15話 『初めて見る海、あと人魚』
短めです。
「あの、聞いてますか?」
貝殻のアクセサリーを頭につけた、髪の綺麗な女性がそこにいた。
そこにいたというか、もう目の前。
顔をぐっと近づけてくる。
もうぶつかりそう。
「あ、あの、気づいてます」
「気づいてるなら早く言っていただかないと」
起きていきなりで、声が出なかったのだ。
それに、短時間で色々と起きて混乱がしている。
私、本当にあの後どうなったんだっけ……。
あれも昔の記憶だとしたら……日記には新しい記述が……。
「あの、本当に私のこと見えてますよね」
あ。
「すみません。考え事していました」
ところで、この女の人は一体誰だろう?
上半身、胸の部分に貝殻のブラジャーが、ぺったりくっついてるだけのように見えるけど。
あれ、下半身が……魚みたいな鱗がついてるような――魚そのもののような……。
もしかして、これがセナの言っていた『にんぎょ』って生物?
……そういえば、その肝心なセナは?
人影は……ないようだ。
周りを見回してみても、魚か水か、緑色のうねうねか……それくらいしか見つからない。
「人を探してるんですか? ここにはいませんよ。皆、町で保護しています」
「……そうですか」
ほっとした。
私一人だけというわけではなかったようだ。
「ええと、私はセリーゼ。あなたは?」
セリーゼ……聞き覚えがある。
確か、変な夢で聞いたような気が……。
あの青年との約束は、まだ果たせていないのだろうか。
「あの――」
「さぁ、行きましょう!」
「え、ちょっ」
話もさせてもらえず、抱きかかえられて運ばれた。
◆
海中の町――【グラス・イン】。
名前の通り、グラスのようなもので囲まれた町。
いや、まんまそうだ。
というか、海中にも関わらず、息ができているなんてどういう原理なんだ。
地面から噴き出ている空気の泡を吸っているわけではないのに。
町の中には、私を抱えている人魚と似たような形状をした男性や女性が沢山いた。
皆、あたふたしているみたいだ。
「今日は人間が沢山降ってきましたから、皆看病に勤しんでいるのです」
そう言い、私を空き家に運び入れた。
ピンク色の貝殻をモチーフにしている家らしい。
ちょっとかわいいって思った。
家の周りでうねうねしているのは、イソギンチャクという名前の生物だそう。
毒があるから、触らない方が身のためだと言われた。
そんな中でも、そこを住居にする魚がいるそうだ。
強い。
「ここでゆっくりしていてください。あ、奥の部屋には絶対に入らないでくださいね。私の部屋なので、とても散らかってるので」
セリーゼがそう言って指でさしたのは、奥の壁にぽつんと取り付けられたピンク色の扉だった。
部屋自体、本棚とか、机とか、ピンク色で染められているというのに、またピンク。
髪の毛は水色なのに、家はピンク一色。
本棚には数冊しか入っていないし、どこにも目立った汚れもない。
本当にここに生活しているのだろうか。
……そうだ。
マミは? セナは? メルは? あとなつめの兄は?
『今日は人間が沢山来た』、そう言っていたのだから、きっとこの町の中にいるだろう。
他の町の可能性も考えられなくはないが……。
同じ船だし、そこまで離れてはいないと考えている。
体が動かないというわけではないし、書置きでも残して、皆を探しに行った方がいいだろう。
その方が、私の為にもなる。
次話もよろしくお願いいたします!




