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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第3-1章 【海中の大陸・セリーゼ】
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18話 『シックスセンス』

 窓もないピンク色の貝殻の家に着き、呼吸を整えるために深呼吸をする。

 直観だが、怒られそうだと思った。


 これが人間の第六感――通称〝シックスセンス〟というものか。


 ちょっとかっこいい。


 息をのみ、取手を捻り扉を開けた。

 変な空気が漂っている。


「あ、どこ行ってたんですか! こんな置手紙だけ残して!」


 そう怒号を飛ばしたのは、ソファーに座りながら読書をしているセリーゼだった。

 まぁ『ちょっと出かけてきます』だけ書いて、夜遅くにもなってしまったのだし、怒られるのは当然だ。


「はぐれた仲間を探してまして……」

「だったらそう書いてくれないと! 心配しましたよ、もう」


 両方の頬を膨らませている。


「いいですか? 夜は危険な魚類が沢山出るんです。アンコウザメとかサバクザメとかキサメとかカメとか――」


 と、何故かセリーゼの説教が始まった。

 反抗期を迎えた娘が、門限を通り越して遊び、帰ってきたときに怒鳴りつけるお母さんみたいだ。


 以前、ゲームで疑似的に体験したから、何となくわかる。


「兎に角。夜は危険なんです。だから、外には出ないでください。お願いします」

「はい……」


 何も反論できず、その話は唐突に終わった。


「それはそうと……ご飯作ったのですが、食べます? そっちの台所の鍋にあると思います」


 そうそう、さっきから甘いような酸っぱいような独特な匂いが部屋に充満していたけど、これってセリーゼさんが作った晩ご飯の匂いだったんだ。


「あ、この匂いって」

「そうです。セリーゼさん特製『魚介カレー』。チョコレートと甘酒とカレールーや魚介類をふんだんに使って、隠し味に醤油とラー油と酢を入れた最高の一品ですよ。さっき食べて、ちょっと『うっ』ってなりましたが、味は確かです」


 どこをどう聞いて何を食べたら『最高の一品』なんてフレーズが出てくるのか。

 ついでに、味は確かって自信もどこから出てくるんだ。


「食べません? よそいましょうか?」

「い、いや、私は止めておきます。カレーあんまり好きじゃなくて……あ、そもそも『カレー食べたら死んでしまう病』なので、無理です」

「そうですか……残念です。私だけでは食べきれないので、皆さんにお配りしないと……」


 ……明日は死人が出そうだ。


「お仲間さんは見つかったのですか?」


 本棚に読んでいた本を戻しながらそう言った。


「はい、会えました。皆怪我をしていましたが……」

「そうですか……。あ、今更ですけど、あなたのお名前は?」


 ……あれ。

 私、名乗っていなかったのか。

 ……そうだ。あの時、セリーゼが「あなたは?」と訊いてきたのに、急に連れ去られてしまったんだ。


「杏果です」

「キョウカさんですね」

「セリーゼさんと初めて話した時に訊かれたので、言おうと思ったらいきなり連れ去られて……」

「……そうでしたか? 私が名乗ったのを覚えているんですが、訊いたかは記憶にありませんね……」


 体感的に、これまでの数時間中に起こっていることのはずだけど……。


「そうそう、寝床はこのソファーを使ってください。毛布も用意しておきましたので。明かりは机の上のボタンで消えます。それでは、おやすみなさい」


 机上にある湯気の出ているコップを取り、セリーゼは自分の部屋に行ってしまった。


 …………。


 数秒後、部屋の扉から顔だけをひょっこりと出した。


「あ、飲み物はお湯を沸かしてコーヒーか紅茶でも何でもどうぞ。もし、シャワーを浴びたいとかありましたら、台所の奥にある部屋が浴室になってるので、そこで。それでは改めておやすみなさい~」


 そう言い、扉をガチャっとしめる。

 そしてまた扉を開け、顔を覗かせた。


「一応言っておきますが、私の部屋には絶対に入らないでくださいね? あと、好奇心とかで見てもだめです。わかりましたか?」


 私は小さく頷いた。


「はい、それでは、本当におやすみなさい」


 笑顔でそう言い、扉を閉めた。

 一体、この扉の奥には何があるのだろうか。

 真っ暗で何も見えなかった。


 ……気になって仕方がなくて、夜しか眠れなくなりそうだ。



 水中でシャワーを浴び、紅茶を一杯だけ飲んだ私はソファーに寝転んだ。


 うーん、やっぱりこの匂いが気持ち悪い。

 よくこんな家の中で一人静かに読書をできたものだ。


 寝て起きたら死んでいたなんてことないかな。


 机の上のボタンを押して目を閉じた。





 ――今の時刻はどのくらいだろうか。

 何故か目が覚めてしまった。

 十分に寝た気はしない。


 そういえば、セナはどうやって時間を確認していたのだろう。

 時計なんてあの家にはなかったし、ここにも時計らしきものはない。

 時間を確認する道具か何かがあるとか?


 ……会った時にでも話を聞いておこう。


「…………」


 ……うぅ、気になると眠れない癖がまだ残っているみたいだ。

 あの日の夜も、真二が何をするのかをずっと考えていて眠れなかった。


 結局、私はあの後どうなったんだ……?

 もう眠れる気がしなくなってきた。


 ……狭いソファーの上で寝返りを何度もうっていると、話声がどこかからか聞こえてきた。


『……数時間前、何故あの小娘を連れ去った。何故皆に連れ帰させた』

「い、いいえ……。皆怪我をしておりましたので……」

『戯け! 〝竜宮様〟は人間が牢獄にいなく、怒髪天を衝いていらしたぞ』

「も、申し訳ございません……〝カメ様〟……。」


 セリーゼのか細い声と、野太い男性の声が聞こえる。

 静かにソファーから起き上がり、扉近くで耳を澄ませた。


『よいか。竜宮様が次にいらっしゃるのは7日後の夜。それまでに全ての人間を牢獄に連れておけ!』

「は、はい!」

『……貴様はこの地を救う唯一の――――なのだぞ……! 分かっておるな?』

「……勿論にございます」

『ならよい……。7日後まで、人間に悟られるでないぞ……』


 その声は、離れるように遠くへと消えて行った。

 一体、何の話だろうか。


 人間を牢獄へ……?

 竜宮様? カメ様? セリーゼがこの地を救う唯一のなんだって?


 ……セリーゼの部屋に入りたい気持ちは山々だ。

 だが、今はやめて横になろう……。


 私の直観――シックスセンスが言っているのだ。


 『今はまだその時ではない』と――


 ……ちょっとカッコよくない?

次話もよろしくお願いいたします!

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