはどこに?」


 そう訊くと、セリーゼは目を細めて少し首を下に傾けた。


「……お父さんと同時期くらいに、亡くなりました。突然の病で」

「……すみません」

「あぁいや、キョウカさんが謝る必要なんてないんです。普段から疲れていたみたいですし、お父さんが失踪してショックを受けていたので、それもあると思います」

「そういえば、お父さんの失踪について、何かわかりました?」

「いいえ、まだ何も」

「そうですか……」


 部屋は森閑しんかんとしていた。

 会話がなければ当たり前だが、こうなると何を話していいかが思いつかない。


「あ、そうだ」


 と、魚を口に含みながらそう言ったセリーゼ。

 掌を叩き合わせて、私の手を取る。


「明日、この町をご案内します。あ……予定とかあります?」

「いえ、特にないですけど……」

「なら良かった! この町の魅力をじゃんじゃんお伝えしちゃいますよ~!」


 眩しいくらいの笑顔になったセリーゼは、すぐに魚を平らげた。

 それに続いて、私も焼き魚を頬が張るくらいまで詰めて食べた。


 セリーゼは私の顔を見て笑っていた。

 いや笑うな。


 真二にも笑われたんだ。

 「キョウカ、急がなくてもいいのに頬張って食べるよな」って。



 その後、夕食を食べ終えた私たちは、各々の時間を過ごしてその日を終えた。




 ――朝。


「よーし、案内するもの全部このノートにまとめてきました! これで魅力をばっちり知ってもらえるはずです!」


 気分が上がっているのは私ではなく、セリーゼの方だった。

 無理やり起こされて、外に出た。

 眠い。


「さぁ行きましょう! まずは腹ごしらえです!」


 そう言い、私の手を引っ張る。


 町の中は相変わらず、人間と人魚が行き交っていた。

 だが、何か違和感を感じた。


「あの、セリーゼさん。なんだか、人の数少し減っていませんか?」


 そう言うと、セリーゼは進むのをやめてピタッとその場に止まる。


「き、気のせいですよ。人間だって消えることもあります。ほら、私のお父さんだって人間で失踪しましたし……」


 感情の変化が著しいな。


「と、とりあえず私たちは私たちです!」


 そう言い、先ほどよりも力を込めて私の手を引く。


 そうして来たのが、お食事処『カイゼリア』。

 どこかで聞いたことがあるような名前だが、そこは触れないでおこう。


「いらっしゃいませー」


 三角巾を被った人魚の女性が、私たちを席に案内した。


「お決まりでしたら、言ってくださいね!」


 満面の笑みでそう言われた。


「メニューはこれで」


 そう言い、バインダーのようなものに入れられた紙をみせてきた。


「あの、人魚って女性しかいないんですか? 私、今まで女性しか見てないんですけど」

「ええ。人魚は女性だけしか生まれません。人間の男性と契りを結び、子を授かる……。そうやって、人魚は生き永らえてきたのです」

「人魚の町はここだけなんですか?」

「……今は、ですね。昔はありました。人魚は長寿ですが。一人の子しか産めないので、数が減っていくんです」

「……そうだったんですか」

「他の魚みたいに卵をポンポンと出せないんです」


 なんかそれはそれで嫌だな……。


「何にするか決まりましたか? 私は、『海の生物の住処』にするつもりですが」

「あ、私もそれでいいです」


 セリーゼは三角巾の女性を呼び、「これ二つお願いします!」と言った


「楽しみですね! うふふ」


 今まで見た笑顔よりも輝いている。

 私には、そんな笑顔はできないな。


「お待たせしました~」


 早っ!

 30秒くらいでもうできたのか。


 様々な魚介類がふんだんに使われた料理だ。

 下の方にはスープもあり、とても良い匂いがする。


 スプーンでスープを掬い、口の中に滑り込ませた。


「あ、美味しいです」

「ですよね! これ、私のおすすめなんです。はむはむ」


 右手にはスプーン左手にはフォークを持ち、がつがつとそれを食べている。




「ありがとうございました~! またいらしてくださいね!」


 三角巾の人魚に言われ、私たちは店を出た。


「さぁ次は、私が好きな場所に行きますよ!」


 そう言い、ウキウキしながら海中を泳いでいった。


 うーん、やはり不思議な光景だ。

 人魚といえ、空気のない水の中を泳ぐなんて……。


 ……ともかく、セリーゼについていくことにするか。


次話もよろしくお願いいたします!

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