23話 『ムニエル』
今回はだいぶ短めです。
「冷蔵庫の中身、魚とカレールーしかありませんでしたけど」
まな板に置かれた一匹の鮭を見つめながら、私はそう言った。
野菜はないのだろうか。
「野菜とかありませんか」
「サンゴならありますけど……」
「……サンゴって食べれるんですか?」
「一応、美味しくはないですけど」
一体、どの口が言っているのか……。
「うーん……。そうなると、作れるものが限られますね……。調味料は無駄に色々あるみたいなので、塩焼きよりはいいのが作れそうなんですけども……」
そうして、私は魚を軽くさばいた。
水色の鱗を剥がし、何となく、覚えている感覚で魚をさばいた。
……いつ、こんなことができるようになったのだろうか。
料理なんてしたことも教えてもらったこともないはず……。
なのに、二日に一回くらいやっていたような気がしてならない。
「うわぁ、お上手ですね。私だったら鱗をとってそのまま焼いちゃいます」
「……鱗あると、料理しにくくありませんか?」
「焼き魚しかつくりませんから、いいかなって」
こりゃひどい、重症だ。
魚は焼けばなんでもいいと思っているのだ。
鱗を取るだけで、魚のうまみがまた一層深まるというのに。
「よし、じゃあ今日は、魚の美味しい焼き方を教えます」
ガッツポーズをしながらそう言い、セリーゼに顔を向ける。
なんでか、セリーゼはきょとんとしていた。
「さっき、魚と料理は別物っていいませんでしたか……?」
「今回は例外です。魚しかないので、ムニエルを作ろうと思います。奇跡的に、胡椒とかバター的なものはあるみたいなので」
「……前に、地上から取ってきましたからね」
「地上に?」
「ええ。以前は上がれたので……と、早くしましょう、その……ムニエルというやつを」
そして私は、ムニエルの作り方を比較的丁寧に説明しながら調理をした。
魚を食べやすい大きさに切り分け、塩胡椒をふる。
それからバターを表面に付け、フライパンで焼いて完成。
「どうですか? 手軽で美味しい魚の焼き方」
「お、美味しい……こんなの食べたことありません」
逆に今までどんなものを食べてきたのか。
どうやって生きてきたのか……。
大皿の上に置かれた坂のムニエルを、セリーゼが次々と口にする。
そうだ、あのペンダントのこと、セリーゼに訊こうと思っていたのだった。
「セリーゼさん、あの、これなんですけど……」
ポーチからペンダントを取り出し、セリーゼの前に差し出した。
「……! どこで見つけましたか!? これ!」
ペンダントを私から奪い取り、中身を確認するように開けた。
「西の方で魔物と戦った時に……」
「……これ、私のお父さんが持っていたものなんです。数か月前から行方知れずで……」
「これ、その魔物を倒した時に落としたものなんですけど……」
「そうですか……見つけてくださっただけでも感謝です」
そう言い、ペンダントを首にかけて、大皿を手前に押して立ち上がる。
「私はもうお腹いっぱいなので、あとはキョウカさんが食べてください。私は部屋でお仕事がありますので」
そう言って、自分の部屋の中に入って行ってしまった。
それにしても、なんであの魔物がペンダントを持っていたのだろうか。
数か月前に行方知れずになったことと、何か関係性があるかもしれない。
そんなことを考えながら、ムニエルを箸で自分の口の中に運んだ。
今は食事をとるのが先決だ。
次話もよろしくお願いいたします!




