16話 『バラバラになってしまった』
扉を開けると、海の町が広がっていた。
その海の町は、ガラスのコップの中で守られている。
家は全て貝殻だ。
サザエだとか、ホタテガイだとか、変な形の貝だとか……そこらへん。
それに、人魚の下半身部分には様々な色がある。
形はほぼ変わらない。アクセサリーをつけてるかつけていないかくらいで判別するくらいだ。
……人間の姿は一つもない。
皆、そこらの貝殻の家で看病をしてもらってるのか。
そういえば、魚はどうやってこの空間を泳いでいるのだろう。
私は地に足をつけて歩いているというのに……。
不思議だ。
私の口から気泡が出ているから、水の中で間違いはないのだろうけど……。
目を開けても痛くないし、ほんの少し動きが鈍くなるだけで、そこまで変化がない。
あ、少しだけ空中での浮遊時間が長くなることも。
風はないが、水の流れが気持ちいい。
時々通る小さな魚が、私の肌に口先をツンツンするのがくすぐったくて仕方ない。
癒されるには癒されるけど。
……この中で、どこを探せばセナやマミが見つかるだろうか。
人魚に訊くのが手っ取り早いのだが、せかせかしているとこを訊くのはなんだか申し訳ない。
止まっている人魚でもいれば話は別だが、その人魚が見つからない。
勝手に家に入れば、きっと変に思われるだろうし、追い出されかねない。
どうしよう。
「あ、そこの方! ちょっと手伝っていただけませんか!?」
そういや人魚の数え方って『1人』で合ってるのかな?
『1人魚』の方が適切かな? いや、1匹でも通じなくはないなぁ……。
まぁなんでもでもいっか。
物資の詰められた箱を持たされ、その人魚についていった。
――巻貝のお家。
上に窓があるということは、二階建てなのだろうか?
物資を運び入れる。
中は物置のような部屋で、床にはいくつか布団が敷かれていた。
数人が横たわっているみたいだ。
……それに、ひと際目立つ髪型の人がいる。
見覚えのある姿だ。
「……キョウカ?」
白い髪の渦巻きなんて一人しかいないだろう。
「こんなところにいたんですね」
部屋にあった積み荷の上に箱を乗せる。
「うん。戻ってきたら海の中で、死ぬかと思ったわ」
そう言い、ため息を吐き出し胡坐をかいた。
「マミやメルとかは見つかった?」
「いいえ、私はさっき目が覚めたばかりで……」
「そう……よし、じゃあ探しに行きましょうか」
「え、早くないですか?」
「どうするかを話し合わないといけないからね」
セナは立ち上がり、大きく身体を伸ばした。
「ふー、さ、行きましょ」
扉に向かって歩きはじめると、部屋の中で看病をしていた人魚がセナを止めに来た。
「ダメですよ! まだ安静にしていないと!」
人魚がセナを布団に連れ戻す。
「ちょ、ちょっと! なにするのよー!」
抵抗するセナを押さえていた。
「ちゃんと看病が終わるまで待っていてください。お願いしますから」
「……分かったわよ」
急に物分かりがよくなる。
「キョウカ。連れてこなくてもいいから、皆を探すだけ探してきてくれないかな。私は許しが出たら外に出る」
「……わかりました」
こうなったら仕方ない。
セナ以外の人が重傷で、セナもその一人と思われているのかもしれない。
自由に動ける私が探すのは必然的だ。
……外に行くと、人間の姿がちらほら見受けられた。
治療が終わって出てきているのだろうか。
船員の姿があるということは、本当に皆ここに落ちてきたのだろう。
……ここ以外、町っぽい場所はなかったし。
それにしても、マミやメル、なつめの兄は何処にいるのだろうか。
見つけようにも、情報がないと何もできない。
人間に話を訊いてみよう。
そう思い、近くにいた女性に話かけた。
「すみません」
「何かしら?」
「でっかい鉄球を先端につけた武器を持った人とか、変な格好をしてる人とか、黒い物体見ませんでした?」
何か思い当たる節があるみたいで、手をポンと叩いた。
アタリを引いたみたいだ。
「あ、変な格好をしてる人なら私と同じ家にいたわ」
「ホントですか? そこです?」
「えーと、ちょっと遠いけど、あの家だったかな」
女性が指したのは、グラスの外壁近くにある少し大き目の青い貝。
いや元々大きいんだろうけど。
「ありがとうございます、行ってみます」
時間をかけてはいられないし、走って行くことにしよう。
◆
……走って行くのはよかったが、予想以上に遠かった。
水の独特な抵抗感が邪魔をして前に進みづらい。
思ってたより疲れた。
青い貝の家に入り、中を確認する。
殆ど人はいなかった。
残っているのはマミだけ。
皆、ばらばらの場所に行ってしまったらしい。
これ私が探さないといけないのか。
「あっ、キョウカさん。無事でよかったですね」
……マミの傷はまだ癒えていないらしく、人魚に看病をしてもらっていた。
包帯が色々な所に巻かれているみたいだ。
「知り合いですか?」
傍にいた人魚が私の目を見る。
「仲間です」
マミはそう答えた。
「あら……お仲間さんでしたか……。それより、人の心配より自分の心配をしてください。あなた死にかけだったんですよ」
そんなにひどい怪我をしていたのか。
「いやぁ、このくらい全然。今まで受けてきた心の傷よりは浅い方ですよ」
深いことを言おうとしたけど失敗した、若手の噺家感があるセリフだ。
「私のこと探しに来たんです?」
マミがそう訊いてきた。
「そうです。セナに頼まれて」
「他の方は?」
「まだですね」
「そうですか……私はまだちょっと動けそうにないので、メルさんやカナタさんを探してきてください。あ、カナタってあの黒くなってしまった人の名前ですからね」
そう言い、マミは横になる。
「すみません人魚さん。図々しいかもですが、耳をかいていただけませんか?」
マミが耳かきをポーチから取り出し、人魚に渡した。
「もう、仕方ありませんね。今回は特別ですよ」
そう言い、人魚は下半身の上にマミの頭を乗せた。
どんな感触なんだろう、あの下半身。
触ってみたい……。
セリーゼに頼めば触らせてもらえるかな……。
…………早く行こう。
聞き込み調査だ。
次話もよろしくお願いいたします!




