21話 『この手で』
「マジッククリエイト」
〈魔法創造陣オン。属性、位設定、魔力消費量、効果・威力の設定、最後に名称の順にお決めください〉
一気に〆てしまいたいのは山々だが、それでは面白みがない。
少しずつ……少しずつ削っていこう。
まずは一つ目。
セナは防御力がどうたらこうたらとか言っていたかな……。
「属性はなし、上位魔法で魔力消費もなし。効果は全ての防御力を0にする。威力は……」
攻撃はいらない。
私の手であいつを殺してやるのだから。
「――なし。名前は『ロスト』」
1時間くらいで全部クリアしたRPGに出てくる魔法の名前だ。
相手のステータスを減少させる魔法で、一番使っていたからよく覚えている。
〈――魔法の創造が完了しました〉
「続けて」
〈魔法の創造を続けます。属性――〉
「なし、上位、消費量は0。効果は自分のステータスの超強化。威力はなし。名前は『ステップ』」
ステータスアップを略した名前だと、とあるゲームで言っていた。
〈魔法の造像が完了しました――。続けて創生しますか?〉
女性の機械音声は、私の意志を読み取ったかのようにそう訊いてきた。
「もちろん」
〈……それでは、同じように順番にお決めください〉
……不思議と、自然な会話が成り立っている。
「なし、下位。消費量は0。効果は敵の移動速度の減衰。威力はなく、名前は『アイズ』」
適当に名前をつけた。
「これで終わります」
〈……魔法の創造が完了しました〉
自分の下にあった青い光は、声とともにスッと消えてしまった。
「グゥゥゥ……」
その生物は、鋭く尖った長い爪を地面に擦り付けながらやってきた。
あれ、あんなに爪長かったかな……。
まぁいいや。そんなこと、今更関係はない。
「グァァァ!」
それは地面を蹴って、凄まじい速度で向かってきた。
私の真後ろに回り込んできたそれは、鋭い爪を私めがけて思い切り横に振る。
その攻撃を避け、ロストを唱える。
それの体は青く光り、鱗がぽろぽろと落ち始めた。
成功したようだ。
「ググゥゥゥゥ……」
動物が相手を威嚇するような声を出している。
その隙を逃さんとばかりに、私はアイズを唱えた。
すると、その生物の動きは、先ほどとは比べ物にならない程鈍くなった。
攻撃を仕掛けてくるも、簡単に避けることができる。
これで準備が整ったと言っても過言ではないだろう。
さぁ、終わりの始まりだ。
「ステップ」
そう言うと、体が赤い光に包み込まれた。
体に力が宿った感覚はない。
少し身軽になったくらいか。
私はその生物が攻撃をして背を向けたのを確認し、それの左腕に斬りかかった。
気持ちいいくらいに綺麗に切断された腕が、くるくると宙を舞う。
音もなく地面に落ちた腕は、微動していた。
その生物は唸り声をあげ、私を鋭い目でギロっと睨みつけた。
そしてまた、片方の腕で私に攻撃を仕掛ける。
懲りずに再び攻撃を仕掛けてくるそれの攻撃を避け、私はもう片方の腕を断ち切った。
その生物は地面に倒れ、うつ伏せのまま浅い息を吐く。
断面からは、緑色の血液か何かが大量に溢れ出ているみたいだ。
このまま放置しておけばきっと死んでしまうだろう。
だが、こんな陳腐な始末、私はしたくない。
自然に死なせるんじゃない。
殺すのだ。
これを、確実に。
その生物に近づき、背中を本気で踏みつけた。
「ギガァァァ!」
口から液体を吐き出したそれは、白目を剝いていた。
剣先を下に向け、大きく振り上げる。
そして、力いっぱいに剣を降ろし、体に何度も何度も突き刺した。
グサ、グサ、グサ、グサ……。
閑寂な空間で、その生々しい音だけが響く。
その生物が動かなくなっても、私は幾度となく剣を刺し続けた。
*
「……縺ェ縺、繧!」
私を我に返したのは、メルの声だった。
目の前が緑色で何も見えなくなっていたが、その生物の姿は無残な姿で息絶えていた。
「もういいよ……、やめて、やめてよ。もう見たくないよ……縺ェ縺、繧のそんな顔……」
メルは、後ろから抱きかかえながら涙を流していた。
「……本当に縺ェ縺、繧なの? ねぇ。本当に、私の大好きな縺ェ縺、繧なんだよね?」
「…………うん」
そう答えるしかなかった。
「……キョウカさん。セナさんの治癒は終わりました。今ショックで気を失っちゃっているので、一先ず町に戻りましょう」
マミがそう言ってきたので、私はコクリと頷いた。
「あ、でもその前に一つ」
マミが人差し指を顔の横で立て、苦笑しながら、
「その服、前の白い装備に戻しましょう? 汚れてますし」
と言った。
紫色の服は、前面が緑色に染まっていた。
ああ、あれの液体がついているのか……。
そういえば、前の服とは一体なんだろうか。
この服、結構気に入っていたのだけれど……。
――すると突然、着ていた装備が光り出した。
閃光が辺りを包み込んだ。
残光が消えたのを確認して目を開けると、私の装備は白いものに変わっていた。
何故か、髪の毛は結われている。
そうはならんでしょ。
「……シンデレラみたいですね」
「シンデレラ? なんですか?」
「……」
シンデレラ……? 誰のことだろう。
「ともかく、町へ戻りましょう。セナさんは私が運ぶので」
マミがセナを担ぎ上げ、カナタと呼ばれる黒い人間と歩いていった。
メルは光に驚いたせいか、私から手を離していたようで、後ろで俯いていた。
「……」
そのまま、一言も話さず静かに歩いて行ってしまった。
……私の足元にあるぐちゃぐちゃの中に、きらきらと光る何かがある。
ペンダントだ。
これはあれだ。
真二がぼそぼそと何かを言っていた。
……ミサイルペンダント……、いや、ロケットペンダントだったかな。
……拾ってみたのはいいものの、液体がぬるぬるしていてうまく開けない。
セリーゼの家で液体を洗い流して、中を覗いてみることにしよう。
そうして、私はポーチの中にそのペンダントを入れ、マミについていくように歩いて行った。
次話もよろしくお願いします!




