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引きニートの兄を更生させるために異世界転生  作者: 桜木はる
第3章 【裏世界のおはなし】
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9話 『別れはあっさりと』

 港町に到着した。

 とても賑わっているみたいだ。

 あの踊り子も元に戻っている。

 相変わらず、片方にしか人は集まっていないが。


「17時の船で行くわよ。夜行になるけどいいよね?」


 セナが、長方形の紙をひらひらさせながら聞いてきた。


「はい」


 と、少しそっけない返事をした。


「そういえば、シルスはどうするのよ。これから」


 エルフの神様と自称するその子は腕を組んだ。


「私は――元の世界に帰ろうと思います」

「……そうよね。だと思ってチケットもシルスを抜いた分だけ買ったわ」


 得意げな顔で、両手を腰にあてて肘を張っていた。


「キョウカさん……の刻印も既に消えてると思うので」


 シルスが苦笑してそう言った。

 刻印? 何のことだろうか。

 この町にきてからシャワーを浴びたが、そのようなものは見受けられなかった。


「それじゃ、17時までそこらへんでお茶しましょう。あと2時間くらいだし」


 そう言い、セナさんが先導してカフェに入る。


 店内は、お客さんの他愛ない会話でにぎわっていた。

 白を基調とした清楚な店内で、丁寧に清掃のされた床、テーブルなどがある。

 全て木製のようだ。


 店員に案内され、6人は各自席についた。

 マミさんとセナさんの間に黒い物体をはさみ、メニューを開いて見ている。


 私を挟むように、左にはシルス、右にはメルという女の子がいる。

 メルがメニューを取り、私に肩をくっつけた。


 机の上でメニューを開き二人は顔を寄せる。


「縺ェ縺、繧は何が良い?」


 メルが何かを言った気がしたか、聞き取ることが出来なかった。


「キョウカさん……」


 シルスが私の名前を呼ぶ。


「シルスさん! キョウカじゃないよ、縺ェ縺、繧だよ!」


 また変な言葉を発した。


「いい? 杏果。前身はもう、殆どが破損してるのよ」


 セナが鋭い目つきで私を見てくる。

 そうか、ファイルが壊れたとか言っていた。

 前身……、つまり、なつめという人物が無きものになっているということだろう。


 名前が消えてしまったのか。

 ()だけを残して。



 ……店員に注文を済ませた私たちに、セナが話をかける。


「船に乗ってからは5人になるわ。次の大陸は、海と暮らす大陸【セリーゼ】。童話に出てくるような人魚と、大陸に住む人間が共存する幻想的な場所よ」


 にんぎょ……?

 一体どんな生物なんだろう。

 童話に出てくると言っていたが、読んだことがないため想像がつかない。


「にんぎょってなんですか?」


 私がそう訊くと、セナはため息を吐いた。


「人魚も知らないのね……。一体どんな環境で育ったのかしら……」


 どんな環境って……そういえば私、真二に運ばれる前まで、どこにいたんだろう。

 制服で町に倒れていたところまでは覚えているが、その前の記憶が一切ない。

 私は一体、どこから来たのだろうか。


「とりあえず、次の大陸はそこ。比較的安全な場所な設定のはずだけど、何があるか分からないから気をつけないといけないわ」


 セナは自分の前に運ばれてきたオレンジジュースを、ストローで飲みながらそう言った。

 私の前には、パフェという、ガラスの入れ物に入った食べ物が届く。


 小さく細いスプーンでクリームを掬い、口元に運ぶ。

 それを口にすると、甘い香りが口の中に広がり、鼻を突き抜ける。

 美味しい以外の言葉が思いつかない。


 パフェを綺麗に食べ終え、謎の端末で時間を確認したセナが店員を呼びつける。

 会計を済ませるらしい。

 いつの間にか、他の人は飲食を済ませていたようだ。


 セナが全員分のお金を支払い、そのカフェを出て行った。


「さて、早く船着き場に行くわよ。出航まであと30分。早めに乗って、部屋に荷物置きましょ」


 最初の来た船着き場に向けて歩いた。

 海でとれた魚を売る商人、何かの道具を売る商人など様々な人がいる。

 怪しげな薬を売っている人も……。


「さ、着いたわよ」


 船に渡る橋の前には、船員かと思われる、いかりが描かれた白いベレー帽をかぶった人がいた。

 セナはその人にチケットをみせる。


「それでは、私はこれで失礼します。お気をつけて」


 シルスは会釈をして、風のように立ち去ってしまった。

 別れの言葉を言う隙すら与えてくれなかった。


 橋を渡り、その人に案内されるがまま船内の部屋に入る。

 部屋は少し広めな5人部屋だった。


「これからは自由時間よ。船を見回るもよし、寝て休憩したっていいわ。ただ、絶対に船からは出ないこと」


 セナがそう言うと、黒い物体は自分のベッドですぐ眠り始めた。

 メルは帽子と重そうな杖をそっとベッドに置き、近くの丸い椅子に座る。


「マミ。……なつめ。話があるから甲板に来なさい。後ろの方で待ってる」


 セナはそう言って部屋から出て行った。


「行きましょう、なつめさん」


 二人は、前の名前を普通に呼べるようだ。

 マミは扉の方に行くと、手招きをして私を呼んでいた。


 一体何の話だろうか。

 既に、色々と話したとはおもうけれど、まだあるらしい。

 ……何はともあれ、行ってみることにしよう。

次話もよろしくお願いいたします!

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